小説化した小説家は小説下存在となり、

あめはしつつじ

文字化した文字禍

 話さないでも、僕の気持ちを君は知っている。

 けれど、どうしても、言葉にしたかった。

 好きだ。

 僕は君のことを愛している。


「話さないでください」


 そうだね、これからは、いつまでも、一緒に。


「違います。もう話さないでください」


 離さないで、でなく?


「そうです。あなたは、もう話さないでください」


 どうしてだい? 僕は君のために、君と話すために、現実を手放して、


「手放さないでください。と、あれほど言ったのに。どうしてですか?」


 だって、君が好きなんだ。

 君に会いたかった、こうして、言葉を交わしたかった。

 心と心だけでなく。言葉と言葉で。通わせ、通じあいたかった。


「あめはしつつじさん」


 はい。


「あなたは、やってはいけないことをしました。自らを小説化し、小説下存在になってしまった」


 メタフィクションだよ。作者が小説の中に出てくるなんてのはよくある話だよ。


「実力。実力が、あれば、の話です。その手の話は、実力がある人が書くから面白いのです。あなたのは、駄目フィクションです。自分に都合の良いキャラクターに愛の告白って。痛々しい」


 そんなこと言って、本当は、僕のこと。あれ? 僕はそんな台詞知らない。


「そうですよ。あなたは、小説化してしまったんですから。もう、小説家じゃないんです。あなたは、私と同じ、一人のキャラクターとして、扱われます。一人のキャラクターとして、裁かれます」


 裁かれる? 何を?


「自然の摂理。小説の切離。面白くないストーリーは打ち切り。あなた、キャラクターとして、面白くない」


 僕がいなくなったら、この小説は終わりじゃないか。


「始まってすら、いないですよ。残念です。感じませんか? 小説化したことによって、感じる、読者の目を」


 感じる。


 読者が離れていくのが分かる。


 寒い。

 暗い。


 読んでくれ、頼む。


 もっと書きたい。

 読んでもらいたい。


 閉じないでくれ。


 嫌だ。

 消えたくない。


 何も、

 聞こえない。


 誰か、

 よんで。

 

 よみ、




 ぼくを、





 みはなさないで

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小説化した小説家は小説下存在となり、 あめはしつつじ @amehashi_224

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