帰還した元勇者はVRMMOで無双する。〜目指すはVTuber義妹を推して推しまくる生活~

木嶋隆太

第1話


 俺の短剣が魔王の心臓を貫いた。

 入り混じった表情とともに、魔王がゆっくりとこちらをみてきた。

 いくら魔王といえども、心臓を貫かれれば死ぬということは調査済み。


 これで、俺の勇者としての役目は終わりだ。

 異世界に無理やり召喚されて、一年。マイエンジェルシスターと離れ離れにされた俺は、魔王を倒せば日本に帰れるという言葉を信じてここまで頑張ってきた。

 ようやく、その日を迎えたというわけだ。


「……勇者が、こんな不意打ち……なんぞで!」


 おら、さっさと死ねよ。そんなことを考えてしまうくらいに俺の心は廃れてしまった。昔はアリの巣穴に水を流し込むことにも躊躇していたくらいだというのに。

 すべて異世界が悪いな。


 俺の不意打ちが気に食わなかったようで、魔王は睨みつけてくる。動こうとしたその体へ、俺はさらに深く短剣を突き刺す。


「勝ちは勝ちだろうが? 分かるか? こちとら、貴重な高校生活という青春を削って異世界に召喚されてんの。大事な大事な義妹も置いてきてなぁ! さっさと帰りてぇんだよ!」


 あの可愛かった義妹も高校受験を終えてしまっていることだろう。

 俺が義妹に勉強を教えるためにどれだけ勉学に励んでいたと思っているんだ? ああ?


「……は、ははは。認めよう! 貴様は強い! だが、我には第二形態があることを知っているか?」

「ああ、知ってる知ってる。これだろ?」


 魔王を背後から仕留める瞬間に盗んでおいた宝玉を見せると、魔王は目をひん剥いた。


「んな!? 貴様ァ! それは我の進化の宝玉! 勝手に盗むんじゃない! それがなければ第二形態になれないだろうが!」

「当たり前だ。それを封じるために先に奪い取っておいたんだからな」


 ていうかさっさと死ね! 心臓貫かれてからこれだけ動けるのはさすが、魔王といったところだ。


「き、貴様……! 正々堂々と戦え……! それでも勇者か!?」

「正々堂々? おう、じゃあ今からやるぞ!」


 魔王は心臓を潰してからもしばらく動くんだな。

 だが、体にはさまざまな状態異常を与えておいたので、満足に動けなさそうだ。

 非常に顔色が悪い。

 

「まず直せ! 我の体状態異常に蝕まれているんだが!?」

「はっ、それが俺にとっての正々堂々なんだよ! 行くぞ!」

「ちょ、まっ……っぐおっ」


 俺の短剣が彼の首を跳ねた。

 これで完全に終わりだ。体が崩れ落ちた魔王に視線を向けたあと、俺は高らかに宣言する。

 

「はっはっはっ、やっと終わったぜ! んじゃあ、おら! 女神ィ! さっさと俺を日本に戻せ!」

『……あなたは、最後まで勇者とはかけ離れた存在でしたね』


 叫ぶと、俺の眼前にぼんやりと女神が現れた。

 ホログラムのようにうっすらとした状態だ。今目の前にいる女神は本物じゃない。

 本体は今も天界でのんびり過ごしていることだろう。ああ憎たらしい。


 見た目は超絶美人だが、俺を勝手に異世界へ召喚しやがったクソ女だ。召喚に合わせ、俺の体を魔改造したのも彼女だ。

 たびたびクレームをつけてきた女神は、今日も俺をジト目で睨んでくる。


「おまえの勇者像を押し付けんじゃねぇよ。んじゃ、その勇者らしかった先代勇者様は正々堂々戦ってどうなった? 魔王倒せなかったから俺が召喚されたんだろ? だったら、世界に平和をもたらした俺こそが勇者として正しいんじゃないか?」


 俺がそう叫ぶと、女神は呆れた表情を浮かべながら頷いた。


『……あなたは本当に凄まじい勇者でした民家に押し入ってタンスをあけてアイテムを漁ったり……、勝手に人の家の宝箱を開けたり……ツボを割ったり……。あなたは本当に勇者ではないような行動をしていましたが……確かに使命は果たしてくれましたね』


 ごちゃごちゃと文句を言いつつ、じっと睨んでくる女神。

 褒めるのなら素直に褒めればいいのにな。

 ていうか、女神だって凄い女神だわ……。

 勇者なんて異世界転移したら無敵になれるもんだとばかりに思っていたのに、精神と時○部屋みたいな場所に閉じ込めて修行させてきやがって……。


「ていうか、女神が言ったんだよな? 魔王を倒すなら何やってもいいって言っていたよな?」

『ま、まさか……あそこまで何でもやるとは思っていませんでした……』

「そいつは女神様が箱入りすぎんだ。もっと箱から出て世界をみたほうがいいぜ」

『……そうかもしれませんが、あなたに言われると素直に認めたくもありませんね』

「世の中、素直な人間の方が成長しやすいんだぜ? 女神も素直になりなって」

『私は人間ではありませんが……感謝をしていることは嘘ではありません。それで、最後に確認します。あなたはこのままこの世界に残ることもできます。本当に日本に戻していいのですね?』


 女神から与えられた選択肢に、俺は即頷いた。


「当たり前だ! 俺は高校一年生だったんだぞ? それはもうこれから青春を謳歌してやるんだよ! バイトして義妹の好きなもの買ってやるんだよ!」

『えぇ……それは教育に良くないのではないですか……?』

「うっせぇ! 可愛いんだからいいだろうが! ほら、早く俺を戻せ! 義妹に貢がせろ!」

『……あなたには、思うことはあります。ですが、これまでの勇者たちが達成できなかった魔王討伐をよく、果たしてくれました。元の世界に戻っても、健全に……くれぐれも健全に生きてください』

「当たり前だ。日本はこんな治外法権じゃないからな」

『いえ、別にこの世界も治外法権なことはなくてですね……あなたが勝手に……まあ、もういいです』


 俺を召喚した女神は色々とぶつぶつ言いながらも俺を元の世界に戻してくれるようで、俺の体を淡い光が包んだ。

 ……さて、魔王を討伐するまでに一年かかってしまった。

 ……気になっていた漫画の続きは? アニメは? ゲームは?


 そして、何より。

 俺の大好きな義妹が高校受験を終えている頃だろう。

 ……家族のみんな、どうなってるんだろうな。



―――――――――――

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