『威療士/レンジャー・ファミリー』の登場人物がメタ的に用語解説していくショートストーリー

ウツユリン

第1回 威療士って何ぞや?

「――みなさ~ん! いつも『威療士レンジャーファミリー』応援、ありがとう~。“みんなの機母おかあさん”、ルヴリエイトよ。ルー、って呼んでくれるとうれしいわ」


「……あのさ」


「ちょっとまってね、エリーちゃん。イントロまだ終わってないから。……こほん。ここでは、作中に登場するやたらと多い専門用語とか設定を、ワタシたちが解説していくコーナーです。プロに訊け! っていうスタンスね」


「いや、だからさ、ルー。なんなの、この『メタ的に用語解説』って」


「う~ん、ワタシも実はよくわかっていないんだけどね。なんか、第四の壁っていうのかしら? それをブチ抜いていけ、って言われたの。ほら、エリーちゃん、壁をブチ抜くの、得意じゃない。こないだも、救命活動中に要救助者宅の屋根、突き破ったでしょ。お小遣いから引いておきますからね。あ! でも、きょうの解説をエリーちゃんがやってくれるなら、今回は免除してもいいかな~?」


「んぐっ……。わぁったよ。いろいろ突っこみたいとこがあるけど、どーせ答えないんじゃん?」


「さっすがエリーちゃん! だって、ワタシの台本、ほとんど読み終わったんですもの。あとはアドリブで尺をかせがなきゃね」


「ルーさ。報道プレスにでも転向したら?」


「もぅ、なぁに言ってるの。ワタシは、威療士随行支援知性R.A.I.である以上に、このジョイナー家のおかあさんです。考えてごらんなさい。ワタシがいなかったら、だれがエリーちゃんの部屋を掃除するの? 一人でできるのかしら?」


「……あー、で、あたしはなにすりゃいい? 用が済んだんなら、ランニングしてくるけど」


「やだ、はぐらかしたわね、エリーちゃん。トレーニングはあ~と。きょうは、威療士レンジャーについて、エリーちゃんから解説してもらうんだから」


「威療士? そんなの、“腹ぺこ”の命を救う仕事に決まってんじゃん。よし、以上。じゃ――痛っ! マニピュレータで叩くの、反則だってば!」


「エリーちゃん。アナタ、史上最年少の威療士でしょう。そんなんでホントにいいかしら? 独り立ちして、ロカみたいな威療士になりたいんでしょ。だったら、もっとしゃきっとしなさい」


「……それ、ロカに言った?」


「いいえ。でも、自分で言いたいのなら、こういう広報の仕事もきっちりこないしてみせなさい。将来、チームメイトを持ったら、ぜんぶ自分でやらないといけないんだから」


「あたし、一人ソロでやっていくし」


「エリーちゃん?」


「はいはい、わぁったって」


「それじゃあ、よろしくね。……そうそう、匿名のファンから『名前と愛称が一致しない』って意見があったから、ちゃんと自己紹介してからね?」


「まじ?」


「マジ。さ、エリーちゃん。自己紹介と、威療士の解説、よろしくぅ」


「はあ。……あたしは、リエリー・ジョイナー。もうちょいで16歳になる」


「若いっていいわね……」


「ちょっとルー! てか、ルーに歳、関係ないじゃん」


「ごめん、ごめん。つづけて」


「あー、それで、あたしは11歳から威療士やってる。だから威療士歴は5年ちかくになるか」


「エリーちゃん、年齢とライセンスの解説もお願いね」


「はいはい。威療士ライセンス取ったのが11歳。あ、だけど、あたしはなりたくてライセンス取ったから、べつに、このルーに無理強いさせられたわけじゃない」


「もぅ、人聞きが悪いんだから。ワタシは人じゃないけれどね」


「出た、鉄板ネタ」


「こほん。補足するわね。エリーちゃんがライセンスを取得するまで、このザ・ステイトには威療士ライセンス取得の年齢制限がありませんでした。そりゃあそうよね。お偉いさんだって、まっさかプライマリースクールの年頃の子が威療士を本気で志すなんて想定していなかったでしょうし」


「しかも一発でパスしたし?」


「そうよ! あのときの彼奴ら……こほん、役人たちの顔、いま思いだしても最高よね」


「お、ブラック・ルーが出てる」


「や、やめて! そういうの、すぐネットで拡散されて定着するんだから」


「で、まあ、その役人が大慌てでルール変えて、今じゃ、16歳にならないとライセンス試験を受けられなくなったわけだけど」


「癪だけれど、妥当な対応よね。威療士の仕事は、いつだって命がけだもの。小さい子がやるものじゃないわ」


「べつに生身で〈ドレスコード〉するんじゃないんだし、やる気がありゃ、歳とか関係なくない?」


「大ありですっ。〈ユニフォーム〉を着てるからって、涙幽者スペクターの攻撃がぜんぶ防げるわけじゃないでしょう。いまだから言えるけど、最初、ワタシたちがどんだけ心配してか、わかってる?」


「だけどほら、今も五体満足じゃん?」


「エリーちゃん! 油断は禁物!」


「油断なんかしないってば。〈ドレスコード〉で気が緩むのは、鍛錬が足りてない証拠。それと経験不足」


「エリーちゃんったら……。威療士のみんながみな、アナタみたいじゃないの。色眼鏡はだめよ? ……あらら」


「うっし、出動要請。じゃ、準備してくる」


「仕方ないわねぇ。ほとんど解説できなかったじゃないの。……みなさん、ごめんなさい。だけれど、これが威療士という仕事なんです。ワタシたちは、どんなときでも、命を救うことを最優先する。それだけでも知ってくれたら、うれしいわ。じゃあ、また次回!」

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