寝る前のルーティン

@2321umoyukaku_2319

第1話

 私には寝る前のルーティンがある。同衾する女性に寝物語をしてやることだ。それをしないと眠れないのだ。お互いに。

 その夜も私は彼女のために寝物語を聞かせてやっていた。

「そのとき僕は彼に言ったんだ。”この手を離すんじゃないぞ、手を離したら落ちてしまうぞ”とね。そうしたら彼は言ったんだよ。”このままじゃ二人とも落ちてしまう。落ちるのは俺一人でたくさんだ。君だけでも助かってくれ”ってね。そう言われた僕は、こう答えたんだ。”そんなことを言うのはやめてくれ。”僕は君を見捨てるわけがないじゃないか! 僕たちは親友だ、絶対に君を助けるよ”とね。そうしたら彼は言った。”残念だけど、これ以上は、もう無理だ。手が痺れてきたんだ。今から手を離すよ。さよなら! 本当にさよなら! ”そして彼は手を離した。僕は叫んだ。”やめろよ! さよならなんて言うな! もっとこれで遊ぼう! ”と言ったんだけど、彼は僕の手を離して、ジャングルジムの下へ降りた。彼は言った。”ジャングルジムで登山家ごっこは終わりにして、砂場にお山を作ろうよ”とね。だから僕も砂場へ行ったよ――どう、この話は面白いかい?」

 僕の話を聞いていた女性がカッと目を見開いた。

「あなたの話はつまらない。本当につまらない。もう話さないで」

 険しい顔で僕を睨む彼女を見て、僕がどんなに驚き、そして喜んだか! 誰にも想像できないだろうね。抱き枕の女性が自我に目覚めたんだから。毎晩話しかけていると、そんな奇跡が起こると聞いて試してみたら、本当に彼女は話し出すようになったんだ。それだけじゃないよ。なんと彼女は、抱き枕から出てきた。実際の女性になったんだよ。僕がどれほど嬉しかったか、誰も想像できないだろうね!

 そんな彼女が僕に別れを告げると、誰が想像できただろう。彼女は言った。

「私、自由になりたい。さよなら」

 僕は彼女にすがりついた。

「君を絶対に手放さない」

 冷酷な声が響く。

「もう話さないで」

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