第11話 『光の精霊さん。力を貸してください』

リヴィアナ様の大切な部屋に入ってしまった事を謝罪しつつ、私たちは元々あった様に部屋を綺麗にして外に出た。


そして次なる目的地、ヘイムブル領を目指すべく行動を開始しようとしたのだが……。


やはりというか、姿を現したのは殿下と騎士様方であった。


「出てきたか。随分と時間が掛かったな。例の蘇生術は見つかったか?」


「あ、はい。そうですね。思っていた物とは違いましたが、これはこれで世界の役に立つ物だと思います」


「そうか。それは良かった。だが、これで冒険の目的も達成した訳だ。さ。共に帰ろうでは無いかミラ」


「それは」


「悪いが……まだ俺の用事が終わっていないのでな」


「貴様」


空気が張り詰めて、少しだけ息苦しくなる。


しかし、オーロさんもシュンさんも平然としており、殿下も騎士さん達も当たり前の様な顔をして立っていた。


なんだか私だけがひ弱みたいな気持ちだ。


間違ってはいないのだろうけど。


だが、このまま戦いになるのは良くない。という訳で私は覚えたばかりの魔術を使う事にした。


「光の精霊さん。力を貸してください」


「ミラ!? 何をするつもりだ!」


「ちょっとだけ、眩しくなるだけですっ!」


私は殿下に返事をすると同時に光を放ち、その魔術を受けてオーロさんが遺跡から離れ、森に向かって走る。


シュンさんも当たり前の様に付いてきており、私たちはアッサリと殿下から逃げ出す事に成功するのだった。




そして、私たちは森の中を走り抜けて、完全に追手を撒いたであろう場所で立ち止まり、夜の準備を始める。


「もうお馴染みとなりましたがー。火を起こすなら、レッドリザードさんが最高です! 今日こそ私が捕まえますよ!」


「おーおー。そうしろ」


「応援してるぞー」


「はい! ご期待ください!」


私は地面にしゃがみながら木の枝を拾い、そっと葉っぱをどかしながら歩く。


レッドリザードと言えば、葉っぱの影に隠れて生きている魔物であり、小さくて私の手のひらくらいのサイズしかない。


しかし、その性質はとても素晴らしく、冒険者になるからには知っておかなくてはいけない魔物ナンバーワンなのだ。


何故ならレッドリザードは、火を噴き出す性質があるからだ。


と、それだけ言うと森や山が火事になる原因がレッドリザードの様に思えてしまうが、実はそうではない。


何よりも素晴らしいのは、レッドリザードは燃やそうと思ったものしか燃やさないという、不思議な炎を噴き出すのだ。


これは長い間研究者が研究を重ねていても、コレという答えが出ず、仮説ばかりが増えていく謎の多い魔物なのである。


まぁ、私としてはリウル博士の魔法使いの眷属説を信じたい所ではあるのだけれど、この意見は異端だという事で、消されてしまった悲しい説だ。


「あっ! 見つけました!」


葉っぱを動かしていると、何かが動く様な気配があり、私は急いでその後を追う。


そして、サササと地面の上を滑る様に走るレッドリザードを手で、むんぎゅっと捕まえるのだった。


思っていたよりも早かったが、動こうとしている先に手を伸ばせば結構簡単に捕まえられる。


私の方が頭が良かったという事である。


さて、ここで気を付けたいのはレッドリザードの持ち方だ。


先ほども言った通り、レッドリザードは火を噴き出す性質があり、燃やそうと思った物は燃やす事が出来る。


なら、自分を捕まえている人間などはどうだろうか? 当然燃やす対象である。


その為、お腹や尻尾を持つのは非常に危険だ。


何故ならレッドリザードに限らずリザードというのは、自分で自分の尻尾を切る事が出来るし、器用に体を捻らせてこっちに火を噴く事もあるからだ。


なので、持つときは必ず頭を優しく持つ必要がある。


そして、その状態で私はポケットに入れていた小さくちぎったクマの肉を、レッドリザードの口に運んだ。


「美味しいですよー」


上手く捕まえる事が出来たら次のステップである。


それは何かしらご飯を提供する事だ。


雑食なのか、意外と何でも食べるという話は聞いたことがあるが、毒とかそういうのは無理らしい。


なので、レッドリザードにあげるのは食べ物が良い。


それに、どうせならより美味しい物が良いとされている。


何故か。


「あ。食べましたよ。美味しいですか? お代わりもありますよ」


「きゅい!」


「喜んでます! 可愛いですね!」


「おう。たき火の準備が出来たぞ」


「ありがとうございます。ではレッドリザードさん。お願いします」


「きゅ!」


理由は簡単だ。


その方がレッドリザードが機嫌よく火を付けてくれるからだ。


一体いつからそうなっているのか。どうしてそういう生態になったのか。


それは分からないが、レッドリザードに食べ物を渡すと、人がたき火として集めた木材などに火を付けてくれるのだ。


しかも、火の調整をしてくれるから、適当に薪を置いていても結構何とかなるらしい。


後は、夜の間も勝手に火を燃やしてくれて、冒険者は助かるという訳である。


この時、適当な食料しか渡していないと、途中で逃げてしまう事も多いらしく、夜の安全を考えるなら、一番良い食料お手渡すのが良いとされている。


また、地方の集落では本当に人間と共生しているレッドリザードもいるらしく、一家に一家族。


暖炉にはレッドリザードが巣を作っており、人間から食料を貰う代わりに火を付けてくれるという話らしい。


これは私が生まれるよりも前、いや、もっとずっと前。


何なら聖女セシル様が居た時代よりも前の時代から続いてきた伝統らしく。


世界に存在する国や集落の中には、レッドリザードを神の使者として崇めている所もあるらしい。


まぁ、でも火の魔術で燃え上がる炎は魔力を散らしながら幻想的な輝きを放っているし、人の願いを聞いて、火という安らぎを与えてくれる姿は、確かに神様の使いと言っても過言じゃ無さそうだ。


「ありがとうございます。レッドリザードさん。あ、これ追加のお肉です」


「きゅう! きゅう!」


「あら。向こうから別の一団が……って、ご家族が居たんですね。それはちょうど良い。ここに多くお肉を置いておきますので、皆さんで食べて下さい」


「きゅ! きゅ!」


「ふふ。可愛いですね」


「おーおー。うまくて手懐けてるもんだ」


「明日からレッドリザード係はミラだな」


「確かにな。おい。チビ共。ミラを頼んだぞ。俺らは食料を取ってくるからな」


「きゅ!」


「ハハっ、いっちょ前に戦士の顔してやがるぜ。このチビ」


「良い事だ。じゃあ、行ってくるからな。ここで待ってろ。ミラ」


「はい! いってらっしゃい」


私は昨日まで集めた食料も整理しつつ、お鍋の準備やら、料理の準備をしてゆく。


火の中からはレッドリザード達の楽しそうな歌声が聞こえてきており、私も何だか楽しくなってしまうのだった。


そして、待っているだけでは暇だった私は、リヴィアナ様の封印書庫にあった光の魔術を一つ使ってみる事にする。


それは聖女セシル様がリヴィアナ様がお亡くなりになる前辺りに、よく使っていたという祝福の魔術だ。


世界に光を満たして、人々の心から争いを消すという素晴らしい魔術だ。


「光の精霊さん。力を貸してください」


両手を握り、世界へ祈る。


その光は周囲の魔力を光の魔術に変換し、癒しの力として広がってゆく。


当然火の中に居るレッドリザード達にも、そして草むらをかき分けて出てきたジャイアントベアーにも……って!?


「えぇぇええええ!!?」


私は突然出会ってしまったジャイアントベアーと見つめ合い、絶叫をあげてしまうのだった。

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