フィリア編

雰囲気だけは清純派

 無言で夜道を歩いていた。

 隣には変装したリディアがおり、俺は手にしていた酒をぐびり。


 まあなんだ、今から宿屋で思いっきりヤろうって話だ。


 いつもの酒場で飲んでいたら、レネがやってきてトゥエリが誘拐された。妹のフィオが怒り出して怖いとかなんとか。そんな訳で二人っきりになったんだが、別にどうこうしようという話もなく無言で金を置いて出てきた。

 腰元はすっかりその気で、頭の中は桃色状態。

 リディアもそうなんだろう、外でべたべたしてくることはないんだが、頬が上気していて、さっきから吐息がエロい。

 こう、なんというか、お互い無言で察して、なんとなく無言のまま向かう時ってあるだろう?

 こういう時のもどかしさというか、前戯にも似た距離感は助走を付けるのに似ている。

 いざ場所まで辿り着いた途端に爆発して、互いに貪り合うのが今からでも想像できた。だからこそ余計に興奮する。

 下手に手なんぞ触れようものなら、そこらの物陰で始めたくなるから、微妙な距離を開けて歩いているんだが。


 ふっと、隣に居た筈のリディアの姿が消えた。


 何だと思っていたら反対側から声が来る。


「きゃーーーーっ、ロンド様ぁ……!!」


 突拍子も無いその声の主は、魔術師で、リディアのパーティメンバーの一人で、先だって迷宮での希少種狩りへ同行したギルドの仲間でもあり、オリハルコン級のランクを持つ女。


 フィリア=ノートレスが一目散に駆けてきて、俺に抱き着いて来た。


 正直、勃った。

 いやだって俺はもう爆発寸前だったんだ。

 早く宿へ駆け込んでリディアを堪能したい、そんなエロい思考で漲っていた所へ決して悪くはない女体との接触だ。興奮しないでいろという方がどうかしている。

 いるのだが、何故かフィリアの背後に回り込んで幻影を解いたリディアが親の仇でも見る様な目でこっちを見てくるんだ。

 勘弁してくれ。

 俺だって本意じゃないんだ。

 早くお前を抱きたい。だからこの、お前んトコの問題児の一人をどうにかするからちょっと待っててくれ。


 訴えが通じたのか、とりあえずリディアは姿を消してくれた。


「……何の用ですか、フィリア=ノートレスさん」

「あらやだ、そんな他人行儀になさらないで。同じ湯に浸かった仲じゃありませんの」


 待て、今その話題は拙い。

 迷宮でのアレコレはエレーナも絡んでくるから適当に話してるだけなんだ。変な誤解を生むだろう助けてくれ。


 しかもフィリアが俺の胸元を撫でてくるもんだからもう、もう興奮した。


「あら? あらあらあらぁ?」


 気付かれた。

 やばい、もうしんどい。つらい。かえりたい。


「うふふふふふふふふふふふふぅっ」


 にんまり笑ったフィリアが余裕顔で身を離し、妙に艶っぽい目を向けてくる。何企んでるだよこの女。

 そうして唇を舐め、潤いを増したそこに指先をやりながら俺を観察してきた。


 なので手っ取り早くその顔を覆う様に掴んだ。


「あーんっ、ロンド様の興奮したご様子が見えませーん」

「別にお前に興奮した訳じゃないから」

「だったら他の何にそんな大きくされていますの。他に誰も居ないのにっ……にっ」


 ツン、なんてやってくる背後でまたリディアが幻影を解いてるんだよ。

 おかげで縮んだわ。


「用件を言え。挨拶なら間に合ってる。俺は用事があるんだよ」

「あらあら素っ気無い。でもそうですね、ご機嫌を損ねたい訳ではありませんので、分かりやすくお伝えしましょうか」


 そうしてフィリアは両手を組み合わせ、俺へ一歩踏み込んだ上で潤んだ瞳を向け、けれど一度伏し、そこから上目遣いに見てきた。


「ロンド様……」


 不思議と澄んだ印象を与えてくる声で、


「お金。お金を貸して下さい。おねがい☆」


 普通に俗いことを言ってきた。





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