第6話 惑星カッサム
内心、すごくワクワクしていた。
なんてったって初めての地球以外の星だ。きちんとした文明があるらしいので、異星人もいる。
遠足の前日のような高揚感で2日間を狭い密室で過ごし、ついにこの時が来た。
「あと30分で着陸します」
「うおおおお、来たあああああああ!」
キャプテンの許可を得て、俺は操縦席から外部モニターを眺める。
黄土色の星が徐々に近づき、その姿を表す。
――惑星カッサム――
「やれやれ、いちいちうるさいやつだ」
「そりゃキャプテンは慣れてるだろうけどさぁ、俺は初めての経験なんだぜ? 興奮しないってのがおかしいだろ」
「っておい! そのボタンは」「えっ?」
彼女の静止の声
まさかこのボタンは……
「だから、なんで簡単に押せるように裸のままにしてんだよ! 地球の非常ベルのボタンは、誤って押さないように普段は蓋してあんだよ」
もはや逆ギレするしかない。
あんな誤操作しそうな場所に『自爆ボタン』を設置する方がおかしいからな。
「まぁ、いいか。この際仕方ない。強硬策で行くぞ、チャッピー」
「承知しました。臨戦体制に入ります」
赤い光とサイレンが鳴り響く。
このパニックな状況下で、何故か二人は脱出の準備をしようとしない。
「ちょっと何やってんだ? 早く脱出を」
「逃げる? 今から戦うのに逃げるのか、君は」
「戦うって、何とだよ。自爆スイッチを押してしまったら、もうこの船から脱出するしかないだろ」
「自爆スイッチ……? ははは、違うぞヒイロ。これは攻撃スイッチだ。今から臨戦体制に入り、レーザービームを放つ砲台が起動する」
「攻撃スイッチ……だと?」
どちらにせよダメじゃないか。
俺の初めての異星は友好的に行きたかったのに、いきなり喧嘩を売るなんて。
「行くぞ! 侵略開始だ」
「やめてくれ! 攻撃中止だ」
操作盤に触れようとするキャプテンを身体で妨害しながら、俺は頼みの綱であるチャッピーに目線を送って
「……いや、待て。少し様子がおかしいぞ」
キャプテンの
俺は彼女が見ている方へ目線を合わせる。
「なんだこれ……どうなってんだよこの星は」
外部モニターに映し出された、カッサムの上空からの街並み。
「まさか先客がいたとはね。全く、困ったものだよ」
荒廃したビル群、所々から立ち上る煙。
何者かに攻撃されたかのような跡だった。
我々が攻撃するまでもなく、カッサムは既に崩壊していたのだ。
「あまり期待できそうにないが、せっかく来たんだ。様子を見るだけでもいいから上陸しよう」
「了解しました、上陸いたします。レーザービームは準備できておりますが、いかがいたしましょう」
「……うーん、一応、念のため1発打っておくか」
ちょっと待て――と俺の静止する声が出る前に、カッサムの地上に向かってビームが放たれる。
地上にぽっかりと大きな穴が空き、そこにあったモノが全て消滅してしまった。
開いた口が塞がらないとはこのことである。
宇宙船は、自分たちのレーザービームで生み出したクーデターの中心に着陸し、俺は憂鬱状態のまま、初めての異星に足を下ろした。
まるで侵略者の気分だ。そんなつもりじゃなかったのに。
「何を
キャプテンの
この惨劇の発端は、俺が誤作動で押してしまったスイッチのせいだからだ。
しかし
「キャプテン、止まってください」
「どうしたチャッピー、何かあっ……」
キャプテンとチャッピーが足を止めた先。
土が突如盛り上がり、何かが地中から飛び出してきた。
それは一つではなく、四方八方からボコボコと湧き出てくる。
「うわああなんだこれ。どうなってんだあああ」
それを見て俺は叫びながら腰を抜かし、その場で尻餅をついてしまった。
「ふふふ、面白くなってきたじゃないか」
「ぜ、全然面白くねぇよ……こ、殺されるぅ!」
地中から現れたのは、土色の痩せこけた肌に、スラリと伸びた2本の手足、赤い目をした異星人。
身体は大きく、2メートル強。それが百体ほど湧いてきて俺たちを囲い込んでいる。
これが侵略側なのか現地の人たちなのかは分からないが、こちらに敵意を持っているのは明らかであった。
キャプテンは腰のレーザー銃を取り出し、構えた。
「早く立つんだヒイロ。正面突破するぞ」
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