第1節 歪められる信仰

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――――第1節 歪められる信仰――――




PM 2:50 ラスティアの車


 北海道札幌市。自然と隣接する大都市に魔女が営む探偵事務所があるらしい。

 そんな、箒に跨って空を飛ぶ――――わけではなく、車で移動してる魔女は誰か。

 私である。今はラスティアの車で、事件の現場に向かってる最中だ。


「まだつかないの?」


「そうですね。まだかかると思います」


 ラスティアが言うに、市の中心部からはだいぶ離れているらしい。その上、ナビの経路は何かと車通りが激しい道路だそうだ。

 その間に、私は警察からもらったファイルを見る。その中にある写真は、腐敗した人間の遺体が撮られていたのだから。



 ――――――――――――――――――――


 事の発端は、今から2日ほど前である。例のいじめ問題が解決してから2ヶ月も経ち、私たちは何事もなく過ごしていた。軽い依頼を精査し、店じまいとしようとした時だった。

 なんと、道警の刑事が、私の元に来たのだ。


「キサラギ・アルトナさんですね?」


「えぇそうですが? 何かうちにご依頼でも?」


「私、北海道警察の安達と申します。前任の望月と、殉職された五十嵐の後任で、警視庁から転属したものです。

 このお二人が、以前あなたに事件の手助けを依頼したと聞き、私の同様な手段をとろうとした次第です」


「なるほど。では、何か不可解な事件でも起きたと見ていいですか?」


 私がそういうと、安達さんはファイルを広げる。


「これは?」


「近頃、世界中で起きてる連続集団変死事件を一通りまとめたものです。

 事件は主にEU諸国やアメリカなど、キリスト教が普及してる地域で多発していましたが、それが今はイスラム圏、仏教を信仰するインドなどでも起きてるのです。

 そして厄介なことに、日本でもここ最近多発しているのです。どれにも共通してるのは、発見までにかなりの時間を有してること。そして、どの宗教が行ってるのががわからないと言うことです」


「なるほど。では、それがカルト系なのか、有名どころの宗教がやってるのががわからない状態っと言うわけですね」


 安達さんが言うに、どの団体がやってるのかがわからないらしい。そうなってくると、警察としても事件性の立証が出来ない状態でもある。

 安達さんは、さらに地図を広げる。地図には、赤い丸で塗られてる箇所が何ヶ所もあった。


「この赤丸が、今回の事件が起きた現場です。ちょうど、5月頃より発生してると見ていいでしょう。

 そして、つい先日この街でも起きたと言う連絡があり、現場に立ち入る前に、あなたにご依頼しようとした次第です。どうです? 引き受けていただけませんか?」


 安達さんは、値段の書かれた紙を私に渡す。どうやら、私の素性まで調べた上で依頼しに来たようだ。

 私は、してやられたと思い、その紙を受け取る。


「わかりました。では、成功報酬を含めた代金を改めて提示しますので、支払いはその時にでも」


「ありがとうございます。では、失礼します」


 安達さんは去っていく。それを見送った私は、椅子にもたれこむ。


「厄介なのが舞い込んできたな」


「だね。姉さん、引き受けるの?」


「引き受ける他にないさ。魔術が絡んでると、厄介極まりないしね」


 コーヒーカップを片付けながら、ラスティアは言う。私は、ファイルを眺めながら事件を考察するにだった。




 ――――――――――――――――――――



 そして今に至る。どうやら、北区の方まで来たみたいだ。


「篠路? こんな所で、何かあるの?」


「ここで事件が起きたと見ていいだろう。ほら、あそこ」


 遠くを見てると、道警の方々が現場検証を行っていた。その中に、安達さんの姿も確認できる。

 どうやら、私を待ってると見ていいだろう。私は、その近くまで向かう。


「キサラギさん。もう来てましたか」


「安達さんこそ、お早い到着で。それで? 状況は?」


「こちらもただいま来た所ですので、なんとも。それはそうと、始めましょうか」


 私は頷くと、忍足でドアの所に向かう。だが、ドアの前に着く前から、腐敗臭が激しく鼻に付いてくる。

 進むにつれ、大量の蝿が辺りを舞い始める。その前から、あまりの激臭で、嘔吐する警官が続出し始める。


「これはひどいな。ここまで匂いが来てるなんて」


「地域住民によると、この数日程前から異臭がすると通報が多数あったのでここと見ていいでしょう。

 しかし、ここまで異臭が激しいとなるとご遺体は数体いるかと」


 私と安達さんは、ドアの所までに着く。私が手をつけると、蝿が舞い散る。

 意を決して、ドアを開ける。すると、腐乱した多くに遺体が、部屋の中にたくさん陳列していた。


「これは……?」


「ここまでとは……」


 私と安達さんは、その光景を見て驚きを隠せないでいる。肉体は朽ち果て、さらには朽ちた箇所からは蛆虫が沸いていた。

 足を進めると、粘着質な後が響く。足を前に出すと、糸を引いてるような感じが、靴越しにでも伝わる。

 私は、腐敗が激しい遺体の服を見る。すると、どこかで見た事のあるような印字がされた模様が浮き出ていた。


「これは、確か……」


「どうかしたの?」


「この印字ってもしかしてだけど、『聖教会』のものか?」


「それって、まさかと思うけど奴らがやったんじゃ」


「あんともは言えないな。奴らと仮定したら、やってることがカルト宗教そのものだ」


 私たちは驚きを隠せないでいる。まさか、『聖教会』がこんなことをやるなんて、考えられないのだから。

 それを見ていた安達さんは、鑑識を呼び写真を撮らせる。


「では、遺体を外に出しますので、一時ここを出ましょう」


 安達さんに従い、一度小屋を出る。数分程外で待ってると、特殊清掃の業者が来たみたいだ。

 道警の面々は、腐敗した遺体を死体袋に詰める。しばらく眺めてると、安達さんが遺体の一部を私に渡してきた。


「キサラギさんの方でも、調べてもらってもよろしいですか? 我々ではわからないことがあるのかもしれないと思うので」


「わかりました。では、これは預かりますので、何かあればおって知らせます」


 そういい、安達さん達はその場を後にした。私は遺体の一部を明日香に渡す。


「仕舞ってくれる?」


「いやだけど、まぁいいよ。これが何かの手掛かりになるといいけど」


 明日香は、亜空間にそれをしまう。私は一服をするため、煙草を口に咥える。

 この事件よりも、今は奴が言っていたことが気になって仕方ない。奴のいう、戦争とは、一体なんなのか。

 今はそれを確かめるのが先だろうと思う。しかし、何も見当もつかずに今日に至ってしまった。

 正直、そのことで頭がいっぱいなのもある。そう思い、空を見上げた。

 季節が夏なのもあり、日差しが強くなっている。

 まずは、受け取った遺体のサンプルの解析が先だと思い、私は事務所へと戻るのだった。 

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