海賊令嬢との日々
万吉8
プロローグ 婚約
第1話 海賊令嬢との出会い
「イアン! お前に婚約の話が来たぞ! 相手は侯爵家だ!」
………父さん、マジ?
◇◆◇
ボクはイアン。ネヴェルス子爵家の次男だ。そして、現代日本から中世ヨーロッパを模したゲーム世界っぽい世界への転生者。自分が知っているゲームの世界ではなく残念だったけど、子爵家の次男というポジションに不満はない。
前世で読んだ転生ものなら、魔力とかを鍛えたりしてチート能力を手に入れるんだろうけど……。
どんなに努力しても普通。何もしなくても普通。
普通じゃないのはブクブク太るこの体。走っても断食しても、それを上書きするように食べることになって……。
10歳にして、この愛されボディ! 転生ものの『シナリオの強制力』ってヤツっぽい! 何しても能力普通の愛されボディになるしかないなんて、この世界でのボクの役割って何かあるんだろうけど考えたくない……。
それと、思春期女子の半径1メートル以内に近づくだけで面倒なことになると前世の記憶が言っている。女の子に好意を見せると泣かれて悪者にされるらしい。前世も今世もこのパターンかよ。泣けてくる……。
◇◆◇
ボクに婚約……? しかも相手が侯爵家……? 我がネヴェルス子爵家には、成人したボクに与えるような領地はない。なので、成人後は役人とかになって自立しなければならない。でも役人になれる確証があるほど優秀でもない。
そんなボクに婚約の打診……? 一体どこの物好きが……。
「ゴンザーガ侯爵家のアイリス嬢だ」
ボクが思案に暮れていると、それを断ち切るような父の言葉。え……? まさか……、よりにもよって、あの令嬢?
愛されボディ特有のバランスの悪さもあって倒れたボクは頭を打って、そのまま気絶してしまった……。
◇◆◇
部屋のベッドで目を覚ましたボクはちょっと期待していた。転生ものだと頭を打って気絶したら特典的なものが得られたはずだからだ。
…………何もなかった。ステータスオープンも無ければ、転生神的なヤツも無かったし、眠れる力は全く無いか、熟睡中だ。
しょうがないから状況を整理してみる。
ゴンザーガ侯爵家のアイリス嬢。
港湾都市ポルト・ブレイザーを支配していた海賊が王国に帰順したことにより、陞爵されたことから始まる名門だ。かつては敵対国の輸送船や貿易船を襲撃することで王国に貢献。とうとう王族の流れを汲まない貴族としては最高位の侯爵に登り詰めた。
こういった歴史から、上級貴族にしては荒っぽいという評判で、後継者と目されているアイリス嬢は「海賊令嬢」とあだ名されるほど奔放な令嬢だという評価だ。
齢10歳にして船に乗り込み、今は12歳。ボクより歳上だ。趣味が海賊船の拿捕とか、「奔放」というのはかなり遠慮した評価ともいえる。
このため、同格の侯爵家のみならず、格下の伯爵家からも逃げられ、
うちの父さん、『お前にあげられる領地がなくてすまん』なんて言っていたから、渡りに船だったんだろうな。ボクもボクで、同格の子爵家や格下の男爵家から割とあからさまに避けられてきたからな……。
さっきはショックで倒れてしまったけど、ちょっとだけ親近感湧いてきたな……。
そんな呑気なことをボクは考えるようになってしまっていた。
◇◆◇
どうしよう……。
自分の目の前に座っている美少女を失礼にならないよう上目遣いでそっと見る。多分猫背にもなっている。
何か粗相があれば確実に親に迷惑がかかる。いや、目の前にこんな脂汗まみれのブタをお出しされた時点で十分粗相だろう。
『シナリオの強制力』なんていわずにダイエットしていれば良かった!!
ゴンザーガ侯爵家で行われた、初めてのアイリス嬢との顔合わせの日、ボクは激しく後悔した。
目の前に座っている少女は、黒髪ショートでうっすらと日に焼けた肌が身にまとっている赤いドレスに映えている。眼は茶色で今のボクより少し歳上。立ち居振る舞いに鋭さがあり、黒豹を思わせる。
愛されボディのボクとは造形のレベルが違う。見た目の共通点は目の色が茶色というくらい。
いや、ボクの茶色は土の色の方の茶色だけど、アイリス嬢は琥珀色。見ようによっては黄金色に見えなくもない。うん、共通点なんて無いな、これ。
自分の容姿については諦めているけれど、こんなボクと会って話をしなければならない羽目になったアイリス嬢に心から同情する。
前世でボクに話しかけるのをクラスの女子たちが罰ゲームにしていたっけな。あの時は腹が立ったけど、今思うと「あ、ゴメン」て思うもん。
下層の男と話したり、好かれたりすると格というかカーストが下がるみたいな? ボクは腹が立つだけだったけど、あの子たちには実害があったみたいなんだよな。
本当、前世の現代日本も今世の異世界もクソだな。
そんなことを考えていると……。
「若い二人で庭でも散策して、親睦を深めなさい」
というゴンザーガ侯爵の一言でボク達は庭園を歩くことになった。
こういう言い回しも前世と変わりないんだなと思いながら、アイリス嬢の手を取り、庭園へと向かうのだった。
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