第2話 赤い実
学校から一人で帰る道は、ちょっとした冒険。色んな場所を探しては寄り道をしている。初めての道に、大きな木があった。初めて見るその木は、小ぶりな赤い実をつけていた。サクランボみたいで、美味しそう。瑞々しいその実を一つ手に取り、口に運んでみた。
おいしい。
初めて食べる味。甘くて、瑞々しくて、口いっぱいいい匂いが広がった。なにより、少し気持ちよかった。感動した僕は、その実をいくつか取って、家に持って帰った。
お母さんは体が弱くて、いつも横になっている。
「お母さん、ただいま」
「お帰り」
いつもお母さんがいる部屋から声がする。僕は靴を蹴散らして、お母さんの元へその赤い実を持っていった。
「お母さん、今日、すごくおいしい実が見つかったんだ。ねえ、見て。ほら、おいしそうでしょう」
お母さんはこちらを見てもくれません。僕は歯がゆくて、横になっているお母さんの口へぐいぐいと赤い実を押し付けました。
「食べて食べて。おいしいよ!」
「やめなさい!汚い!よくわからないものを簡単に口にしちゃダメだって言ったでしょ!それより靴はそろえたの?」
「ごめんなさい」
僕はすごすごと靴を揃えにいきました。
次の日、僕はその実を学校に持っていきました。誰かに、この味を味わってもらいたいと思ったからです。学校のみんなはおいしいおいしいと食べてくれました。
僕は嬉しい気持ちで家に帰ると、お母さんがいいました。
「僕、聞いたわ。本当に美味しい実があるのね。お母さんにも一つ食べさせて」
僕は喜びました。
「うん!待ってて!とってくるからね!」
僕は駆け足でその木の元へと行きました。ところが、木の実はごっそりなくなっていました。探しても探しても実はどこにもありません。
僕は泣きました。お母さんにもあの美味しい実を食べて欲しかったのに。ぽろぽろと涙が零れ落ちると、涙一粒ごとに赤い実がなりました。ぽろぽろと実がなっていくのです。
僕は嬉しくなって、実をとって帰りました。お母さんはおいしいおいしいと食べてくれました。お母さんの笑顔を久しぶりに見れました。
スタートレックは眠る K.night @hayashi-satoru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。スタートレックは眠るの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
作家と私/K.night
★9 エッセイ・ノンフィクション 連載中 13話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます