第5話:旅商人の父娘
早朝、拠点を発った俺とノドカは、日が完全に昇る前にノースウッドの街へ辿り着いた。
ノドカが戦えるようになったことに加え、体力が付いたことも早く着けた要因だろう。
俺たちはすぐにギルドで素材を換金して、ウルフの情報を受付嬢に聞いてみる。
しかし、ウルフがいたという情報は俺たちが初めて持ってきたらしく、今から周辺の調査依頼を出すから日が昇ってからまた来てくれと言われた。
調査依頼の情報が出るまでの時間を持て余してしまった俺たちは、前回行けなかった街の中央にいくことにした。
柵で囲まれた街には1つの入口しかなく、その入り口付近に宿やギルド、武器・防具屋、よく分からない大きな建物が固まっているので、前回は中央まで行ってなかったのだ。
ファンタジーな街並みだとノドガが興奮しながら街の中心地に向かうと、そこは色んな商人が路上で色んなものを販売するフリーマーケットのような場所だった。
食料や雑貨、家具まで売っている出店がある中で、武器を売っている出店を俺は見つけた。
どんな武器が売られているのか気になって店を覗いていると、店主から声を掛けられる。
「お兄さん!何かお探しですかい?」
「いや特にない」
少しぶっきらぼうすぎたかと思っていたが、全く気にしていない様子で商人は
「今日限りの大特価なんで、何か買いませんかい?」
と食らいついてくる。
特価という言葉を聞いたノドカは、俺の裾を引っ張って中に入ろうと催促してくる。
俺は仕方なく野外のテーブルに並べられた武器を見ていくと、至る所に高品質な武器が並べられているのを見つけた。
「すまない店主」
「どうしましたか?」
俺はつい先ほどの店主の言葉が気になって呼んでしまう。
「なんで今日限りの大特価なんだ?この武器たちなら、元の値段でも売れるだろうに」
「おおぉ!この武器たちを評価していただけるんですかい?」
「あぁ。元の質はもちろん、しっかり手入れがされているから、王都にも負けない武器を取り扱っていると思う。だからこそ、その武器たちを大特価にしてまで手放す意味が分からんのだ」
俺はそう言って手入れされた武器を持つと、商人は俯き顔を曇らせてしまう。
「いや、それは商人殿の自由だ。ただ、もしかすると次に来た時には武器を買わせてもらうかもしれん」
言い過ぎたかもしれないと思い、俺は武器を置いて店を後にしようか悩んでいると
「この店、実は今日で閉店なんでさぁ」
「……なぜだ?」
この店が潰れるなら、ほとんどの武器屋が潰れなければおかしいぞ?
店主は意を決したように口を開こうとした瞬間
「おとーさん!こっちの馬車はこれで満杯よ!……あれ?お客さん?」
綺麗な金髪に黄色の目をした美女が現れた。
俺が美女の質問に答えようとする前に
「もうちょっとだけ売らせてくれ!この武器たちを捨てたくないんだ!」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃない!私だって捨てたくないわよ!」
と父親が反論して、父娘で口論になりだした。
……こんな武器を捨てるなんて、もったいなくないか?
何やら事情があるみたいだが、面倒はごめんだと思い店を出ようとしたら
「おやおや、まるで夜逃げのようですが、いかがされたのかな?」
と、恰幅のいい男が護衛の兵士と共に現れた。
店主と恰幅の良い男が何やら言い合いを始めた。
俺たちはあくまで店に入っただけの客だ。
冷たいかもしれないが面倒はごめん被るので、ノドカを連れて外に出ようとした時に、ノドカが爆弾発言をやらかした。
「カイルさん!あんなでっかい腹で着られる服って、やっぱり特注なんですかね?ていうことは貴族ってやつですか!いいですねぇー!何食べてるんだろ!」
……。
ノドカにしてみれば声を抑えて、俺にしか聞こえないようにしたのかもしれない。
しかし、ノドカは高く透き通る声をしているから、声量を落としてもあまり意味はないのだ。
つまり……
「そこの小娘ぇ!領主たる私に対して、なんという発言だ!捕まえろ!」
やはりこうなったか。
後でノドカに説教するのは確定として、ノドカの前に立って彼女を守る。
「なんだ?お前は?そこの女に用があるのだ、どけ」
俺に対しても偉そうな態度を変えない領主と名乗る男。
「私の連れが大変申し訳ないことをした。だからといって捕まるほどのことはしていない」
そう言って俺は領主を睨みつける。
「貴様……。領主に逆らうとどうなるのか知らないのか?」
冷静な領主は低い声で、脅迫し始める。
「あぁ知らないね。俺たちはここに来て日が浅いからな」
「そうか。それは残念だったなぁ!」
ニヤケ顔をした領主の合図で、護衛の兵士が剣を持って一気に飛び掛かってきた。
俺は素早く飛び掛かってきた1人の兵士の懐まで潜りこみ、佩いていた形見の直剣の柄部分を兵士の鳩尾に叩き込む。
すぐにその兵士は膝から崩れ落ちたが、もう1人の兵士はそれを見て動きを変えた。
その護衛は出店の入口付近に立って逃げられないようにしたため、俺は剣を振りかぶって切り付けるフリをして、その兵士を店の外に蹴りだした。
「で?領主に逆らうとどうなるんですかね?」
俺は、クルリと顔だけ領主の方に向ける。
ニヤケ面だった領主の顔は蒼白に変わっていた。だがその質問に返答はなく、領主は慌てて近くにいた店主を盾にして
「く、くるなぁ!コイツがどうなってもいいのか!」
と、首元にナイフを突きつけながら怒鳴り始める。
気のよさそうな店主を盾にするなんて言語道断。俺は領主を斬り捨てようと思った時。
「いい加減にしてください!!」
俺しか眼中になかった領主が怒ったノドカの蹴りを避けられるはずもなく、領主の股間をいい音で蹴り上げた。
領主は泡を吹きながらその場に崩れおち、店主は解放される。
「お父さん、大丈夫!?」
「あぁ大丈夫さ。だがこれからどうするか……」
しっかり顔を見られている俺たちも他人事ではなく、一旦ここから逃げることを提案する。
「とりあえず俺たちの拠点に逃げましょう」
俺たちは店主が用意していた馬車を使って、森の奥にある拠点まで急いで帰った。
ところで、ノドカの得意技は急所蹴りなのか?
奴隷商人と合わせて2人目となる急所蹴りを間近で見た俺は、ノドカをあんまり怒らせないようにしようと心に誓うのだった。
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