第3話 海賊令嬢とお茶会

 ボクとアイリス様との婚約はトントン拍子に進み、王都のゴンザーガ侯爵邸で婚約のお披露目をするなど、結構な力の入れようだった。


 ボクとアイリス様は王宮や高位貴族などへの挨拶回りなんかに行かされたりと忙しい日々を送った。


 そうしたことが終わり、ボクとアイリス様はネヴェルス子爵うち家の庭園でお茶を飲んでいた。


「どうしたの? イアン。そんなに顔を赤くして。疲れて風邪でも引いたの?」


 アイリス様は立ち上がり、笑顔でボクの額に手を当てる。アイリス様の瞳に顔が真っ赤になった自分の顔が映る。婚約者となってから、アイリス様はくだけた口調で話すようになった。


「アイリス様。お戯れを。ボクに触ったらアイリス様の手が……!」


 緊張で汗がダラダラになっているのが自分でもわかる。でも、アイリス様にそんなことを気にした様子はない。


「何度も言ってるけど、獲ったばかりのタコとか魚に比べたら、どうってことないのに」


「でも、汗くさいですし……」


「ヒトデに比べたら大したことないわ」


 アイリス様は笑顔でボクを見る。ボクといて何がそんなに楽しいのか分からない。いつの間にか額に当てられていた手はボクの頭をなでていた。


「ア、アイリス様……」


 ボクが気にしていたことを歯牙にもかけないアイリス様にボクは気を失いそうになる。


「様付けは要らないって言っているのに。強情ね」


 悪戯っぽい笑顔でボクに顔を近づける。完全に遊ばれているのは分かるけれど、ボクはアイリス様の手から逃げられなくなっている。


「まあ、いいわ。ゴンザーガ侯爵から話が行ってると思うけど、私は来週、ゴンザーガ侯爵領領都ポルト・ブレイザーに戻るから準備しといてね!」


「え……? 準備ですか?」


 楽しみでたまらない様子のアイリス様にボクは少し呆けたように聞く。何の準備か分からない。


「貴方がポルト・ブレイザーうちに来る準備よ! 貴方言ったじゃない。『私のそばで私のために生きる』って。それなら、ポルト・ブレイザーうちに来るのは当然じゃない?」


 こうしてボクは行儀見習いという名目でアイリス様と一緒に王国最大の港町、ポルト・ブレイザーに行くことになった。

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