私の見たハチワレ猫

保谷 きく

 深夜一時頃 友人の運転するスカイラインにて


 これは今から二十年近くまえの話です。

 深夜、なんの目的で友人と一緒に車で走っていたか定かではありません。


 当時は、もっとも仲のよかった友人でしたので、互いの仕事終わりに食事をしていたのか、それとも本屋にでも行き買い物をしていたのか、はたまたゲームセンターで遊んだ帰りだったかも忘れましたが、とにかく友人の運転するスカイラインにて、私の住む家へと、送ってもらっていたのは間違いありません。

 

 不可思議な話というのはその帰路の最中でして、友人は住宅街にある道路の途中に車を停めると、急に弱りはてた顔をしていました。


「どないしたん?」 

 

 訝しんだ私は、そう彼に言ったと思います。

 目の前にいるのは白と黒のハチワレ猫で、自分には見えない闇の先で、おそらくほかの猫と縄張り争いをしていたと考えられ、斜め横を向いて立ったまま、ヘッドライトに照らされても微動だにしていませんでした。


「なんか怖いやろ、あんな奴」


 私にしてみれば、停まるほどではなく、徐行して避ければいいだけなので、なぜにそこまでして友人が躊躇ちゅうちょしているのか理解できませんでした。


 町内は碁盤目となった道路なので、彼は別のコースを探していたと思います。

 バックギアに入れようか迷っていた節があったので、よほど猫が嫌いなのだと察しました。


 そうこうしているうちに道路にいた猫は、おもむろに前へと進んでいき、ハンドルを握っていた彼も安心した様子で、車を発進させました。


「あー、びっくりしたー」やら「なんか事件ちゃうか」とか言っていましたが、猫好きの私からすれば、「さかりのつく季節やからなぁ」みたいな言葉を返して会話は終了。

 すぐに家へと着き、玄関前で降ろしてくれたので、その日の話はこれだけです。


 しかし、三日後なのか一週間後なのか、はたまた一か月や半年もあとだったかも記憶にありませんが、彼と、あの日に起きた猫の話題となった折り、初めて、お互い見ていたモノがちがっていたのを知りました。


 私は頭の部分だけが黒い、白のハチワレ猫が道路の真ん中に威嚇するように立っていたと話し、友人は上半身がランニングで、ジャージかスラックスを履き、腹の出た中年男性だったと言いました。


 ここで考えるのは、睡魔に襲われていた私が、人間を猫と見まちがえた。

 もしくは怪談話にしようと、あえて面白おかしく友人が話を盛った。

 或いは自分が見ていた猫の奥に、人間が立っていた等々、怪異と映った理由はいくつかありますが、私が自信も持って言えるのは猫。しかも斜め横を向いたハチワレです。


 この話を書くにあたって、今さら真偽のほどを問おうにも、残念ながら先月が彼の十六回忌となってしまい確認が取れません。


 ちなみに私は町内の回覧板で禁止とされていますが、近くに住みついている、白のハチワレ猫に、毎日、こっそりご飯をあげています。


 もしかすると、あのときの猫にも感じていまして、いつか猫又となって目の前に現れ、当時の真相を教えてもらいたいと思った次第です。


  了

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私の見たハチワレ猫 保谷 きく @TUMOTANI

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