第5話 再会




「また、会っちゃったね」

 


「……はい」


 

 学校の屋上で、僕は姫路ひめじさんと二人きりで仲良くお昼ごはんを食べていた。



 どうしてこんなことになっているかというと、話は少し前にさかのぼる。





 ◯ ●






 朝、僕はベッドから体を起こし時計を見る。




「ええっと、今何時だ? え、まだ朝の4時?」




 姉妹をサポートしてた時は徹夜続きはザラで、寝れたとしても3、4時間程度だった。

 ショートスリープがクセになっていた。



「登校まではまだまだ時間あるし、ストレッチしてからランニング、筋トレして、朝ごはんを作ってついでにお弁当まで作っちゃお! 忙しすぎてできなかったことを少しずつ取り戻すぞ!」



 それから僕は、日課である体作りと久々に自分のための料理をした。



「最後に鶏そぼろをご飯にまぶして、完成っと。タンパク質に脂質、糖質はこれくらいで栄養のバランスもいい感じだな!」



 彩りが鮮やかかつ栄養満点で自分でも納得のいく朝ごはんとお弁当が出来上がった。

 


「運動後の栄養補給しなくちゃね。はー、ゆっくり朝ごはん食べる時間があるなんて最高! でも時間が結構あまりそうだな……。こういう時にスマホがあればなぁ、時間もあるから久々に星月かぐやちゃんの配信を見れるというのに……」



 星月かぐやちゃんとは昔から僕が推しているVtuberだ。



 Vtuberというジャンルがまだ世間に浸透していない初期の頃から活動している。

 小さくてかわいい、お姫様のようなV体でそれに合った甘い可愛らしい声が魅力だ。



 ゲームや雑談配信を主にしており、ただただひたすらにかわいい感じが見ていて庇護欲ひごよくを狩り立てられる。


 母や姉妹からのいびりを耐える中で、僕の唯一の癒しが星月かぐやちゃんの配信や動画を見ることだった。



 最初の頃はチャンネル登録者が僕含め数人しかいなかったんだけど、僕がサポート業が忙しくなって見ることが出来なかった数年の間に登録者数100万人超えの超人気Vtuberになっていた。




「でも見れないものは仕方ないか……はぁ」




 やることがなくなった僕はただぼーっとして時間を潰した。




 まぁ、こういう時間も貴重だよね?  





 ○ ●




 そして、僕はいま教室にて黒板の前に立っていた。


 


「○△高校から転校して来ました、逆瀬川伍です。よろしくお願いします」


 


 余計な波風を立てないために、夢越学園出身であるということは伏せることになった。

 これも理事長の計らいなんだとか。




「前髪で顔が見えづらいけど結構カッコイイかも」 

「え、小さくてかわいい系でしょ」

「あれが男? 声高くね?」 



「はいはーい、みんな仲良くしてやってくれよー。逆瀬川の席は……っと、姫路の横が空いているな」



 姫路? 聞いたことある名前だな……。



「あ!」

 


 先生が示した方向を見ると、

 なんと、そこには昨日知り合ったばかりの姫路さんが居た。



「どうした? ははん、分かったぞ、姫路が美人過ぎて驚いているんだろ」


 

「まぁ、そんなところです」


 いえ、見当違いです。



 

 知り合いが居たら誰だってびっくりするだろう。


 まあ、姫路さん美人というのは間違いないですけど。




 

 指定された席に移動する。


 座席に行くまでの通路に、にやにやと笑みを浮かべながら足を放り出している男の子がいた。





 僕は男の子の考えを即座に理解し、なにごともなかったかのようにその足をまたいで素通りする。 




  

「お、おい!」


「どうしたの?」


「テメェ、ナメてんのかよ!」


「ナメてなんかないよ。ビリビリに破れていたそのズボンをお直しはしたけど……」


「はっ!? なんだこれ!」


「膝にはトラさん、太ももはハチさんのアップリケをつけたをつけたんだけど……。ごめん、クマさんが良かった? それともゾウさんだったかな……」



 撮影のときに衣装を現場でサイズを微調整したり、たまに衣装のデザインも手伝うことがあるから、僕は裁縫が出来る。

 今期のGUGGIをイメージしたんだけどダメだったのかな?


 

「ワザと破いてダメージ入れてんだよ! 直してんじゃねぇよ!」



「え?」



 足を出してたのは、破れたズボンを僕にお直ししてってことじゃなかったのか。




 デザイン以前の問題だった……。



 

「ぷぷ、金剛こんごうのやつ返り討ちにされてやんの」

「あれ、わざと破いてたの? ダサ」

「アップリケかわいいー」

「逆に最先端でオシャレ、かも……」

「転校生やるじゃん」

「というか、あの一瞬で?」


 



 金剛と呼ばれた男の子が、ぷるぷると震えていた。

 



 

「えっと……金剛くん、ごめんね。あとでもっと自然なダメージ加工にし直そうか?」


「しなくていい! それに、お前ら見てんじゃねぇ!」





 教室がシンと静まり返る。





 

「おい金剛、なに騒いでいるんだ?」

「ちっ」






 先生のひと言で場が収まった。



 金剛くん、なんとか許してくれたみたいだ。

 案外あのデザインを気に入ってくれてるのかもしれない。

 そう思いながら、指定された席に着く。


 


「姫路さんもこの学校だったんだね、これから同級生としてよろしくね」



 

 席に着いたあと、さっそく姫路さんに話しかけた。


 



「あの転校生、氷の女王に話しかけてるぜ」

「おいおい、あいつ死んだわ」

「誰も姫路さんと話したことないって噂だよ」

「俺たちなんか話す価値がないんだろうよ」




 クラスがさっき以上にざわつく。



(なんだなんだ? 話しかけちゃ不味かったのかな)



「よ、よろしく……お願いし、ます」



  姫路さんはぺこりと小さく頭を下げた。



 (昨日も話してたんだし、別に普通だよね?)

 



 

「マジ?」

「氷の女王が喋った?!」

「てか初めて声聞いた!」

「え、声かわいくね?」

「ちっ、なんなんだよあいつ!」





 ただ話しただけでその反応!?

 姫路さんってどういう存在なの!?




 

 姫路さんはというと、表情は変わらないものの顔がかなり赤くなっている。

 恥ずかしがり屋さんだとは思ってたけど、人前で話すことに抵抗があるのかな?




 あとでみんなの居ないところでお話ししてみよう。





 ◯ ●




「また、会っちゃったね」


 

「……はい」


 

 学校の屋上で、僕は姫路さんと2人きりで仲良くお昼ごはんを食べていた。



 みんなの前じゃ話しづらいのかなと思って、お昼休憩になったときに僕から誘ったんだ。

 すると、姫路さんがここに連れてきてくれた。



 

 その時もクラスがザワついていたけど、どうしてだろう?

 友達を誘って一緒にご飯を食べるのって普通なんだよね?




「もう会えないんじゃないかと思ってたのに、同じ学校で同じクラスなんて驚いたよ!」



「……わ、私も……驚きました」



「それにしても、姫路さんはどうして氷の女王って言われてるの?」



「そ、それは……!」



 かあ、っと姫路さんの顔が赤くなる。



「おかしいよね、姫路さんが氷の女王だなんてさ。なにか理由があるんじゃないかなって思って」


 

 僕のために泣いてくれた優しい人が、氷の女王だなんて信じられない。



「恥ずかしい、お話、なのですが……」



 そう彼女は切り出して、ぽつりぽつりと話し始めたのだった。

 



◯ ●




 話をまとめると、こうだ。




 姫路さんは極度の恥ずかしがり屋で人と話すのが苦手らしい、いわゆるコミュ障だと自分で言っていた。

 話しかけられても言葉が出てこなくて、それが無視してるようになってしまうらしい。

 初めの頃は何人か話しかけてくれる人がいたらしいんだけど、ついには話しかけてくれる人がいなくなったみたいだ。

 それからあるとき、実はどこかのご令嬢なんかじゃないか、だから下民である自分たちとは話せないのではないか、という噂がたった。


 他にも色々な噂が飛び交い、ついたあだ名が『氷の女王』だったそうだ。





「なるほどね……」




(見た目が綺麗すぎるというのもあって、ある意味みんなの都合の良い解釈が生まれたというワケかな)




 憶測になるけど僕の中でそう結論づける。




「否定しようにも……自分から、話しかける、ことが……出来なくて……。だから……逆瀬川くんに、お願いが、あります……!」




「どうしたの? なんでも言ってよ!」




「私と、お昼にここで、お話して……欲しいんです……!」



 目をぎゅっとつむり、これまでよりも大きな声で姫路さんはそう言った。





「……え?」




「い、嫌……でしたよね、ごめんな、さい」




 しゅんと、姫路さんは落ち込んで下を向いてしまった。



 

「違う違う、そんなことで良いんだって拍子抜けしちゃってさ。もちろんいいよ! だって僕らは友達でしょ?」



 

「と、ともだ……ち?」




「あれ……違った?」



 

 姫路さんがなんだ不満そうだ。

 僕たち友達じゃなかったのかな……。



 

「い、いえ……友達、です」



「だ、だよね!」



「……むぅ」




 姫路さんは納得いってない様子でほっぺをぷくっと膨らませる。



 かわいいな、クセなのかな?




「まずは僕といっぱい話して、それからみんなと話せるようになろうか! 配信してる時はたくさん話してるのにね、どうしてだろう? いつかアレくらいに話せるようになると良いんだけど……」



「……っ! は、配信? なんの……こと、ですか……」



「えっと、姫路さんってVtuberの星月かぐやちゃんだよね?」



「な、ななななななな、なんで……それ、を……!?」



Vブイって名前、覚えてないかな?」



「……っ!?!?!? 逆瀬川くんが……Vさん!?」



「そうそう! まあ、ブイじゃなくて本当はファイブって読むんだけどね……」




 昔に、伍の5をもじってローマ数字のVにしたんだけど。



 まあ、読み方なんてこの際どっちでも良いだろう。



 

「どうして、私が、星月…… かぐやって、わかったの……?」



「それはだね……、おっと」




 ふと、時計に目をやるとお昼休憩が終わるところだった。




「この続きは放課後でどうかな? 放課後に遊ぶってことしたかったんだよね!」



「いいです、よ……! わ、私も、もっと逆瀬川くんとお話し、したいですし……」



「それじゃあ、決まりだね!」



 僕は姫路さんと放課後に遊ぶ約束を取り付けたのだった。


―――――――――――――――――――

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!


「楽しかった」

「続きが気になる」


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