第46話



 怪我人を残しておくと、それが宣戦復帰するまでの間はその人間の対応に当たる必要が出るからな。だから、ダメージを受けているほうを残した。


 三人が突っ込んできて、それぞれ持っている武器を振り抜いてくる。

 俺が連続の攻撃を短剣で捌きながら後退すると、彼らの表情が明るくなっていく。


「おいおい! ひょっとこ兄貴! 思ったよりも弱いな!」

「レベルのわりに動けてねぇなおい!」

「これならマジでやれそうだぜ!」


 押している、と勘違いしてしまったようだ。

 彼らのスキルを参考がてらみていただけにすぎないんだがな。

 彼らは自動攻撃系のスキルは使ってこない。メリットデメリットを理解しているのだろう。


 なのでもう、十分だ。

 近くの男が振り抜いてきた攻撃に合わせ、【パリィ】を放つ。

 相手が攻撃をする瞬間に合わせれば、動きを止めることのできるこのスキル。


「が!?」


 見事に動けなくなった男を庇うように一人が出てくる。

 そうなれば、さっきの回復中の子に割いていた人数を含めれば、残りは二人。いや、回復中の子はひとまず放置で、そっちの子が突っ込んできているな。

 俺は後退しながら、


「怪我人放置はよくないぞ?」

「え?」


 【投擲】で短剣を投げる。

 回復中だった子は反応できなかったのだろう。俺のナイフが腹に突き刺さり、膝をつく。まだ仕留められないか。まさか、反応できないとは思っていなかったので、喉を狙って投げなかったんだよなぁ。


 相手を過大評価してしまったようだ。

 慌ててもう一人が守るように下がる。


「てめぇ! 調子に乗るなよ!」

「ぶっ殺してやるぜ!」


 残っていた二人がスキルを放ちながら突っ込んできたので、俺は一人の攻撃をかわす。

 そして、もう一人の攻撃をかわしながらその手首を掴む。


「ほらよ」

「え!?」


 無理やり引っ張るようにして体の上体を崩したあとで、その背中をとんと押す。

 男のスキル発動中の剣が、【パリィ】から復帰したばかりの男に命中。


「ぐああ!?」

「くそ!?」


 そして、そっちに気を取られている間に、一番近くにいた男を切りつけて仕留めた。


「なんだよ、これ」


 絶望的な声をあげている男が立ち直るのを待つつもりはない。

 すぐに仲間のもとへと送ってやり、残っていたのは女性二人と後衛四人。

 これだけ、開けた状態になると奥から攻撃が飛んでくる。


「に、逃げろ! 逃げるまでの時間を……ぐわ!?」


 俺は二人を盾にするように移動し、矢と魔法の攻撃から逃れながら短剣を【投擲】する。

 木々に隠れているようだが、声の位置でバレバレだ。

 ……ああ、一応スキルもあったな。


 スキルを使いつつ、隠れている彼らを攻撃していく。

 にげだした女二人も、逃しはしない。背中を晒してくれるので、随分と当てやすくなった彼女らを的あてのような感覚で短剣を投げつける。

 よろめいて動けなくなった彼女らを放置し、俺は森の方へと向かう。

 四方八方へと逃げ出しているが、俺から逃げられると思うなよ?



「お兄様。あんなにたくさんやっつけるなんて凄いです……」

「まあ、思ったよりも手応えなかったな」


 全員、わりと装備とゴールドを持っていたな。

 名前付きのものがいくつかあった。名前の横にはつけたプレイヤー名とIDが表示されるので、これは売店の限定販売に登録しておこう。

 ルルラを配置しておけば、該当の所有者が現れてあとは返却できるはずだ。


 掲示板にでも情報を流しておけば、取りに来るだろう。

 もしも、来なかったら俺のものにしてしまえばいい。

 それ以外は特に優秀な装備はないので、売ってしまえばいいだろう。


「よし、次行くぞ」

「え? お休みしないんですか?」

「掲示板に新しい目撃情報があったみたいだからな。ほら、行くぞ」

「い、いつの間に掲示板を見てたんですか?」

「戦闘中だ。慣れてくると案外できるもんだぞ? 右と左を同時に見る感じだ」

「え? えっと……」


 ルルラが一生懸命やろうとしては、右、左と目が動いている。

 ……まあ、普通の人にはできないわな。

 俺が笑っていると、ルルラがはっとなって頬を膨らませる。


「も、もしかしてまた私のことをからかったんですか?」

「そんなことすると思うか?」

「すると思います!」

「ご名答」

「むうう!」


 ルルラが右と左を同時に見ようとしていたものはあとでショート動画にあげよう。

 分身に今の部分の編集作業をするように指示を出しつつ、俺は次の討伐へと向かった。



―――――――――――

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