第14話
もともと、この部屋汚かったので、例のGの存在もあり得る話だったし。
「……えっとね、兄貴。チュートリアルめちゃくちゃ難しくてね……今の最高記録が十人くらいの盗賊討伐、なんだよね……」
「つまり、俺が更新しちゃって驚いた、と?」
「そういうことだよ!」
「お兄ちゃん、凄い?」
「凄すぎるよ兄貴!」
きらきらとした目を向けてくる舞に、俺は胸を張る。
「ていうか、まだ発見されてない隠し職業をもうこんなに明かしてるなんて……!」
「そ、そうか?」
「こ、これ兄貴あんまり人に話さないほうがいいよ! この情報、高く売れるかもだから!」
「情報を売る?」
「うん……ていうか、兄貴も配信とかやるのもありじゃない!? こんなに色々情報持ってて、しかも強いしかっこいいし、イケボだし、兄貴絶対人気出るよ!」
「かっこいい以降は舞の色眼鏡入ってないか?」
だとしても、褒められてとてもお兄ちゃんは大満足だけど。
「いやいや、兄貴かっこいいから! あっ、まだまだ色々聞きたいけど、そろそろ配信再開しないと……またあとでね兄貴!」
「おう、了解だ。あっ、舞ってどんな武器使ってるんだ? 魔物がドロップしたら共有しようかと思ってたんだけど」
「え? 斧だよ!」
「え? まじで? それならオークの斧あるからあげよっか?」
まさか、舞にこんなすぐに貢げるなんて。
案の定、彼女は満面の笑顔だ。
「ほんと!? ちょうだい! あっ、でもお金そんなに持ってないんだけど……」
「いやいや。兄妹でアイテムの共有くらい別にいいって。これって、ゲーム内でアイテムを送ったりできるのか?」
「フレンド同士なら大丈夫だよ。とりあえずフレンドコード送っておくから……あーっと、兄貴ごめん! また細かいことはあとでね!」
舞が両手を合わせてぺこりと頭を下げる。いやいや、俺は舞に褒められればそれでいいからな。彼女のリスナーたちも待っているだろうからあまり引き留めてはいけないだろう。
舞は斧を使っていることが分かっただけ十分だ。
俺も、自分のVRマシンで横になり、再び『リトル・ブレイブ・オンライン』の世界へとログインした。
ログインした場所は、最後に俺がいた場所だ。
少しして、キリキリマイからフレンド登録の申請が来ました、とメッセージが画面に出てきた。
『兄貴! これあたしのアカウント! 登録お願いね!』
そんな舞のメッセージがついていた。自分の名前くらいは書いてくれないと分からないじゃないか……と舞のドジな部分を可愛いと思っていた俺は、ひとまずオークの斧を彼女に送りつけた。
このゲームの装備品は、職業、レベル、ステータスのどれかをあるいは複数を参考にして装備可能かが決まる。
例えば、レベル関係なく【暗殺者】なら装備可能とか、職業関係なくレベルだけ満たしていればいいとか、職業とステータスが一定の数値を満たしていないとダメ、とか色々だ。
モンキーナイフは敏捷値が一定以上で誰でも装備可能だ。
たぶん、条件が厳しいものほど、性能も上がるんだろう。
オークの斧は筋力が満たしていないといけないので、まだまだ舞には早いのかもしれないが、いずれは使うときもくるだろう。
『これ、言ってたやつ』
『なにこれ!? え!?』
『倒したオークがドロップした斧だ。要求筋力多いのと俺の職業だと装備不可だからな』
『オークって……レベルいくつだった?』
『20だ。村の人たちと協力してぶっ倒した』
『とりあえず、いい短剣手に入ったらあたしからあげるからね! 配信始まるから、またあとで! ありがとう大好き兄貴!』
大好き、兄貴……大好き、兄貴……。
何度も舞の声で脳内再生していった。
……このゲームを始めて良かった。
それからしばらくそのメッセージを見ていたが、そろそろゲームを再開しよう。
舞のために新しい装備をとりに行かないといけないしな。
そのためにも、より強い魔物がいる場所に行きたいのだが、いまいち情報がない。
こういうときは現地人に聞くのが一番だな。
「ちょっと聞きたいんだが、ナイフモンキーよりも強い魔物がいる場所を知らないか?」
「……そうですね。さらに東にいくといいかもしれませんよ。東の坑道のダンジョンを抜ければ、大きな街もありますし」
「へぇ、次の街か……」
新しい街に行けば、もしかしたら舞が褒めてくれるかもしれない。
また大好きと言ってくれるかもしれない。
行くしかねぇなぁ!
……その光景をニヤニヤしながら想像していた俺は、早速そちらへ向かうことに決めた。
なにが必要になるのか分からないので、魔物がりで入手した、魔石を売却してポーションなどを揃えておく。
ポーション類は使用してから再使用まで時間がかかるので、連発はできない。
今は10%回復ポーションしか売られていないので、あまりアテにしてはいけないだろう。
村を通り抜けるように東へと向かいつつ、魔物を狩っていく。
……ナイフモンキーを大量に倒したり、ソロでの戦闘が長いからから称号がいくつか手に入った。
『【ナイフモンキーキラー(Dランク)】を獲得しました。ステータスポイントを獲得しました。ナイフモンキーに与えるダメージ量が増加します』
……こういったピンポイントの魔物相手に有効な称号もあるようだ。
今後、レベルが上げられなくて行き詰まったら、獲得していない称号の魔物を狩りまくってステータスポイントを稼ぐ、というのも一つの手段としてありなのかもしれない。
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