戦災の欠片を求めて
楪なつめ
プロローグ 戦場での誓い
『敵兵が近くにいる! 逃すな!』
「カイ、しっかりしてください!」
「はあ……はあ……、やべぇ、意識が……」
仲間の呼吸は荒く、とても苦しげだった。
「大丈夫です……! 私が絶対に救います!」
アリアは手元にあるものを探し、急いで負傷しているカイに応急処置を施そうとした。しかし、手持ちの包帯を傷口に当てても血がドバドバと出続ける。
「アリア俺はもうだめだ……意識が……」
それでもアリアは手を止めずに応急処置を続ける。
「このまま治療を続けたら、敵兵に見つかってお前が死んで……」
「何を言ってるのですか!?」
「貴方には生きて帰る目的があるじゃないですか!」
「ダメなんだ……、体中が熱くて……何も考えられ」
アリアの心臓が激しく鼓動し、手が震えていた。しかし、彼女は諦めなかった。必死になってカイの傷口に圧迫を続けた。
「アリア、俺もう……」
カイの声は弱々しく、息も絶え絶えだった。
「戦争の出来事を世界中に伝えるため生きて帰る使命があるでしょう!」
そのとき、枝が折れ何者か近づいている。すぐさま彼女はカイの手を取り、急いで立ち上がりその場を離れる。
彼らは木々の間をかき分け、身を隠しながら進んだ。敵兵の姿が見える手前で、アリアは岩陰を見つけた。彼らはそこに隠れ、呼吸を殺して、敵の通り過ぎるのを待った。
・・・・・・
時間がゆっくりと流れ、やがて足音が遠ざかっていくのが聞こえた。アリアは安堵のため息をついた。彼女はカイの手を握りしめ、微笑みながら言った。
「大丈夫かな……?」
「もうだめだ限界だ……アリア俺の話を聞いてくれるか?」
「はい……」
アリアは友人の手を握りしめ、彼の弱々しい呼吸に耳を傾けた。
「お前は、いつも俺の作った造り話の本の読んでくれたり、続きが気になるとか積極的に聞いてくれたな」
「そんなお前が全力で俺を助けようとしているのが嬉しかった……」
「はい……」
「俺の夢を……お前に託す。戦争が終わったら……世界中の人々にこの状況を知ってもらうため本にしようとしていたんだ。」
アリアも涙を流しながら、うめき声を抑えて静かにカイの話を聞く。
「だからさ俺の夢を代わりに叶えてくれ」
「大丈夫、約束します」
と
「私が生きて帰ったら、必ず叶える。安心して休んでください」
友人は微笑み、彼の目には穏やかな光が宿った。そして静かに、その目を閉じた。
胸にその言葉を刻み込んだ。彼の夢を背負い、彼の分まで戦う覚悟を誓った日。
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