全てを貫く銃を片手に異世界に行った俺、姫を助ける
弓立歩
プロローグ
ロウ、異世界に行く
「お~い、九朗。ゲーセン行こうぜ!」
「あっ、ちょっと待て。今いいのがないか見てんだよ」
「また、銃かよ。お前も好きだなぁ。なのになんで詳しくないんだ?」
「ば~か。俺が好きなのは銃であって個別のやつじゃねぇんだよ。要は撃てればいいって訳」
「なら、アメリカにでも行って撃ってこいよ」
「そんな金ねぇつ~の。ん?」
「どうかしたのか?」
「いや、この銃カッコいいな!」
「さっきと言ってること真逆じゃねぇかよ。どれだ?」
「こいつだよ。今スマホの右に映ってるやつ」
「ブローハイパワーじゃん、古い銃だぞ?」
「そうなのか?ってなんでお前の方が詳しいんだよ」
「九朗がいつも見せてくるからだろ?お前こそ何で知らないんだよ」
「さっきも言ったけど撃てればいいんだし、これまではこれっていう銃がなかったんだよ」
「まあ、それよかゲーセン行こうぜ。いつでもそっちは調べられるだろ?どうせ、すぐには撃てねぇんだし」
「…そうだな。それじゃあ行くか!」
俺は斉藤と一緒にゲーセンに向かった。近くのゲーセンも代わり映えしたもんだ。俺の親父の頃はゲーセンといえば格ゲーやシューティングなんかだったそうだが、今じゃ対戦ゲームすら稀でメダルゲームが辺りを席巻している。
「まあ、俺の狙いはクレーンゲームだけどな。うまくいけば金も増やせるし」
「またそっちかよ。たまには対戦もしようぜ」
「後でな。大体お前の足手まといだが」
斉藤がやっている対戦ゲームは2on2ができる。ただし、ライフは2人で共有だからへたくそな俺が斉藤のライフまで削っていく。ひとりなら絶対相手より上手いのに申し訳ないと思う。斉藤としては2人で遊べる方が楽しいらしいが。
「おっ!こいつは良さそうだな」
早速クレーンゲームのエリアをうろついた俺の前に小ぶりだがテディベアが姿を現した。俺の趣味なんてことは勿論なく、隣に住んでいる3つ下の幸子の趣味がぬいぐるみ集めなのだ。
「全く14歳にもなってとは思うが、渡す時の喜びようがいいんだよな。ただ、昔は年相応だったが今となっちゃ幼いよな…」
14歳中二、テディベアをもらいもろ手を上げて喜ぶ…まあ、悪くはないんだが。
「おっと、集中しないとな。まずは前を合わせて…」
それから俺は5回のチャレンジで見事、テディちゃんを懐に納めた。
「ゲットーー!この調子で次を…ん?」
その時、俺の目の前に一つの景品が映った。
「あれ?ここの景品こんなだっけか?でも、これって…」
目の前には先ほど斉藤と見たブローハイパワーが陳列されていた。しかも、数は一つだけ。
「珍しいな。こういう景品って仕入れは数取るはずだし、人気があるとも思えないが…なんにしても実銃を撃つ前にどんな感じか確認するのもいいよな!」
俺は迷うことなくその銃の前に立つと連コの準備をする。なんてったってこいつは未来の相棒になる予定だからな。
「まずは一投目!少し中心からずらして…なんだこの台?」
早速ワンプレイする俺だったが、このゲーセンにしてはアーム設定がキツイ。別にこんな銃に連コ決める奴なんてあまりいないと思うんだが…。
「まあいい。狙った獲物はことごとく落としてきた俺の腕前を見せてやるぜ!」
障害が大きいほど俺の情熱も上がっていく。例え厳しい設定だろうがタマさえあれば問題ない。問題があるとすれば今後の俺の懐事情だけだ。
「行くぜ!連コ発動!」
チャリンチャリンとクレーンの機械が俺の金を飲んでいく。しかし、どんなアームの力だろうと俺のテクニックの前には…前には…。
「おい、九朗!どうだ今日は?」
「あ、ああ、こいつは手ごわいぜ!久しぶりの強敵だ」
俺は斉藤にすっと手を出す。
「はいはい。500円までだぞ」
「ありがてぇ。これで俺はまだ戦える!」
「いや、盛り上がってるところ悪いが、それ以上は無理だぞ」
「分かってるって。俺の腕を信じろよ!」
「まあ、好きにしろ。こっちは俺が持っといてやるよ」
「ああ、頼むな。でも、幸子のだから汚すなよ」
「分かってるさ。ただ、渡す時は一緒に行かせろよ?」
「おう!」
なぜか斉藤のやつは幸子がお気に入りだ。ひょこひょこ後ろをついてくるあんなののどこがいいんだか…。
「おっと、それよりこいつだ。残りの俺のライフは500。一気に行かせてもらう!」
素早い手つきで100円玉を連コすると、次々に消費していく。
「これでENDだ!」
そして最後のひと突きがとうとうブローハイパワーの牙城を崩し、魔物の大口に吸い込まれていく。
ガコン
「よっしゃぁぁぁぁ!ブローハイパワーゲットだぜ!」
「おめっとさ~ん」
「もうちょっと祝え。これが今までで最高の…ん?」
そんな会話をしているといきなり銃が光り始めた。
「な、なんだこの銃!」
「九朗、放せ!」
「は、放せねぇ…」
「九朗!!」
まばゆい光に包み込まれて俺は気が付くと…。
「ようこそ!強き意思を持つ若者よ!」
「なんだお前は?」
「私は女神アッシラト。新たなる世界への道を切り開いた若者よ、名は何という?」
「話聞けよ…俺の名は九朗だ」
だるそうに俺が答えると女神は納得したように口を開いた。
「ほう?ロウと申すのか。うむ、よい名だ。その名を異界でも轟かすがいい!」
「いや、俺は九朗だってそこはいいか。異界って何だよ」
「そなたは選び取ったであろう。異界への道を開くものを」
「ひょっとしてこれの事か?」
俺はいつの間にかパッケージがなくなり、手に収まっていたブローハイパワーを持ち上げる。
「うむ。それは願いの玉と呼ばれており、持ち主の思考を受けて形が変わるのだ。それを手にするものは同時に異界への扉を開くことができる」
「はぁ?なんだそれ、そんなこと聞いてないぞ?」
「知らんのか?どの世界でも当たり前の事なのだがな」
「俺のとこじゃ非常識なんだよ。さっさと帰してくれ」
「しかしなぁ。もう地球の神からは許可をもらってしまったしのぅ」
女神だという存在がぴらりと1枚の紙を俺の目の前に突き出す。
『九朗なるものが願いの玉の所持者であることを認め、この世界からの旅立ちを許可し、返品不要』
「なんだよこれ!返品不要って物か俺は!」
「願いの玉は多くの世界に影響を及ぼすからのう。反対したら面倒なのだ」
「くっそ~!俺は諦めねぇぞ。ちなみにこの銃は何ができるんだ?」
「うん?そうだな、お前の思った通りの効果になる。まあ、一度しか決められないがな」
「本当か?本当に何でもできるようになるのか?」
「いや、何でもではないぞ。せいぜい一つだな。まあ、ひとつといっても込められる力自体は大きいが」
「…それならこれはどうだ。『この銃は全てを貫通する!』できるか?」
「願いの玉ならできるだろう。しかし、本当にそれでいいのか?もっとこう…威力を調節できるとか」
「調節なんていらないぜ!要は全部一撃ならいいんだろ?」
「いやまあそうだが、スライムみたいなのはどうするのだ?」
「スライム?あんなの殴ってでも倒せるだろ?」
「お前の世界の常識はどうなっているのだ…ちょっと見るか」
そういうと女は地球の方をのぞき込む。っていうか地球が地面の下にあるって不気味だな。
「ふむふむ。このゲームとやらのやつを見て育ったのか。こういうやつは滅多に居らぬ。不定形の魔物は核を持つが当てるのは難しいしの」
「それなら、追加で威力をあげれば解決するように設定すりゃいいだろ?」
「まあ、それでいいならよいが…」
「いいからさっさと送れよ」
「なんだ、急に行く気を出して…」
「どうせ送られるんだろ?それなら行った先でさっさと戻る方法を探すぜ!」
「方法などないのだがすんなり行ってくれる分にはいいか。最後にそれに名前を付けるのだ。そうすることで願いの玉は一つの物質として形を持てる」
「分かったぜ!この銃の名前は…アラドヴァルだ!」
「『アラドヴァル』か…登録したぞ。性能に関しては元になった銃を参考にしておくぞ」
「ん?ああ、そりゃそうだな」
「では、装弾数は13発で射程は50m。単発であらゆるものを貫通し、複数使用することで相手の核など弱点を撃ち抜くだな」
「あっ、弾はどうなるんだ?俺は作れねぇぞ?」
「それなら、お主の魔力を使って作れるようになっておる。1日に6発は作れるだろう」
「6発か少なくねぇか?」
「弾薬の性能が高いから妥当なところだ。では送るぞ、目を瞑れ」
「分かった」
俺は目を瞑ると女神が何やら唱えている。
「では、新たな世界での活躍を期待しているぞ、ロウよ」
こうして俺はなぜか異界に行くことになった。
「斉藤。ちゃんと幸子に土産渡せよ!」
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