幕間 ティナの想い
Side:ティナ
「先生、こ、こうですか?」
「ええ、とっても上手よ? ティナさん凄いわ。もっとよ、もっと」
今日は朝から都会で流行っているお菓子の作り方をココ先生から教わっていた。
「んぐ、んぐ、ふぅ」
「手を休めちゃだめよ。それに勝手に形を変えないの」
「はい、先生、でもなんだかこの触り心地……」
手触りはまるで私のおっぱいのようだ。
生地が自然と手に馴染む私の大きさに近づいている、ような気がする。
「あら! あなたこんなに張りがあるの? 羨ましいわ」
「いえいえ、先生のも柔らかそうですし、ジル様がいつもうっとり眺めていますよ」
「あの娘はただの変態ね。完全に私を想像で丸裸にしているわ」
「わかります? そうなんですよ! 私もたまに想像で丸裸にされているみたいで……うふふ」
「そこ、悦ぶところじゃないわ」
やっと生地ができあがり、予め用意しておいた型にとっていく。
「……ティ、ティナさん、これ……」
「さすが先生! わかっちゃいましたか」
型はジル様に楽しんでもらえるように
「うふふ。これをみたジル様の顔……今から楽しみです!」
「そ、そうね、わ、私は立ち合わないほうがよさそうね。あとは焼くだけだし任せて大丈夫かしら」
ココ先生は大人だった。
私の想いや苦労を知っているのか、ただ微笑んでいる。
少し疲れているのか、笑顔が引きっているようにみえた。
「はい、がんばります!」
◇◇◇
「おっ! バターのいい匂いがするね」
焼き始めて暫くすると、
稽古終わりだったらしく、額に汗が伝う。
「ほほう、なるほどな。ココ女史にお菓子作りを。いいんじゃないかティナ」
「ありがとうございます! ……ジル様はよろこんでくれるでしょうか」
私は急に不安になった。
ココ先生は完成を見届けることなく授業に戻ってしまったからだ。
「ああ、あいつも意外とこういうのに弱いぞ」
「本当ですか! あの……お館様、よろしければ味見してもらえますか?」
「もちろん、どれ……」
私は焼き上がったお菓子を並べ、お館様に見せた。
その途端、真顔のお館様は焼き菓子に手を出さず、私の肩を何度もたたき始める。
どうしたのだろうか。
「ティ、ティナ、よく聞くんだ」
「は、はい?」
「きっと私がジルだったら泣いて喜んだに違いない」
「え?! 嬉しいです!」
「が、世の中には“秘めたる想い”という言葉があるのは知っているかね?」
「秘めたる……想い、ですか?」
お館様はくるりと背を私に向けるとわずかに震え出した。
声もどことなく震えている。
「そ、そうだ。気持ちはモノにせずとも伝わる、ということなんだよ。……ぷぷ」
「は、はぁ」
難しく、歯切れが悪いお館様は初めてかもしれない。
「お父さんー、ここにいたの」
「父いた!」
そこへリディア様とジリウス様がお館様を探しに現れた。
「あら、ティナ、どうしたの、そのうんこ」
「ケツもある」
「え?」
「あっ! リディア! ジリウス! 居間で待っていなさい!
「父さんのダジャレつまんないー。それよりもそのうんこ、リアルですごいわね!」
「ケツから赤毛が生えてる」
え? うんこってなに? これはちょっと焦げちゃったけど雲……。
ケツ? ハートなんだけど……確かにハートの真ん中に私の髪の毛が生えたように伸びている。こねる時に紛れちゃったのかもしれない。
それにしてもうんこ……ケツって、ひどい!
「ぷぷぷ……」
「お館様まで! ひどい! これは雲とハートです!」
「こっちのゲロは?」
「ゲロじゃないです! クマちゃんとウサギちゃんです!」
「おっぱい、おっぱい」
「おっぱいじゃないですぅ! モグラさんです!」
「「「モグラ?」」」
「ああっ! ジリウス様、勝手に食べないで!」
「モグモグモグ……おぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「汚! ちょっと何吐いているのよ! それこそティナに失礼じゃない! 見た目はアレだけど美味しそう。どれ、もぐもぐもぐ……しょっぺぇぇぇぇぇおぇぇぇぇぇぇぇ!」
「うっわわわ! 二人ともなにしているんだ! ティナ、何を入れたんだ!」
「え? えっとレシピ通りに……あっ! あれれ? てへへ」
おかしい。お小遣いをはたいて手に入れた砂糖が未開封のまま目の前にある。
危うく二人の若者の味覚を奪うところだった。
今度はココ先生に最初から最後まで味に関わる部分は監修してもらい、再度焼き菓子を完璧に作り上げることに……成功!
うへへ。
「おう、これ私にくれるのか。ありがとうティナ。うんことケツとゲロか。なかなか攻めるなぁ。……このおっぱいは最高だね。もぐもぐもぐ……うまい! 一緒に食べよう!」
「……はい」
ことのほか喜んでくれたジル様と微風が吹く青空の元、ベランダで一緒になかよく食べた。たぶん、これでいい。
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