予知夢の恐怖

 起きる寸前の夢は記憶によく残ります。それが強烈な印象をともなうものならば、なおさらです。


「予知夢かもしれない」


 キヨカは目覚めるや否やそう思いました。そのくらい迫真に満ちた夢だったのです。


「どうしたの、お姉ちゃん」


 弟のタロの目にも、キヨカがただならぬ夢を見たことがわかります。いつもの姉なら朝の夢ぐらいで、こんなにうろたえることなどないからです。

 キヨカの顔は血の気を抜きとったかのように青ざめていたのです。


「ねえ、どうしたのさ、お姉ちゃん。何か、怖い夢でも見たの?」


「ああ。その台詞、タロのその顔! すべて夢のとおりだわ。タロ、もうすぐわたしたちは死んでしまうわ。夢のとおりに未来が訪れれば、この地球の空気はなくなってしまうのよ」


「そんな馬鹿なこと、あるわけないよ」


「それがあるのよ。今だって、わたしたちの会話は夢のとおりなんだから」


「ラジオでも点けてみようか」


「待って、点けないで。それじゃあますます夢のとおりだわ」


「いいから、落ち着いてよ」


 タロがラジオのスイッチを入れると、スピーカーからは次のような音声が聞こえてきました。


 ――……臨時ニュースです。あと三十秒ほどで地球はすべての空気を宇宙空間に放出することが判明いたしました。みなさん、くれぐれも慌てずに、三十秒後に息を深~く吸いこみましょう。それでは、グッドラック!


 キヨカが悲鳴を上げるも、時は無情に経過して、三十秒が過ぎ、四十秒が過ぎ……、そこでタロがいいました。


「お姉ちゃん、カレンダーを見てみなよ」


「えッ? あッ、今日は四月一日! エープリルフールじゃないの! ラジオのやつ、かついだのねッ」


「きっと夢もうそをついたんだよ」


 四月馬鹿の朝でありました。


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