第3話『死者を蘇らせる魔術を知っていると言っていたな』

深夜と言っても差し支えない時間、私は騒音に目を覚ました。


何事かと目を開けて上半身を起こしてみれば、窓から騎士さんが部屋の中に飛び込んできたではありませんか!


私は急いで騎士さんに癒しの力を使い、大丈夫ですか? と声を掛ける。


「ミ、ミラ様。お逃げ下さい。賊が……」


「賊!?」


まさか、まさかである。


メイラー伯爵家と言えば、ヴェルクモント王国国内最高戦力であるお姉様がいる事で有名であり、リスクやリターンを考えれば攻める理由のない家なのだけれど……何が起きているのだろう。


お姉様の事を知らない人か、もしくは……。


「おぉ。ここに居たか」


お姉様を超える程の強者なのか。




私は割れた窓から入ってきたその方を見ながら、頭の中でどこの誰かを調べようとした。


しかし、分からない。


「騒がしくして悪かったな。ただ、君に会いたかっただけなのだが」


「私、ですか?」


「あぁ。昼間、街で面白い話を聞いてな。是非とも話を聞いてみたいと思ったんだ」


黒い鎧を身に纏って、闇の中を歩くその人は、まるで返り血の様に赤茶けたやや長い髪を風に靡かせ、金色に輝く瞳を鋭く細めた少々怖い人だった。


そして、そんな人がここに居るという事実と、お姉様が姿を見せない事に私は大きな恐怖を覚えて、侵入者の方に質問をぶつける。


「あ、あの!」


「なんだ?」


「お姉様は、お姉様はどうしたのですか? それに他の騎士さんたちは!」


「お姉様……。あぁ、フレヤ・ジェリン・メイラーか。流石にSランクを相手にするのは少々面倒だからな。隙をついて気絶させたよ。まぁ、大分頑丈そうだったし。朝には元気に起きるだろう。後、他の騎士だったか? まぁ、多少は怪我もしてるだろうが、大した怪我じゃない。こっちも明日には普通に起きるだろうな」


「そう、ですか」


私はひとまず安心して息を吐いた。


しかし、私自身に対する脅威はまだ去っていない。


話したい事があるというが、一体なんなのだろうか。この様な凶行まで行って。


「それで、話というのは」


「死者を蘇らせる魔術を知っていると言っていたな」


「……っ! いえ、私はまだ知りません」


「ではどこに行けば知る事が出来るんだ?」


「それは……おそらくヴェルクモント王国の北部にある封印書庫にあるかと。ただし、その書庫はリヴィアナ様という方が作り、長きに渡って管理されてきたのですが、五百年ほど前にあった大戦の際に管理方法が紛失しまして、現地で直接確認しないと中へ入る方法は分からないです」


「その書庫へ入る方法だが、君には分かるのか?」


「え? えぇ。はい。おそらく、こうだろうという物はあります」


「そうか。ちなみにそれを今ここで俺に伝える事は可能か?」


「いえ。それが……おそらく入口はヴェルクモント王国式の、暗号魔術で封印されておりますので、そのパターンを全てお伝えするのは少々お時間が掛かります」


「少々というのは」


「一月ほどでしょうか」


「……何故それほど掛かる」


「あの、パターンがですね。二百七十二万五千四百三十六通りありますので、それを全てお伝えするには時間が。ですが、もう少しだけなら短縮出来るかもしれません。この暗号魔術式自体はリヴィアナ様が考案され、それ以降増え続けている物なのですが、初期案としては……」


「あー。分かった。要らん要らん。そんな数は覚えきれんし。何より簡単な方法がある」


「簡単な方法?」


私はガラスを踏みしめながら近づいてくる男の人に、首を傾げた。


そして次の瞬間には、床に座っていた体をそのまま抱き上げられる。


「ひゃっ!」


「鍵をそのまま連れて行く方が早い」


「なっ!」


「暴れない方が良い。うっかり落ちて、痛い思いをしたくないだろう?」


「っ!」


私は首を縦に振りながら、大切な本を抱えつつ、男の人の腕に体を預けた。


そして、男の人は私を連れたまま割れた窓から外へ出て、悠々と伯爵家の外に出ようとした……が、キラリと輝く白刃が空からやってくるのが見え、次の瞬間に私は地面の上を転がっていた。


い、いたい……。


「ほぅ。今のを防ぐのか。やるな」


「……貴様。何者だ」


「名乗る程の者じゃ、ない」


いつの間にか。先ほどの男の人とは別の男の人が現れており、その人は騎士さんが持っている剣とは違う、ちょっと曲がった細身の剣を持って、鎧姿の男の人に襲い掛かっていた。


おそらくは戦闘が始まっている。


というか私には、二人の動きが早すぎて、何が起きているのか正直分からない。のだけれど、多分戦闘が起こっている! と思う!


「その服。着物だな。それに刀か。貴様、かの国の侍だな? 何の用だ」


「お前の連れていた少女に、用がある。それだけだ」


「チッ。面倒な」


何が何だかよく分からないが、二人とも私に用事があるらしい。


鎧の人はさっき聞いたが、着物の人はまだ知らない。


なら、どうしようか。聞いてみようか。


「す、すみませーん!」


「「なんだ!?」」


「あっ、忙しい所恐縮です。あのですね。着物の方。私に用事があるとの事なのですが、どの様な用事でしょうか?」


その問いに、ちょうどぶつかりながら止まっていた二人は、奇妙な物でも見る様な目で私を見た後、それぞれ大きく一歩後退した。


そして、着物の人は私を見ながら質問に答えてくれる。


「昼間。神刀について話していただろう? おそらく、かつて我が国より失われた一刀だと思われる。それを回収したいのだが、場所が分からない。お前が分かると言っていたから、案内して貰おうと思っていた」


「我が国……? という事は!! まさか、まさかまさか!! 貴方様は伝説の国ヤマトの出身なのですか!?」


「伝説かは知らんが、確かに俺はヤマトの出身だ」


「あぁ、本当に実在したのですね! いえ、存在は確かにしていました。ただ、それが現在まで続いているとは……! という事は、やはり獣人戦争に現れたという謎の武装集団は、ヤマトの侍さんなのでしょうか!? はっ! という事は、国連議会が東国へ冒険者を派遣したのも! 聖女セシル様が東へ向かったというのも! 全て、真実!!」


「あー。お嬢ちゃん?」


「なんでしょうか!? 鎧の方!」


「あー。いや。俺はオーロという者だが」


「自己紹介ですね! そう言えば私もまだしておりませんでした! 私はミラ。ミラ・ジェリン・メイラーと申します! よろしくお願いします。オーロさん!」


「あ、あぁ」


「それと、ヤマトの方もお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「……天霧、瞬だ」


「アマギリ? シュンさん」


「瞬で良い。ミラ、だったか?」


「はい! シュンさんですね! よろしくお願いします!」


私は立ち上がり、二人に頭を下げながら名案に震えていた。


そうだ! 殿下は言っていたじゃないか! 私が強い人たちとチームを組む事が出来れば何処へ行っても良いと!


オーロさんは、油断していたとは言え、お姉様を倒すほどの実力者で、シュンさんもオーロさんと同じくらい強い方!


なら、なら! 二人は個人戦闘力が人類の規格外。つまりはSランクの人間だという事だ。


そして、二人とも、私の知識を求めている。


これは運命だ。世界が私に旅立てと言っているに違いない!


「お二人に私から提案があります!」


「提案?」


「……?」


「私とチームを組んで、伝わっていない世界の歴史、そして失われた魔術を一緒に調べませんか!?」

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