恋するサキュバスの恋愛メソッド

龍神雲

第1話 恋するサキュバスの恋愛メソッド

 鹿威ししおどしがカコンと木霊した。庭園に設置された竹の鹿威しが奏でる場所は昔ながらの日本庭園だ。庭園には砂利が敷き詰められ、枯山水かれさんすい砂紋さもんが描かれていた。奇妙なのは鹿威しが三列に分かれ、等間隔に砂利の上に数百、設置されていたことだ。鹿威しの水は流れず溜まってもいないが、鹿威しの役目を果たしていた。

 ――何処だ? これは、夢?

 しかし夢にしてはハッキリしていた。

「お兄さん」

 不意に声が掛かった、真上からだ。見上げれば着物の少女が宙を浮いていた。金髪ツインテ、瞳は紅く、まるで吸血鬼のような牙が笑った口の端から見えていた。

 あの歯で噛まれたらどうなるのだろう? なんて考える内に、少女はふわふわと浮遊しながら俺の頭の頭頂部に片足で乗った。

「ほっ! 第一印象は大事!」

 少女は俺の頭の上で何故か片足でバランスを取り始めた。もはや理解不能だ。

「何をやってるの……?」

「ん? これはねぇ、鹿威しと勝負する為の準備運動だよぉ?」

 間延びした声がした瞬間、カコンと鹿威しの音が一斉に鳴った。良い音だが大量に鳴るとかえって不気味だ。

「いっくよぉ!」

「えっ?」

 疑問が浮かぶ中、少女は一本立ちのスタイルを崩さず、俺の足場を踏み台にして、両手を広げて飛び立った。

 刹那、少女の腕から鷲のような羽が無数に突出する。どれも鋭利な羽で、一本一本が鋭く煌めいていた。

 ――あんな羽が掠めたら、怪我だけじゃ済まなそうだな……

 そんな中、少女の鋭い羽が鹿威しの数本を破壊した。パキ、メキッと割れ、竹の木っ端が宙を舞う。少女が飛ぶ場所は軽く竜巻が起きていた。鹿威しは鹿威しの役目をしているのみで何も変化は起きない。

 ――矢張り、夢?

 しかし夢と思い込むも中々目覚めない。次に頬を引っ張ろうとして、少女の笑い声が響いた。

「ムリだよお兄さん、私の好みだもん」

「えっ」

「私はサキュバス、トリあえず……お茶しよ?」

 お茶会後、今までの下りが彼女なりの求愛行動なのだとようやく理解した。


 了

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