鬼彰 勁亮5話 必然の邂逅

「……」


「じゃ行きますよ」


一瞬の妙な沈黙を破り、彼は二人を避難させようと前に進み出た。


「あっいや、ちょっと待ってくれ」


勁亮は「アビリティ」という言葉から、彼が最近話題になっていたSAUの隊員であると推測した。外見から判断すると、年齢は自分とそれほど変わらないように見えるが、自衛隊のような筋骨隆々な体格でもなければ、日々訓練に明け暮れているようにも見えない。率直に言えば、今の状況で頼りになりそうな外見ではなかった。


状況について何も知らないフリをし、まずは確認することにした。


「あの化け物共なんなんだ?」


「いや、実は俺も最近入ったばかりなんで、正直何が何やら……でも安心してください、戦闘向きのアビリティを持ってるヤツが戦ってくれてるんで、すぐにここも安全になりますよ」


その言葉に、魔物の怖さをよく知る莉愛が不安そうに問いかけた。


「本当に大丈夫……?さっきすっごいでかいヤツいたけど……」


勁亮も、もし自分たちがいなかったら、ここにいる魔物を倒しきれるのか疑問を抱いていたため、さらに尋ねた。


「……その戦闘向きのアビリティ持ちってのは、そんなに強いのか?」


彼は焦りを感じたのか、少し早口になりながら答えた。


「安心してください!めちゃくちゃ強い、っていうか……まぁ、じゃじゃ馬ていうか……とにかく、そんな化け物には負けませんよ!さ、早く避難しましょう!グズグズしてるとまたアイツらが来るかもしれません!ね!」


「……」


勁亮は莉愛とアイコンタクトを交わし、どうするかを無言で問いかけた。莉愛は大きく頷き、同意を示した。


「わかった、避難しよう」


「ふぅ……」


彼はほっと胸を撫で下ろし、すぐに避難の準備に取り掛かった。


「んじゃ、いきますよ、フォールドゲート」


その言葉と共に、彼が手をかざすと、まるで空間が歪んだように、目の前に人が一人通れるほどのゲートが開いた。


「えー!なにこれー!」


「これがアビリティってやつか!」


異世界での経験豊富な二人も、見たことのないこの現象に驚きの声を上げた。自分たちの魔法では決して再現できないような光景に、目を見張った。


「はは、ホントは名前を言わなくてもいいんですけど、まだ慣れてなくて……」


彼は少し照れくさそうに笑いながら、二人に向けて説明を続けた。


「さあ、中に入ってください。ただ歩くだけで大丈夫ですから」


この状況にもかかわらず、二人はまるで子供のように好奇心を抑えきれず、歩みを進めた。


「お、おぉ、すげぇ」


「うわわぁ……本当に移動しちゃったよ!てか、なんかすごいことになってる!」


空間を通り抜けた先には、まるで映画の中で見たような前哨基地が広がっていた。どうやら大学病院を拠点にしているようで、警察や自衛隊が巡回し、見張りを行っている。消防のような装いをした者たちもいた。


「ここ一帯はSAUが総指揮をとっていて、戦闘向きの隊員が安全を確保してくれたみたいです」


「銃火器の数が限られているため、なるべくSAUの隊員が敵を処理しているんですよ」


その言葉に勁亮は疑問を感じた。


「随分他人行儀な言い方だな」


「え?あぁ、すみません、俺はSAUの隊員じゃないんです」


「アビリティを使っているし、あんな場所にいたから分かりにくかったかもしれませんが」


「ほら、あそこにいる二人の左側の人がSAUです。戦闘服が違うでしょ?」


彼が指差す方向には、筋骨隆々の中年男性と、ゴツゴツとした戦闘服を着た人物が真剣な表情で話し合っていた。


「あれがSAU……」


「へぇ、あんな感じなんだ……」


「じゃあ、お前は何者なんだ?お前の戦闘服も、SAUや自衛隊のとは違うけど」


その時、中年男性がこちらに気付き、彼に向かって声を掛けた。


「おお、晴斗!戻ったか!」


「晴斗」と呼ばれた彼が驚き、敬礼をする中、勁亮たちは、どこかで聞いたことのある声に驚いていた。


「あ、ちなみにあの人がウチの代表で……」


彼が紹介をしようとした瞬間、中年男性は驚きと喜びが混ざったような表情でこちらに歩み寄った。


「―――!!」


「勁亮!莉愛!久しぶりだな!!!」


突然、見知らぬ中年男性から名前を呼ばれ、まるで知人のように親しげに挨拶された二人は、戸惑いながらお互いを見つめ合った。


「え、いや、莉愛、知り合いか?」


「え?知らないよ!勁亮の知ってる人じゃないの?」


勁亮は誰なのかが分からず戸惑っていたが、その中年男性の眼差しには何か強い確信が感じられた。なぜ自分たちの名前を知っているのか、その謎が二人の心に残った。


「……誰なんだ、あんたは?」


勁亮の問いかけに対して、中年男性はただ穏やかに微笑み、答えずにこちらを見つめていた。

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