あのお化け屋敷に行ってから、全てが変わってしまった

根本鈴子

第1話 繰り返される

――お姉ちゃんが死んだ。

 お姉ちゃんは、いつもそう。お化け屋敷に行こうって、私を誘って、その後気が狂って死んでしまう。

 でも、今度は……助けたい。

 私、お姉ちゃんを助けたいんだ!


 お姉ちゃんが運転する車。久しぶりだなぁ。

 そんなことを思いながら、助手席に座って遊園地に向かう。目的は、日本でも有名なこわーいお化け屋敷に行くためだ。

「お姉ちゃん本当に大丈夫なの? 怖いの苦手じゃーん」

「大丈夫だって。それにあんたはわかってるでしょ。あたしが幽霊見えるって」

「そりゃ知ってるけどさ」

「本物より、作り物の方が怖いんだから」

 お姉ちゃんは、昔から幽霊が見える体質で、それはそれは怖い目に遭ってきたらしい。

 幽霊なんて、私は見えないし信じないが。

「お姉ちゃんさー」

『お姉ちゃんさー、お化け屋敷なんて行ったら逆に憑かれちゃうんじゃない?』

 あれ? 私、前にも同じことを言ったような気がする。

「……何? どしたの? 美冬」

「う、ううん。なんでもない。お姉ちゃん」

 なんだろう。無視しちゃいけない気がする。

 冷や汗がたらりと垂れて、不快な感覚がした。


 そして遊園地に着くと、私達はジェットコースターを2つほど乗ってから、例のお化け屋敷に行くことになった。

「行こう! 美冬!」

「う、うん」

「どうしたのよ。いつもなら私怖くないもーん。へっへっへーって、へらへら笑って来るじゃない」

「そんなこと……」

「どうしたの。本当に。お前、変だよ」

「ううん。なんでもない。行こう!」

 お化け屋敷は60分待ちで、なかなか中に入れなかったけど、やっぱり60分くらい待つと入れたのだった。

「なんかどきどきするねー」

「お姉ちゃん、怖いの苦手なのに」

「何度も言うけど、作り物の方が怖いの。あ、でもね。お化け屋敷には本物も紛れているから、気を付けてね」

「ちょ、お姉ちゃん!? 怖いこと言わないでよ」

 なんて、そんなことを言いながら適度に怖がりつつ最後の薬屋がある場所に来ると、薬屋の全身包帯だらけの妖怪役の人が「君は運がいい。一つだけ願いを叶えてあげよう」と言ってくれた。

 なんとも感情の乗っていないざらりとした砂のような声だなぁと思った。

 私は願いが特になかったから「じゃあ、次に来た時に回すので、取っておいてください」と言うと「君のような人は初めてだ。いいだろう」と言ってくれて、空の薬袋をくれた。

 お姉ちゃんには、何もくれないどころかその人は現れもしなかったけど……。

 お姉ちゃんは残念そうに「ずるーい」と私を恨みたらしく見ていたけど、私からしたらこんな空の薬袋を貰ってもと思った。


 でも、この薬袋があったから、私は姉を最後まではなさないでいようと、そう希望を何度でも抱かせてくれるのだった。

 残酷なほどに。

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