勇者の不可分 ～記憶の狭間に潜む影～

陽生 光輝12話 反撃

「あ、明瑠……なの……？」

目の前にいたのは確かに明瑠だった。しかし今、彼は禍々しい鎧に身を包まれ、その存在はまるで別人のように感じられた。杏は恐る恐る、震える声で確認をした。

「あ、あぁ……。よく分からないけど、力が……湧いてくる……。多分、この鎧のおかげだ」

その言葉に、杏はさらに不安を感じた。彼の声は確かに明瑠のものであるが、その力の源が何であるか理解できないまま、彼の中に何かが変わり始めていることを感じ取っていた。

メストはあからさまに面倒そうにため息を吐き、自分の失敗を反省していた。

「はぁ……さっさと殺してしまえばよかったですねぇ……。それはぁ……アビリティってやつですか？ でも魔力も感じますねぇ……何ですかそれは？」

メストが問いかける間もなく、明瑠の姿は一瞬にして消えた。次の瞬間、メストの体が突然吹き飛ばされ、倒壊した家屋の中に叩きつけられていた。

「ハァ……ハァ……。すげぇ……これなら……勝てるぞ……！」

明瑠は自分の拳を見つめ、その圧倒的な力に驚きを隠せなかった。今まで感じたことのない力が、自分の中から湧き上がってくる。鎧が与える力、その異常なまでの強さに明瑠は少し恐怖を感じながらも、戦えるという確信を持っていた。

土煙が消えると、瓦礫の中からメストの姿が現れた。彼の頬には殴られた痕が残り、口からは血が垂れていた。

「ンフフフフ……勝てる？ 面白いことを言いますねぇ。私、調教が得意なんですよ。ンフフフ……」

メストは口元の血を拭うと、突如明瑠の背後に現れた。そして、渾身の蹴りを背中に放ち、明瑠の体は激しく吹き飛ばされた。

「グハッ！！」

「貰った物はお返ししないと失礼ですからねぇ……。ンフフ、とりあえず、手足を切ってから実験材料にでもしますかね」

そう言うと、メストは指先に魔力を集め、さらに強力な魔力の刃を明瑠に向けて放った。2度、手を大きく振り下ろすと、2つの鋭い魔力の刃が空を裂き、明瑠に襲いかかった。

「明瑠！ 避けて！！」

杏の必死の叫びも虚しく、魔力の刃は直撃し、土煙が巻き上がった。

「ンフフフ……少し強すぎましたかねぇ。まあ、死んでも使い道はありますし、特に問題はないですが……」

メストは冷酷な笑みを浮かべ、杏の反応を楽しむようにわざと無慈悲な言葉を投げかけた。

「そんな……」

杏は目に涙を浮かべ、目の前で展開される惨劇に言葉を失った。しかし、土煙が晴れると、そこには無傷の明瑠が立っていた。

「明瑠……！ 良かった……！」

杏は安堵の涙を流しながら、必死に堪えた。しかし、メストの表情は変わらず、何か異変を感じ取っていた。

「無傷……！？ いくらなんでも、できすぎている……。何なんですか、あれは……」

メストは冷静に状況を見つめつつ、自分の攻撃が全く通じていないことに違和感を覚えていた。彼は次の一手を練ろうとしながらも、何故か動こうとしない明瑠に一つの可能性に気づき始めていた。

「ふむ……これは……」

「来ないなら、こちらから攻撃させていただきます。魔力は貴重ですし、節約と工夫をさせてもらいますね」

メストの前に、5重の魔法陣が展開された。彼の手のひらから、螺旋状のビームが放たれ、巨大化しながら明瑠に向かって一直線に突き進んだ。

「あ……明瑠……！」

杏は声を失い、ただその場に立ち尽くしていた。

ビームが直撃し、土煙が再び巻き上がる。しかし、再び晴れたとき、そこには再び無傷の鎧が立っていた。

「ンフフ……やはり……魔力が増大している。どうやら、魔力を吸収して力としているようですね」

魔力が限られている今、メストは戦闘を続けることが不利だと判断し、撤退を決意した。

「不本意ですが、ここで引かせてもらいますね」

「ぐぅぅぅ……ぐ、そ……うぅぅぅ……あ、ん……に……げ……」

その時、明瑠の鎧の胸元と目が赤く光り始め、異様なエネルギーを放出し始めた。

「ちっ！ 面倒なのは嫌いなんですよ！」

「ぐぅぅぅ……うおぉぉぉぉぉ！！！！！」

突然、明瑠の鎧が赤いオーラに包まれ、さらに禍々しさを増した。