第14話 来ちゃった



 「今日は久しぶりに星月かぐやちゃんの配信でも見ようかな」



 

 アスタリスクとの仕事が終わった夜のこと。

 家に帰ってから一息ついた僕は、手にしたスマホを操作していた。




 そう、僕はスマホを手にしたのだ!

 もちろん、自分専用のスマホだ。



 

 それは、仕事から帰る間際に明日花さんから手渡されたものだった。




 『あ、伍。あなたスマホ持ってないんでしょ? こ、これから仕事の依頼をすることもあるかと思うから、ほらこれ持ってなさい。お金のことなら気にしないで私が月々払ってあげるんだから! わ、私の連絡先も入ってるから、たとえ仕事じゃなかったとしても連絡してきてもいいんだからね?』




 半ば強引に渡されたけど、僕にとっては非常にありがたかった。

 それにお金まで払ってくれるのだという……。




 もしかして、僕って芦屋家のヒモ?

 だめだだめだ、これもいつか自分で払わないと。 

 



 「自分のスマホって嬉しいなぁ。待ち受けが変更できないのだけが難点だけど」




 受け取った時にはすでに待ち受けが明日花さんでびっくりした。

 変更しようにもロックが掛けられてて変更できずにいた。

 


 うーん、まぁ、いいか!






 「配信見るの何年ぶりだろ? サポートが忙しくなってから見れなくなってたんだよな」




 『はーい、星月かぐやだよ。今日はねー、ワインクラフトをやっていっくよー』




 「あ、ちょうど始めたところみたいだ。タイミング良かったー。にしてもワインクラフトか、まだ人気なんだあのゲーム」




 ワインクラフトとは、ブドウ農地から酒蔵までを自分で建設し極上のワインを作るというオープンワールドなゲーム。通称ワイクラと言われている。

 古くからあるゲームだけど、アップデートを繰り返して今なお人気のゲームみたいだ。




 『はーい、前回の配信で手に入れたこの極上のブドウを使ってワインを作っていくよ!!』




 今、話しているかぐやちゃんが姫路さんだなんて不思議な感じだ。



 

 『みんな聞いて聞いて! 前回の配信を見た人は知ってるかもしれないけど。これね、ステータスの高いワインを作れる超すごいブドウなんだけど、一見すると普通のブドウとグラフィックの見分けが付かないから、手に入れるのが大変だったんだよぉ!』




 「あ! かぐやちゃん危ない!」




 かぐやちゃんが操作しているキャラがブドウを持っていたところに、敵キャラが出てきてブドウを奪っていってしまった。




 『あ、あれはこの極上のブドウを手にしたときに現れる金の猫又! ゴールデンツインテール!! なんなのあの泥棒ネコ! あのブドウは私のなんだから! 絶対に取り返すもん!!』



 

 「あれ、かぐやちゃんってこんなに怒る感じだったけ」




 コメント欄を見てみると


・泥棒猫てww

・ブチギレてね?

・顔真っ赤で草

・怒ってるかぐやちゃんかわいい



 などといったコメントが流れていた。



 そこからは金の猫からブドウを奪い返すためにそれをかぐやちゃんが追いかけたり、バトルをしたりしていた。

 このゲームは敵キャラと戦えるのも魅力なんだよなー。




 「かぐやちゃんってゲーム上手いはずなのに簡単に捕まってくれない、このゴールデンツインテールは相当強いんだな」




 そして、一時間ほどして金の猫からなんとかブドウを取り返してその日の配信は終わった。




 『今日の配信はここまで! じゃあまたねー』




 「ふぅ、久々だったけどやっぱり面白かったな。また時間がある時に配信を観にこよっと。もうこんな時間だし寝るか! あー、それにしても、明日は姫路さんに会って謝らないといけないんだった……」



 配信を見終わって満足した僕は、約束を破ってしまった姫路さんに明日どう謝ればいいか頭を悩ませながら眠りについた。

 


 

 ○ ●



 

 「ということがあったんだ……昨日はごめんなさい!!」



 

 次の日、僕は屋上で姫路さんと話していた。

 昨日あれから起きたことを説明したあと、一緒に帰れなかったことを素直に謝った。

 



 「そうゆうことだったんだね……全然いいよ。気にしないで! 付き合ってってそういうことじゃなかったんだ……良かった……」





 姫路さんはなぜかホッとしていた。

 とにかく怒ってないみたいで安心した。



 

 「今日こそメイク道具を一緒に見に行こうか! 臨時収入も入ったしお詫びに僕が何か買ってあげるよ!」




 「メイク道具は見にいきたいけど、買ってもらうのは悪いよ! 私の物は私で払うから、ね? せっかく逆瀬川くんが頑張って稼いだお金なんだから、それは大切に使わなくちゃ」



 

 「うーん、じゃあ駅前のドーナツ奢らせて? 前に一緒に行けなかったし、それくらいだったらどうかな?」




 「くっ、ドーナツ! でも……」




 姫路さんは奢ってもらうか、もらわないかを心の中でせめぎ合っているみたいだった。



 ううぅと眉間にしわを寄せ、唇も少し尖らせながら考えている

 かわいいな、おい。


 

 「一緒にシェイクも買ってあげるからさ」



 「おねがいします!」




 ダメ押しの言葉で姫路さんは陥落した。

 ホントに甘いものが好きなんだなぁ。



 

 

 ○ ●




 その次の日の朝、登校して教室に着くと何やら生徒たちが騒がしかった。



 「朝、見たんだけどまじかな?」


 「似てるだけでしょ」


 「あれは本物だって、こないだも見たもん」


 「マジか、だったらやばくね?」



 話を聞くところによると、みんなはなんだかすごいものを見たらしい。

 具体的なものまでは分からなかったけど。



 チャイムが鳴り、先生がドアを開けて入ってきた。

 


 

 「おーい、みんな席につけこのクラスにまた転校生が来るぞ」




 え、僕が転校してきたのもついこの間だよね?

 自分でも言うのもなんだけど、転校生?




 「失礼します」




 入ってきた人物を見て驚愕した。

 それは僕のよく知っている人だった。



 「初めまして、夢越学園から私の都合で転校してきました。芦屋明日花です。皆さんよろしくお願いします」




 「「「「ええええええええええええええぇぇぇ!!!!」」」」





 「本物だ」


 「朝見たのって間違いじゃなかったんだ」



 トップアイドルグループ『アスタリスク』のセンター、芦屋明日花さんその人だった。

 教室中がパニックになったんじゃないかと思うほどの騒ぎに包まれる。




 そんなことは、お構いなしに明日花さんは僕をじっと見ていた。




 「はい、静かにー、みんな仲良くしてやってくれよ。芦屋の席は……逆瀬川の隣が空いているな。あそこに座ってもらおうか」




 (え、僕の隣ですか!?)

 



 「逆瀬川ずるい」



 「姫路さんと芦屋さんに挟まれてるなんて」




 みんなから強い嫉妬の眼差しを受ける。

 なんだこれ、どうゆう状況?




 明日花さんは隣の席に座ったあと、僕の方を向く。



 


 「へへ、来ちゃった」



 舌をぺろりとだしてイタズラな表情を浮かべる明日花さん。



 (ぐ、、かわいいすぎる。かわいいすぎるけど!!!)



 「来ちゃったじゃないですよ!!」



 「いいじゃない。伍と一緒の学校に通いたかったの……。今度は逃がさないんだからね?」



 「は、はぃ……」



 (そこまでして僕にサポートして欲しいのだろうか? アスタリスクは僕がいなくても十分すごいっていうのに)




 「それと、姫路さん。今後ともよろしくね?」



 明日花さんは、僕越しに姫路さんに声をかけた。

 



 「はい、よろしくお願いします」



 姫路さんがにこやかに言葉を返した。



 

 「ふふ」



 「ふふ」 




 「「ふふふふふ」」



 

 二人とも笑顔だけど、なんだか怖い!

 月夜さんはどうして初対面の人なのに普通に話せてるの!?




 というか、僕の普通の高校生活はいったいどうなるんだ!?



―――――――――――――――――――

【あとがき】

ここまでお読みいただきありがとうございます!

明日は元家族sideを2話更新します!


「楽しかった」

「続きが気になる」


と少しでも思ってくださった方は作品をフォローや、下の+⭐︎⭐︎⭐︎から作品を評価、レビューでの応援をいただけると非常に嬉しいです。

 





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