後日談

@_tkc446

ダビニフス


──光忠へ。


ボクね、光忠に幸せになって欲しかった。

やりたいことをやって、なりたいように、したいように生きて欲しかった。

隠さなくていいんだよ、って言ってくれた光忠に、ボクも言ってあげたかったんだ。

隠さなくていいんだよ、って。

それだけだったのに、ものすごく回りくどいことをしてたなって、今なら思うよ。

でも、たったそれだけの事すら、ボクには出来なかった。

ボクなんかの言葉に、光忠の価値観や人生を動かす力が無いなんてこと、分かりきってたから。

ボクにとって光忠は特別だけど、光忠にとってのボクは、特別でもなんでもない。

光忠が自分の趣味を告白している相手なんて、ボク以外にも沢山とは言わないけど居ただろうし。

ボクにとっては人生が変わるようなひとことだったとしても、光忠からすれば何気ない、ごく自然に出てきた慰めの言葉のひとつなんだろう。

この世界には、唯一無二で特別なものと、そうでないものの2種類しか存在しなくて、ボクにとっての光忠は前者で、光忠にとってのボクは後者で。

だからきっと、ボクがその言葉を伝えたところで、光忠には響かない。

きっと光忠は笑顔で受け止めてくれるだろうけど、それだけだ。

これはボクの自己肯定感が低いだとか、性格がひん曲がっていて卑屈だからとか、そういう事ではなくて、ただの事実だから。

“空が青い”って言うのとおなじ。

空の色は青って言うんだよ、って誰かに直接教えて貰った訳じゃない。

だけど、あの色を青と呼ぶことを、その感覚を知っていれば、誰にでもわかる事実。

僕は特別を知っているから。

光忠の中に、ボクという特別は存在しないことも知っている。

でもそれはボクだけじゃなくて、光忠の中にはきっと、唯一無二の特別なんて無いんだろうなって。

いや。

もしかしたら、光忠にとっては、すべてが特別で、尊いものだったのかな。

だからこそ、ボクにも、ボク以外のあらゆるすべてのものにも、いつも気を遣って、優しくて、頼られて、望まれない自分は隠して……

そんな光忠が、おかしなヤツに巻き込まれて、怪しい薬を飲まされて、バケモノにさせられて、自分の意識が無い間に人を襲っているなんて知ったら。

きっと光忠は自責の念で死んでしまう。

そんなの絶対に嫌だ。

だからそうなる前に、ボクが光忠を殺すね。

ボクもバケモノになっちゃったから大丈夫、光忠のこと、ちゃんと燃やして、火葬してあげる。

この手紙は、その時一緒に燃やすために書いてるんだ。

お花と、手紙と、あと、ボクが光忠に着て欲しくて作った服も一緒に。たくさんあるんだよ?

そのあとは、どうしようかな、悩んでるんだ。

ボクも死んじゃってもいいと思ってたんだけど、でも……

あんなに必死に助けてもらったのに、って、なんか、思っちゃってるんだよね。

それに、せっかくバケモノを倒す力を貰ったんだし、ボクも誰かをたすけるためにこの力を使えたら、それはすごく幸せな事なのかもしれないって思うんだ。

きっとボクも、意識の無い間に人を襲ってるんだろうし、そこは矛盾してるっていうのは分かってるんだけど、でも……

もしそうだとしてもきっと、元気になった黒森さんや、他の誰かが、ボクを殺してくれると思うんだ。

ボクらが光忠たちを倒そうとした時みたいにね。

だからそれまでは……

その時が来たら、光忠に会いにいくね。


──九より。

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