第101話 正座する王

 ロイにとってなし崩し的に駆けずり回ることになったヴィーナスシリーズのお披露目会は、リラやソニアたちの活躍により大成功に終わり、全ての参加者がその効果に感嘆の声を上げていた。


 元々美しいことで知られる后たちの輝きは更に増し、王はその光景に大満足の様子で上機嫌だった。


 后や側室たちは皆40歳に近い年齢にも関わらず、30代前半ほどに見える容姿をしていた。しかし、化粧により20代半ばに見えるほどの肌の艶と瑞々しさは、妃に化粧をしたソニアが、こんなふうに年齢を重ねられたらなと思うほど上品な姿だ。王の子供たちは全て成人しており、そのような子を持つ年齢には見えない。


 公人であればこそ、年齢を知られているのもあり、あの年齢でこれほどの若さを!と、后は立場上高位の貴族と接するが、身分が低い出身の側室は下級貴族に囲まれ、羨ましがられていた。


 そこにロイ自身の手により母と妹のエマにも化粧を施され、ロイに頼まれサンプルを配ってくれた。


 流石にロイも自分が何を求められているのかが分かり、ソニアから渡されたサンプルを配る手伝いをしていた。


 一通りサンプルを配り終えると、ロイは売ってくれ攻撃に遭い、国王はその反応にほくそ笑んでいた。


 ロイはなぜこうなった?と思いつつも、深く考える暇もなく、大勢の貴族に囲まれていた。


 やがてお披露目会が終わり、賑やかだったホールも静けさを取り戻す。


 パーティションが閉じられ、残ったのはロイの家族とパーティーメンバー、アルディスの領主、ロイの婚約者のミネア、そして王と后、側室たちだけとなった。


 その場の雰囲気が一気に和やかになるも、王はロイの驚きと困惑の表情を見て笑い転げた。そして、先程叙爵されたばかりのロイの兄に少しばかり苦言めいたことを話していた。


「お前の弟は中々面白い反応をするのう!お前も弟のようにもう少し面白い反応をしてもよいのだぞ!そうだ、好きな令嬢はおらんのか?居るなら弟の面白さに敬意を払い婚約させてやるぞ!」


「ロイ殿に失礼よ!あなた、ちょっとそこに座りなさい!」


 そんな中、ロイは目を大きく見開き状況を把握しようと必死だったが、王の笑い声に圧倒されていた。度が過ぎたのか、后や側室たちが王を正座させ、シュンとさせた。えっ?と驚くしかなく、正座させながらも王はロイの戸惑う姿にニンマリしている。つまり反省はしていない。


「あなた、もう少しお静かにお願いします!子供じゃあるまいし、恥ずかしいですわよ!」


 后が微笑みながら言うと、側室たちもうなずいた。


「ロイ殿、あなたは本当に素晴らしいものを作り出しました」


 后が優しく語りかけた。


「このヴィーナスシリーズのおかげで、私たちはさらに美しくなれました。心から感謝しています」


 側室たちも同意し、ロイを称賛する言葉を次々と口にした。


「ところで、ロイ殿。あなたの婚約者の名前を教えていただけますか?」


 后が尋ねると、ロイは少し驚きながらも答えた。


「彼女の名前はミネアです…」


 ロイは誇らしげに答えたが、その態度にミネアは大いに驚いた。根に持たれて避けられていると思ったのに、后たちの前で紹介をしてくれ、ミネアも優雅に返す。


「ミネア、素晴らしい婚約者を得ましたね」


 后が微笑む。


「ロイ殿、あなたには側室を含め、皆を大切にする責任があります。あの王のようになってはいけませんよ。」


 そう言いながら、正座をさせられている王を指差して笑った。


 王は恥ずかしそうに頭を掻きながら言い訳を始めた。


「いや、皆の前ではただの冗談だよ。お前たちの姿が輝いたものだから、年甲斐もなくはしゃいだだけだから」


 ため息を付きつつ、后は続ける。


「ただし、一つだけ見習いなさい。それは、后である私と、側室である彼女たちを公式の場以外では分け隔てなく接し、公正に扱っていることです。それと決して女性を手荒く扱わないところです」


 ロイはその言葉に深くうなずく。


「はい、その教えを心に刻みます」


 その夜、王宮は再び静けさを取り戻したが、ロイとその仲間たちは新たな絆と決意を胸に秘めていた。ヴィーナスシリーズの成功は、彼らにとって新たな始まりを意味していたのだ。

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