第39話 結果発表と、ことの顛末
僕がランウェイを戻るとみんながこっちをじっと見て固まっていた。
(あんなことしてみんな怒ってるよね……)
「ごめんみんな! 最後に変なことしちゃった……」
僕はすぐに頭を下げて謝る。
するとみんなが僕を取り囲んだ。
「い、
「わ、私にもしてくれないだろうか!?」
「景凪にも景凪にもー」
「わ、私にもして欲しいなー、なんて……」
(ええ、思った反応と全然違うんだけど!?!? さてはあれだな? もう一回させて僕を恥ずかしくさせようとしているんだな……)
「ごめん、もう絶対やらないからほんと許して!!」
「「「「え」」」」
驚いた表情でみんな固まってしまった。
(あれ? 本当にみんなして欲しかったのかな……?)
「皆さん、ラストステージが終わったので結果発表はすぐあります! ステージに向かいましょう!」
垂水さんが僕らに声をかけてくれた。
「みんな結果発表だって! 早く行こう!!」
「うん……」
「うむ……」
「ん……」
「むぅ……」
なぜか元気のないみんなを僕はどうにかしてステージまで移動させたのだった。
○ ●
『それでは第36回 東京ティーンズガールズコレクションの結果発表をいたします! 今回の映えある優勝ブランドは……』
数々のモデルがステージに並ぶ中、僕もその一員としてショーの格好のまま並んでいた。
僕はさっきの失敗で頭がいっぱいになっていた。
(途中まで良かったのに僕のせいで台無しにしてしまったなぁ……はぁ、やらかした)
『優勝ブランドは……2位との圧倒的大差をつけた「V‘s」です!! テーマの「Variation,変化」に相応しく、歩く中で様々な変化を見せて観客や視聴者を楽しませたことが結果に繋がったのだと思います! 優勝おめでとうございます!』
(はぁ……、優勝はV‘sかぁ……。V‘s? ん!?! V‘s!?!?!)
「ええええええええぇぇぇぇえぇえええええええぇぇ!!!!」
結果を認識した僕は思わず叫んでしまった。
周りの人全員がこっちを見る。
(うるさくして、すみません……)
ぺこりと僕は頭を下げる。
『そのまま個人のMVPの表彰も行います、これは最も推されたモデルへの賞となります。MVPはなんとなんとなんと!!
(
「え、え、え、ええええええええええええええええええええ僕!?!?!?!?!」
『おおっと
またも驚きのあまり発狂してしまう。
つい僕って出ちゃったけど司会者さんが僕っこ認定してくれたおかげで助かった。
というか僕なの!? 僕、男だよ!?
『それでは「V’s」の皆さんお越しください』
僕たちは表彰されるために前へと出る。
『デザイナーさんはいらっしゃらないようなので代表してMVPでもある
両手にトロフィーを受け取る。ずっしりと重い。
これが誰かに評価されるということなのかと思うと喜びが込み上げてくる。
「ひ、一言ですか。コホン……そうですね。投票して頂いた皆さん本当にありがとうございました、皆さんが楽しんで頂けたことがなにより嬉しく思います。そしてそれを支えてくれた友達みんなにも感謝しています。また、ガルコレに関わってくださった皆さんも本当にありがとうございました!」
『それでは皆さん拍手をお願いします!!』
僕は両手にトロフィーを抱えてながら頭に冠をつけて喜びを噛み締めていた。
みんなはそれぞれ副賞を抱えて嬉しそうにしていた。
最後に観客をバックに、モデル全員を交えた記念写真を撮ってガルコレは終わりを迎えた。
● ○
ガルコレを終えて僕らは控え室に戻った。
「ふぅ、終わったぁ」
「景凪、そのままソファで寝ちゃダメだよ。帰らなきゃいけないんだから」
控え室に入るや否やソファで寝転び出した景凪を僕は注意した。
「終わったけど気になることがあるのよね」
「ああ、パクリ疑惑とモデル2人の所在だな」
「うん、気になる……心配だよ」
そう、ガルコレはなんとか無事に終えたけどまだ解決していない問題があったのだ。
僕らが悩んでいると控え室の扉がノックもなしに開いた。
「あなたたち!? ワタクシのお洋服のデザインをパクったでしょう!?!?」
すごい剣幕で脂汗をかきながら入ってきたのは三華さんだった。
「こっちも聞きたかったかったんだけど、それはあんたでしょ」
「あれは伍くんが作ったものだ。現にクオリティは段違いだっただろう?」
「ぐ、たしかにクオリティは負けていたかもしれません……」
三華さんは苦い顔をしていた。
「クオリティだけじゃなく、仕掛けもそちらにありませんよね?」
「仕掛けもワタクシにはありませんでした……、あんな小細工をして小賢しい真似を……。まさか! ワタクシのヒールに細工して転ばせたのもあなたたちね!?」
急に話が飛躍した、もうなにを言ってるのか僕にはわからなかった。
「いや、それはあんたの自業自得というか……」
「私たちはなにもしていないぞ」
「それはおばさんが太っただけじゃん」
「け、景凪さん!」
姫路さんや宝塚さんが言いづらそうにしてる中で、景凪は言ってはいけないことを言ってしまった。
またも垂水さんが止めようとするが遅かった。
「きいいいいいいい、ワタクシが太ったですって!?! ま、まあ、たしかにほんのちょこっと太ったかもしれませんがそんなことで転ばないでしょう!?」
「ちょっとどころじゃないから転ぶんだよ、おばさん。鏡みよ? それか今日のコメントみた方がいーよ」
景凪が三華さんをこれまでにないほど煽る。
パクったことをよっぽど怒っているんだと思う。
「きいいいいいぃぃ、一度ならず二度までもおばさんだなんて!! 許せない許せないですわ!!」
三華さんが景凪に飛びかかろうとしたその時だった。
「すみません!! 大変お待たせしました!!」
「お待たせしましたー!!」
今日ショーに出てもらう予定だったモデルの二人が楽屋に現れた。
しかも男性を四人連れて、一人は縄で縛られていて残りの三人に運ばれていた。
どういう状況だ? それにあの三人は……。
「お二人とも無事だったんですね!? 連絡がつかないから心配しました……一体、なにがあったんですか!?」
垂水さんが二人に駆け寄った。
「それはこの男の人がタクシードライバーになりすまして私たちをガルコレに参加できないようにしていたんです!! そんなところを金剛さんと雷太さんに風太さんに助けて頂いたんです、それでようやくここまでこれたんです……」
聞き覚えのある名前がしたぞ。
「ん? やっぱり金剛くんたちだ!」
「初めまして、かわいいお嬢様。どうも金剛です」
「金剛くん、僕だよ僕!」
「僕? はっ……その声はまさか逆瀬川さん!? どうしてそんな格好を?」
僕のことに気づいた金剛くんが目を丸くしていた。
「まぁ、これには色々あってね……。いつか話すよ。それにしてもどうしてみんながここに?」
僕の状況を話すよりも事情を聞くことが先だった。
「そうっすね……俺たち真の男になろうと心を鍛えるために滝行をしに山に入ってたんですけど、そしたらなんか不審なタクシーがあって中の様子もおかしかったんで助けに行ったんすよ」
「突撃してとっ捕まえたらよぉ、女の子たちはガルコレ? ってのに参加しないといけねぇってことでバイクで飛ばして来たっつーわけ。男も置いていくわけには行かなかったから一緒によ。でも間に合わなかったみたいだけどな」
「雷太、逆瀬川さんにその口の聞き方は良くないぞ……」
「いいんだ風太くん。そういうことだったんだね……みんな、ありがとう」
「逆瀬川さんのおかげで俺ら心を入れ替えて人助けするようになったんす、だから礼はいらないっすよ」
だいたいの流れはわかったけどひとつ分からないことがある。
(どうして二人が狙われたんだろう?)
「あなた
三華さんが男に詰め寄っていた。
(なるほど、話が見えてきたぞ……)
縄で縛られ気絶している男を叩き起こして、事情を洗いざらい聞いたのだった。
西脇から聞いた話はこうだ、三華さんの納得するデザインを思いつかず追い詰められた末に他のアトリエからデザインをパクった。
それが僕のデザインした服だったというわけだ。この時期に制作をしているのでまさかガルコレに出場するんじゃないかと思い運営からブランドとモデルの極秘情報を盗み出したらそのまさかで、自分がパクったデザインがガルコレに出るブランドだったということを知ったようだ。
モデルに欠員が出ればショーに出場出来ないだろうと考えた西脇は、当日はモデル事務所の前の寮に張り付いてタクシードライバーになりすまして、二人を遠くまで運んだとのことだった。
ショーが終われば二人を帰すつもりだったそうだ。
全ては西脇の独断による犯行で三華さんは指示した訳ではなかったという。
そして話を聞いた僕らは通報して、駆けつけた警察に西脇は連行された。
デザインをパクられた原因と、モデル二人の行方が分かった僕らはひとまずホッとした。
こうして激動のガルコレは本当の意味で幕を閉じたのだった。
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