●10 地獄の戦場 2
「 というわけで、君達に言いたいことは一つだけ! 」
口元のアイコンで声を増幅し、空中に浮かぶ巨大スクリーンにバストアップを拡大表示している女は、テンションをクライマックスまで持ち上げてこう叫んだ。
「 文句があるならかかってこいっ! ボクは誰の挑戦でも受けるぞーっ! 」
ぞーっ、ぞー、ぞー、ぞー……とエコーが広がり、フェードアウトしていく。
最悪のショーだった。
いや下手くそか。
目的はわかったが、他にもっとやり方はなかったのだろうか。せめて事前に相談でもしてくれていれば、俺も何かしら手伝うことも出来たのだが。
沈黙の幕が下り、高空に
かつて魔王を討伐した〝蒼闇の魔道士〟による突然の出現と扇動によって、混乱の
『――〝蒼闇の魔道士〟エムリスッッッ!! よくも我らの前に姿を
突如、雷鳴かと思うほどの大音声が響き渡った。
直後、裾野に広がって布陣する魔族軍の中から、
可視光になるまで圧縮された魔力――間違いなく、上級魔族の〝
赤だの青だの黄色だの、目にうるさい原色の煌めきが天を衝かんばかりに噴き出したかと思うと、輝きに紛れていくつもの人影が宙へ飛び上がってくる。
その数、十二。
エムリスが言っていた『大きい反応が十個ぐらい』とは、こいつらのことだろう。
『誰の仕業かと思えばまさか貴様だったとはなッッ!!』
再び、
それにしても、うるさい。
「おや? 君は――」
黄色――というか金色か?
が、結局は素振りだけだった。
「――誰だったかな?」
ドウッ! という勢いで上級魔族の纏う魔光が勢いを増した。光の柱の太さと高さが揃って膨張する。
『我が名はッ!
遠雷を思わせる声音で名乗った上級魔族――ゴルドレイジとやらは片手に握っていた長大な槍を振り回し、凄まじい勢いで殺気を放射しつつ、ビシッと構えた。
頭から生えた二本の角に、縦長の瞳孔、頬に浮かぶ
『〝蒼闇の魔道士〟エムリスッ! 貴様こそは我が父にして
「十二魔烈将……ああ、なるほど、そういうことか」
血管が破けそうなほどテンション高めの自己紹介に、しかしエムリスはどこ吹く風で頷く。
十二魔烈将と言えば十年前、魔王を目指して進軍する俺達の前に立ちはだかり、しかしエムリスの広域殲滅魔術によって一網打尽にされた奴らだ。
当時、エムリスが時間をかけて展開させた巨大な魔方陣の内側に十二魔烈将の軍を誘い入れ、逃げられないほど深い場所まで達した瞬間、ドカンと一気に
「そうか、あの時の。いやぁ、十二魔烈将とは聞いていたけど、正式名称は『
ふふん、と嘲弄の笑みを浮かべたエムリスに、ただでさえ
『貴様ァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』
ゴルドレイジの怒号が天を衝く。迸る魔光が烈風を呼び、周囲一帯を圧倒した。
『貴様が殺したのは我が父だけではないッ! 貴様はこの場にいる
ゴルドレイジが叫んだ途端、他の光の柱――残る十一の魔天将らが同意の雄叫びを上げる。
よく憶えていないが、察しはつく。
多分だが、俺達四人が『果ての山脈』を越えて最初に討ち滅ぼした魔族軍が、奴らの先代だったのだと思う。エムリスの大魔術の開幕ブッパで
「そうかい、それは残念なお知らせだね」
ゴルドレイジの轟雷がごとき咆吼に眉一つ動かさず、エムリスは告げた。
「【今日から君達もお仲間入りだ】」
その一言が契機となった。
ゴルドレイジが吼える。
『殺すゥウゥウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!』
逆上したのは奴だけではない。他の十二魔天将も同様に、色取り取りの魔光を
『それじゃあ、半分はよろしく頼むよ、アルサル』
エムリスから念話が届く。高速化した思考による通信だ。
『なんだ、いつものように一気に吹っ飛ばさないのか?』
『そんなことしたら、せっかくの竜玉まで吹き飛んでしまうだろう? 他はともかく、ここに来ている竜玉は全部回収したいんだよ』
『竜玉がメインみたいに言ってやるなよ……あくまでドラゴンのおまけが竜玉であって、竜玉のおまけがドラゴンじゃないんだぞ』
『どっちでも一緒さ、ボクにとっては。とにかく頼んだよ、竜玉以外はどうなってもいいから』
『ほんとお前って奴は……』
以上、ほんの数瞬の間にやりとりを終え、俺達も戦闘態勢に入る。
刹那、十二色の魔光がまとめてエムリスに
先代十二魔天将の
――おいおい、さっきから俺のことは眼中にないってか?
ちょっとイラついた俺の〝威圧〟と、エムリスの〝魔圧〟がほぼ同時に放たれた。
『――!?』
空間が
俺もエムリスも、割と本気の〝威圧〟と〝魔圧〟である。ここには人間はガルウィンとイゾリテしかおらず、その二人は〝眷属化〟によって強化されている上、防護結界に守られている。
手加減する理由はどこにもない。
『な――なんだ、この威圧感は……!? き、貴様、何者ッッ!?』
火を近付けられた
とはいえ、今になってから
「通りすがりの元〝勇者〟だよ」
吐き捨てるように言って、俺は右手で拳を作り、その親指側に左の掌を押し当てた。
さながら、左掌の中に収納してあった刃を抜くように、右手を引く。
俺が抜き放つのは銀光の刃――すなわち〝銀剣〟。
流石に複数の上級魔族が相手ともなれば、『舐めプ』はしていられない。少しばかり攻撃力過剰になるかもしれないが、しっかりとした武装をしておくべきだ。
『元〝勇者〟……!? 貴様、まさか魔王様を――』
「言っている場合か?」
わざわざ聞き直す愚を犯したゴルドレイジに、俺は一瞬にして距離を詰め、肉薄。
銀剣の間合いに捉えた。
『――!?』
「ふっ」
と鋭い呼気を発して、右手に宿った銀剣を左下から右上へと斬り上げた。
俺の銀剣は指二本分でも貴族竜の鱗および概念防御すら切り裂く。本格的に形成した銀剣ともなれば、その切れ味は比べものにならない。
一刀両断。
脇腹から入った銀剣が肩の上へと抜け、悲しいほどあっさり〝
『バ――カ、な……』
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