第13話:絶望の脱出

カーラがノドカを担ぎ、ケイトがソフィアを担いで勢いよく食堂から飛び出した。

食堂は既に大量の私兵たちが取り囲んでいたが、まだ完全に包囲が完成しておらず穴だらけだった。

「ケイト!!どこがいける!?」

「あそこ!!」

すぐにその穴を見つけたカーラたちは、その穴に向かって突撃を開始した。

ノドカとソフィアは、食堂に置いてきたカイルを助け出そうと叫びながら手を伸ばしている。

伸ばした腕を斬られたり、その服に返り血がついたことも気にせず、それでも手を伸ばし続けている。


森の入口まで最短ルートには街を囲む1mくらいの柵があり、その策の前で数名の私兵が待ち構えていた。

「ケイト!!」

カーラは抱えていたノドカをケイトに投げつけた後、待ち構えていた私兵にいきなり背を向ける。

ノドカを受け取ったケイトは身体強化の魔法を使い、カーラを踏み台にして柵や私兵たちを跳び越えた。

私兵たちが上空を跳んでいくケイトに気を取られている間に、カーラは私兵の1人の頭を消し飛ばし、自身も柵を越える。

柵の外でノドカを受け取ったカーラが、ケイトに短く一言。

「500m地点で集合!!」

そう言うと、カーラとケイトは別方向で森に入っていった。


数時間後、拠点から500mほど離れた地点で、カーラとケイトは合流していた。

もちろんノドカとソフィアを担いだままで。

担がれていた当の2人は、どうしていいか分からず、ただただ茫然としていた。

「ケイト、追手は?」

「いない」

「ここがバレている可能性は?」

「分からない。追手を錯乱してくる」

そう言って、ケイトはソフィアを置いて再び街方向へ走っていった。

ケイトが走り去った後、カーラはノドカとソフィアを担いで、そのまま拠点へと戻った。


拠点に戻ると、流石のカーラも体力が尽きて少々荒々しく2人を地面に下ろす。

「おい!そろそろ目を覚ませ!!」

そしていつまでも茫然自失の2人は、声を掛ける。

ソフィアは転がった状態で動かず、ノドカに至っては拠点の隅まで行き膝を抱えて座り始めた。

「いい加減にしろ!」

それを見たカーラは怒鳴るが、それでも2人はその姿勢のまま動かない。

我慢できなくなったカーラはソフィアに馬乗りになって頬に拳を叩きつける。

「お前たちが今何もしないと、本当に全てが無駄になるんだぞ!!」

それを聞いたソフィアが、いきなり激高してカーラを押し倒して先ほどとは真逆の体勢になる。

「そんなこと分かってます!!分かってますが……」

そこからは声が出ず、カーラに涙を落としていく。

「分かってるんなら動け!」

そういってカーラがソフィアの腰を掴んで投げ飛ばすと、またそのまま動かなくなった。

「ちっ!アタシはお前らみたいな腑抜けと違ってやることがあるんだ!」

荒々しく言い捨てた後、カーラは拠点から出ていった。


カーラは拠点を中心に、周囲に追手が来ていないか慎重に確認していく。

数時間後、追手の追撃を撒いたケイトと合流して拠点に戻ってくる頃には、とっくに日は暮れていた。

いつもならテーブルに明かりが灯り、語り合いながら夕食を楽しんでいる時間だ。

だが今日は真っ暗で、誰もそのテーブルに座っていない。

1人は地面に転がり、1人は隅で座り、主たる1人は拠点にすらいないのだ。

その様子を見たカーラは、拠点のドアを閉めながら溜息を吐く。

「これからどうする?ケイト」

「……」

何も答えず、ケイトは近くにあった大きな石に腰を下ろしている。

「ケイト?おいおい、お前まで勘弁してくれよ」

「違う。考えてた」

ケイトは目の前にあった焚火へ、そこら辺にあった木の枝を投げ込む。

「カイルがああなった以上、アタシらも今後について考えなきゃいけねぇーぞ」

カーラは篝火の近くにそのまま座る。

「最悪、アタシらだけで国外に逃げるか?」

消えかかっている篝火を見て、鼻で笑いながら言う。

「嘘。カーラ、思ってもないこと言っちゃダメ」

ケイトは消えかけの篝火に枝木を追加する。

「……。まぁ頼むって言われたからにはねぇ……」

カーラも逃げる直前にカイルに言われたことを思い出しながら、消えかけの篝火に枝木を追加する。

「けど今のままだったら、一緒に国外逃亡」

厳しくも1番現実的な案を言われ、カーラは何も言えない。

ケイトが新しい枝を篝火に入れようとするが、篝火はそよ風によってその温もりが消えた。

まだ篝火の下には燻ぶった火を期待して新しい枝を追加するか、それともこのまま篝火が消えるのを待つか、答えのないまま沈黙が続いていくのだった。

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