第19話
まずは店だ。
移動しながら掲示板の情報を装備品関連のスレを見ていたのだが、どうやらこのゲーム店売りの装備品が全体的に弱いらしい。
プレイヤーが作るか、ドロップアイテムを狙うしかないらしいが、現在鍛冶師系の職業はまだ発見されていないそうだ。
とりあえず、NPCに店の場所を教えてもらったので、期待半分で武器屋を見てみる。
それっぽい店構えをした武器屋に入った俺は、早速武器を眺めていく。
……店内に並べられた武器を見てみると、確かにどれも性能は微妙だな。
良いものがあれば買い替える予定だったし、なんなら舞のために購入する予定だったが、これはない。
俺のレベルで装備できるものもあったのだが、性能としてはモンキーナイフと同じくらいだ。
ドロップアイテムを狙ったほうがいいな。
「そうだった。この槍とかっていくらで買い取ってくれるんだ?」
「ああ、異邦人さんか。売りたい装備品をインベントリから選択してくれ。こっちで確認するからな」
「へえ、見えるのか?」
「まあね」
売れる場所ではそういう能力を持ったNPCがいるんだろうな。
早速、ドロップしたガイコツ兵の槍を売ってみようとしたのだが……売値は2000ゴールド?
いや、性能的にここに並んでいるものよりも明らかにいいのだが、かなり安い。
ぼったくりでは?
「おい、店主よ。俺が物の価値がわからない田舎者だと思ってんのか?」
「い、いやとんでもない……。済まないね。オレたちこの世界に住む人間で魔物がドロップした装備をつけられるのは一部の人間だけなのさ。そのものの価値は異邦人たちにしか分からないな」
「……つまりまあ、他のプレイヤーに売れってことか」
「プレイヤー? ああ、異邦人のことか? そういうこった。一応、俺たちの世界にもたまに扱える人もいるんだよ。もしかしたらそういう人なら買ってくれるかもしれないなぁ」
……もしかしたら、この世界での重要キャラクターとかだろうか?
このゲームの目的は異邦人として現地の問題を解決しながら自由に過ごすことだ。
だが、どうやらメインクエストらしき存在もあるらしい。すでに、あちこちで匂わせのようなことをいうキャラや石碑などがあり、考察班たちの間で盛り上がっているようだ。
そういったメイン級のキャラクターたちは、魔物のドロップした装備品を扱い、一緒に戦う時もあるのかもしれない。
とりあえず、魔石とかはともかく装備品は店売りしない方がいいことが分かったので、俺は武器屋を後にした。
そのうち、どっかでオークションでも開いてまとめて売り捌くとでもするかね。
重要キャラクターをわざわざ見つけ出して装備品を売りつけるというのも面倒だし、ひとまずはインベントリだ。
とりあえず目的の一つを達成した俺は、ギルドへと向かう。
ギルド、ねぇ。
異世界でも似たようなものはあったな。
ギルドへと入った俺は早速、魔物の情報を集めるために受付へと向かい、そこで話を聞いていく。
「ちょっと聞きたいんだけど、この辺で短剣をドロップする魔物とかいないか?」
「え? 短剣のドロップですか? ということは、あなたは異邦人ですね?」
「ああ、そうだ」
答えると、何やら注目が集まった。異邦人、というのは基本歓迎されるようで、視線はどこか優しいものだ。
「そうですね……ここから北の山岳エリアにいる盗賊ゴブリンなどが狙い目かもしれませんね。レベルは30くらいになってしまいますが……」
「へぇ、なるほどな。そんじゃまあ、そいつ狩りに行ってみるかな」
「あっ! それでしたら……ついでに、山岳エリアにいる盗賊ゴブリンリーダーも討伐してくれませんか? 最近、北の街との移動の際に襲われる人が増えていて困っているんですよ」
こいつ。
さっき俺を見ていたのは、クエストを依頼するためだな?
ちゃっかりしていやがる。
でもまあ、俺にも利益があるならついでに片付けられるしいっか。
「北に街があるのか?」
「ええ、ちょっと小さいですがありますよ。この世界で四番目に作られた港町です。魚料理が美味しいんですよ」
それはもう、食べたくなるような表情で感想を述べるギルド職員。
これもクエストのようで、盗賊ゴブリンリーダーの討伐が増えている。
まあ、余裕を見て討伐に向かえばいいだろう。
「ゴブリンリーダー倒したら報酬はたんまりくれるんだよな?」
「ゴールドになりますが……」
いや、今はそれが一番欲しいんだよな。
次の転職で新しいスキルも手に入るだろうし。
「わかった。街でやることが済んだら行ってみるよ」
「お願いします! ありがとうございます!」
こう、快く応援されるとこちらとしても頑張りたい気持ちになるな。
異世界で勇者として活動していたときは、俺が助けても、「勇者らしくない」とかぶつぶつ文句を言われたからな。
現地人に、俺は恐らくたいそう嫌われていたことだろう。女神は俺が何かしら達成すれば、文句を言いつつもお礼や感謝をしていたあたり、まだマシだったかもしれない。
でも俺と舞を引き離した罪だけで許せない存在だ。
店、魔物の情報を手に入れた俺はギルドの隣にあった転職神殿へと向かう。
……アンタレスの街と比べると何やら見慣れない石像が増えているな。
近くにいた修道服を着たシスターらしき女性に、声をかける。
「この街でなら、スキルブックが購入できるって聞いたんだけど、それってどこで買えるんだ?」
「買う、ではありません。祈りの対価として、授かるものですよ」
微笑とともにシスターは言ってきた。
笑顔の圧が凄まじい。スキルを購入、ということがかなり無礼なことなのかもしれない。
「え? じゃあタダなのか?」
「多少のお金はかかりますが、購入、ではありません」
「いや、それは買うでいいだろ?」
「何か、言いましたか?」
「いやいや、買うでしょ?」
「……えい」
ばしっとビンタされた。
「えいじゃねぇよ! いきなりビンタしてくるな!」
「神の罰が、くだりましたね」
「勝手に神の代行してんじゃねぇよ!」
まあ相手が美少女だったからまだご褒美で済ませられるものの、男だったらこの場で戦闘開始だっての。
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