第7話 不思議な共同生活の始まり
ギルド職員となり、四ヶ月という日々があっという間に巡り、ソニアの宿泊場所についての話しがロイの耳に入った。干し草の中で夜を過ごす彼女の姿を思い浮かべると、胸が痛んだ。仕事で忙殺される毎日だったが、この事実は彼の心に深い影を落とした。
噂というか、彼女の体に干し草が付いていることが有ったから、気になっていたのと、ソニアが冒険者とトラブっているのを見てしまったのだ。
そんな中、ギルドの外でソニアが他の冒険者たちと話しているのを見かけた。
時折ポーターの仕事をしていると言っていたし、今日は魔物を降ろしていた。
だから素材を換金したお金を分配し、冒険者からソニアの分け前を渡されていたようだ。
それだけならどうと言うことはない。
そんな時、なじる声が聞こえた。
「おい、干し草女、金に困ってんだろ?そろそろ体でも売ったらどうだ?何なら俺たちが買ってやるよ!器量が悪そうだから大して気持ち良くないだろうがな」
「駄目だって!こいつ干し草置き場で寝てるから、全身干し草だらけだからさ、チクチクして痛いだけだって!」
「確かにな!うけるぜ!ケケケ!」
軽くだが肩を突かれ、少しよろけていた。
「何をやっている?」
俺は我慢できずその場に駆け寄った。
「ああん?なんだこいつ?」
「止めとけって。こいつギルドの職員だぞ。絡むと面倒だからよしとけ!」
リーダー格の奴がちっと舌打ちをすると、5人組の冒険者は去っていった。
ソニアは気まずそうに、失礼しますと言って走り去ってしまった。
気になってギルドの職員に聞いたのが、ソニアはどうもお金がなくて、お金が最低な干し草置き場で寝ているらしいぞと聞いた。
翌日の仕事が終わりを迎えた頃、解体場長ガレスにソニアのことを相談した。
「ロイ、お前の部屋が狭くても、ソニアのために空けてやれ。ただし、下心は持つなよ」
「それって?」
「お前さんは馬鹿か?女の子が干し草置き場で寝泊まりしていると知って、俺の答えがお前さんの部屋に住まわせてやれというのは分かるよな?お前さんの部屋も無理やり空けたんだ、その子に貸せる部屋なんてないが、お前さん次第なんだよ」
ロイの部屋は狭く、質素で貧しい生活が垣間見える場所だった。それでもロイはソニアに同居を提案した。
「ソニア、その、君が干し草置き場で寝泊まりしているって知らなかったんだ。僕の所は狭いけど、二人で寝られないことはないと思う。その、一緒に住まないか?君がいればこの部屋ももっと良い場所になる。も、もちろん変なことはし、しないよ」
ソニアはその提案に心から喜んだ。
しかし、ロイの事情もある程度知っているので、手放しで喜べない。
「ありがとう、ロイ。一緒に住むって良いの?確か狭いんでしょ?」
「ソニア、確かに僕が貸してもらっている部屋は狭いけれど、君がいると心が広がる気がするよ。僕と一緒に寝泊まりするのが嫌じゃなかったら検討して欲しいんだ。それに昨日冒険者とトラブるになっていたのを見てしまった・・・」
ロイは柔らかな笑みを浮かべながら言った。
「昨日はごめんなさい。あんなところ見られたくなくて…」
「うん。大丈夫。分かっているから。あ、改めて言うよ。僕の同居人になって下さい。」
ロイはネルトン宜しくほぼ直角に腰を曲げ、下を向いた状態で右手を伸ばす。
ソニアはキョトンとしながら、覚悟を決める。この人は酷いことをしないし、信頼が出来る。もし体を求められたらその時はその時だ。
この2か月、幾度となく夕食をともにし、人となりも善良だと、自分なんかにはもったいないと。それに自分にそんなように提案してくれることが嬉しかった。
そして、その手を両手で包み込むように握る形で答えた。
ソニアは干し草場での生活を終え、ロイの狭い部屋で新たな生活を始めることになった。四畳半程の空間は彼らにとっての小宇宙で、二人はその中でお互いの存在を尊重し合いながら生活を営もうとした。
早速部屋に向かったが、寝るだけなら十分だ。
ベッドと小さな机兼テーブル、吊戸棚があり荷物は殆どなく、剣は入口に立てかけられている。
ロイがベッドを譲り、床で寝ると申し出ると、彼女はきっぱりと断った。
「私は床で十分よ。大事なのは一緒にいられることだから」
急ぎ布団を買いに行き部屋の中には新しい布団が敷かれ、二人は新しい生活を始めた。もちろん持ち運んだのはソニアの収納だ。
「ありがとう、ロイ。私もここは心が落ち着く場所になったわ」
ソニアは心からそう感じていた。
ロイの部屋には、彼の大切な魔法書が棚に並び、壁には彼の愛用する道具が掛かっていた。ソニアはそれらを眺めながら、彼の生活に静かに溶け込んでいく自分を感じる。
一方、ロイはソニアのおかげで生活が整えられ、以前よりもずっと生き生きとしていた。ソニアが手際よく部屋を整える姿を見ると、彼はいつも心から感謝していた。
もちろん寝ているソニアを襲うことはない。
「ソニア、君のおかげでこの部屋がずいぶん変わったねよ。今日は何か手伝えることはないかな?」
ロイは掃除道具を手にしながら尋ねた。
「うん、そうね。あそこの棚、ちょっと高いから上の方を拭いてくれるかしら?」
ソニアは指示を出すと、ロイに掃除用の布を手渡した。
二人で協力し合う日々は、彼らの関係をさらに深め、平和な日々を過ごしていた。しかし、そんなある日ギルドマスターから、ロイに対して特別任務が与えられる。
「ソニア、しばらく留守にすることになったんだ。手紙配達の任務でね。」ロイはソニアにそう告げた。
「心配しないで。私一人でも大丈夫よ。でも、早く戻ってきてね。」
ソニアは強がりながらも、ロイの無事を願っていた。
ロイは任務に出る前日、ソニアに自分が学んだ生活魔法を教えることにした。彼は彼女に灯りを灯す魔法や、水を清める魔法を丁寧に教えた。
二日前にようやく使えるようになったのだ。
「こんな風にするんだよ。簡単だから、君にもすぐにできるはずだ。」
ロイは優しくソニアの手を取り、魔法の仕草を手ほどきした。
ただ、完成形を見せただけだが、魔法書や魔導書を読んで理解しないと魔法は使えない。
普通それらの書は人には貸さない。
ロイの持っている魔法書は、母親が送ってくれたのだ。
ギルドに住んでいると手紙を送ったが、ある日ギルドに荷物が届き、生活魔法のしかないと断りを入れ母親が送ってきた。
家にあるのを送ってくれたのだ。
「ロイ、ありがとう。これなら私も一人でも大丈夫だわ。」
ロイが出発する朝、ソニアは彼に手作りのお守りを渡した。
「これを持っていれば、きっと無事に戻ってこれるわ」
「ありがとう、ソニア。これがあれば、きっと大丈夫だろう。」ロイはお守りを大切にポケットにしまった。
馬車が去った後、ソニアは一人で部屋に戻り、ロイの帰りを待ち続ける。 ロイがいない間も一緒に過ごした部屋の隅々を大切に整える。そうすることでロイへの寂しさを紛らわせていた。
ソニアは彼が教えてくれた魔法を勉強すべく魔導書に目を通す。頑張ればロイが戻る頃に使えるかな?そうしたら驚くよね!彼女は心の中で思っていた。
ソニアは新たに学んだ魔法に自信を持ち始めていた。
そうしてロイが戻る日を心待ちにしていた。
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