陽生 光輝13話 暴走

メストに強烈に蹴り飛ばされたにもかかわらず、明瑠の体にはほとんど傷がついていなかった。彼は不思議な鎧の力によって守られている感覚を覚えた。


「すげぇ……これならいけるぞ……!」


明瑠は自信に満ちた独り言を呟いた。しかし、すぐにメストの追撃が迫ってきた。2つの魔力の刃が彼を狙い撃ち、彼の周囲に土煙が舞い上がる。


「うわっ!」


一瞬で煙に包まれた明瑠は、この隙に反撃に出ようと構える。しかし、何かが違うと気づいた。


「よし……全然痛くねぇ! これならやっ……て……?」


先ほどの動きとは違い、鎧が自由に動かなくなっていることに気づく。それでも体中に力がみなぎっていたが、何かが明らかにおかしい。


「な、なんだ……? どうして……動かせねぇ……」


まるで鎧そのものが錆びついたかのように重く、自由に動かせなくなっていた。すると、突然、鎧が勝手に動き出し、彼を無理やり立ち上がらせた。


「なっ!? なんだこれは……ぐぅっ!!」


頭の中に突然、怒りや憎しみ、殺意といった負の感情が嵐のように渦巻き始めた。


「ぐ……うぅ……なんだ、これは……」


鎧は明瑠の意志を無視して動き始め、明瑠は必死にそれを抑えようとするも、体が動かなくなっていく。


「ぐぅぅ……ヤ、バい……」


その様子を見ていたメストは、これを好機と見たか、さらに魔力を込めた螺旋状のビームを明瑠に向けて放った。


「うわっ!」


再び強力な攻撃を受けたにもかかわらず、明瑠にはほとんどダメージが無かった。しかし、その代わりに彼の中で渦巻く負の感情はさらに強くなり、体の制御も完全に効かなくなってきていた。


「体が……勝手に……動く……止められない……」


「ぐぅぅぅ……ぐ、そ……うぅぅぅ……あ、ん……に……げ……」


その瞬間、明瑠の鎧の胸元と目が真っ赤に輝き始めた。彼の精神が限界に達し、鎧は完全に暴走し始めた。


「ちっ!面倒ななのは嫌いなんですよ!」


「ぐぅぅぅ…… うおぉぉぉぉぉ!!!!!」


メストはイライラしながら空中に舞い上がり、その場を離れようとするが、次の瞬間、明瑠がまるで炎の翼を纏ったかのような赤いオーラを纏い、その姿を消した。


「がぁぁぁぁぁ!!!!」


鎧は圧倒的な力を放ち、空中のメストに追いつくと、一瞬で彼を吹き飛ばした。


「ぐっ! はぁはぁ……面倒な! なんなんだ、お前は!」


メストが話終わる間もなく再び明瑠の追撃を受け、空中で何度もお手玉のように打たれ、最後には地面に叩きつけられ、大きく土煙が巻き上がる。


「ぐっ! はぁはぁはぁ……ぐそ!! こんなはずでは……!!」


異世界ムアルヘオラとは違い、魔素の極端に少ない地球では全力を発揮できないという現実に苛立ちを覚えながらも、まさか自分が人間、しかもまだ子供に過ぎない明瑠にここまで追い詰められるとは夢にも思っていなかった。屈辱と驚愕が胸に渦巻く中、彼はその事実を受け入れられずにいた。


「 この私が……! あんな……ガキに……!!」


土煙の中からメストは必死に立ち上がり、周囲を警戒しながら上空を見上げた。その瞬間、何かが変わった――空が一瞬にして光を帯び、眩いばかりの光が彼の視界を覆う。同時に、肌を焼くような感覚が全身を襲い始めた。明らかに異常な高濃度の魔力が、空間を歪めるかのように周囲に充満し始めている。


「これは……!?」


メストの表情が緊張で硬直する。光と共に押し寄せる圧倒的な魔力に、彼は直感的に危機を感じ、即座に行動を取らなければならないと悟った。あの禍々しい鎧がメストの目には、まるで破滅をもたらす存在が生まれようとしているかのように映っていた。


明瑠の鎧は、今にもメストにトドメを刺そうとしていた。彼の片手がメストに向けて広がり、魔力を集め始めた。


「ちっ! だから面倒なことは嫌いなんだ!」


メストはその状況を冷静に分析し、素早く策を練る。彼は悪意に満ちた笑顔を浮かべながら杏に目を向けた。


「きゃー!」


「ンフフフ、さぁ、攻撃できますか? あなたの大事な方なんでしょう……?」


メストは杏を人質に取り、明瑠を挑発する。


「ンフフフ、形勢逆転てやつですかねぇ。さぁどうしてやろうか……ここまでコケにされたんだ、ただでは済まさんぞ!」


「明瑠! 戻ってきて!!」


しかし、明瑠の鎧はさらに強大な魔力を貯め続け、杏の必至の叫びに、鎧は全く彼女の声に反応せず、無慈悲にそして冷酷に巨大な魔力球をメストと杏に向けて放った。

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