素晴らしい別れを迎える貴方に。

ろくろわ

良い一日を!

 今や海外は身近なものとなり、日本の中で活躍する外国人も多くなった。文化の違いも認知されるようになった結果、しょくにしろ儀式にしろ随分と受け入れられるようになった。

 一見、何の問題もないように見えたが、越えられない壁は確かに存在した。


 これは、そんな壁が生んだ奇跡の話だ。


 ◆


 マイケルには同じスクールに通うクラスメイトの綾子あやこの事が気になっていた。

 マイケルにとって日本人の綾子はアニメの世界で、映画の世界で、ドラマの世界で。それぞれの世界で描かれており、よく見かける日本人のイメージそのものであった。

 凛としていて、それでいて芯が真っ直ぐ。誰にでも優しい彼女はまさに理想であった。もっと近付きたい想いはあれど、奥手なマイケルには彼女を誘う度胸がなかった。

 だけど今日のマイケルは少し違った。

 いつも通り、授業が終わり頑張って綾子に話しかけたのだ。そんなマイケルの様子に綾子は少し驚いていたが、いつもの通り何も話さず、にこやかに過ごしていた。

 そして別れの挨拶の為「Have a nice day」と言った時、綾子から急に手を繋いできたのだ。


 マイケルは天にも登る気持ちで綾子を見つめた。



 ◆


 綾子には一つの悩みがあった。

 それは同じ教室で同級生のマイケルの事だった。マイケルはいつも挨拶をしてくれ、緊張した表情で沢山話しかけてくれるのだが、一体何を話しているのか分からない。綾子の苦手教科は英語で、話すのは勿論、聞き取りも怪しいものがあった。

 だからマイケルが話しかけてくる時は、いつも静かに微笑み、聞き取れた英語のみ返したり反応したりしていた。


 今日の授業終わりもマイケルが話しかけてくれた。綾子は申し訳ない気持ちで微笑んでいた。

 会話も終わりの雰囲気が漂ってきた時、唐突にマイケルが「はぁなぁさ、ないでぇ」と言ってきたのだ。

 ちょっと辿々しい日本語であったが、マイケルの言いたい事が分かった綾子は、マイケルの手を握ってみたのだった。


 マイケルの綺麗な瞳が、真っ直ぐに綾子の瞳を捉えており、綾子は少し紅くなるのであった。


 ◆


 結局、だから二人の距離が唐突に近付くわけではない。それでも帰宅する二人は「Have a nice day」と伝え、答えるように手を繋ぐのであった。



 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

素晴らしい別れを迎える貴方に。 ろくろわ @sakiyomiroku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ