ちょっと怖い話「暗闇の急坂」

轟 朝陽

第1話

 中学生の頃、僕は自転車で通学していた。

 部活動をしていたので、帰り道はいつも真っ暗だった。

 田舎なので、街灯はほとんどなく、一人寂しく家路を急いでいた。

 その途中に道の両側を木々で覆われた急坂が存在した。

 その場所は、月明かりも入り込まないほどの暗闇だった。

 坂道の中間地点には山から流れ出る沢があり、そこを通る時はいつも不気味な感じがした。

 暗闇の坂道を上るのには勇気がいるため、しばらく坂道の手前で車が来るのを待った。

 車のヘッドライトの灯りを利用して、一気に苦手な急坂を上り切ろうという思惑があった。

 しばらく待つが車が来る気配はなく、諦めて一人急坂を上ることを決意した。

 勢いをつけて上っていくが徐々に勾配がきつくなり、自転車のスピードも落ちていく。

 中間地点の沢に差しかかったところで、今にも自転車が止まりそうになる。

 ここで止まってしまっては、再度、自転車で上ることは困難になる。

 そうならないために、右足のペダルを強く踏み込んだ。

 その瞬間。






「うわぁっ!」

 誰かに自転車の荷台を掴まれたかのように、自転車の動きが止まってしまった。

 ヤバい・・・

 背後を振り返る勇気はもちろん無く、渾身の力を右足に込めた。

 すると、今まで重かったペダルが軽くなり、一気に急坂を上り切ることができた。

 平坦な道になったところで、恐る恐る背後を振り返るが、そこには暗闇が広がるばかりで何もなかった。

 一瞬、自転車の動きが止まったのはなんだったんだろう?

 不思議に思いつつも、再度、自転車を漕ぎ出そうとした時、ある異変に気づいた。






「ないっ!」

 自転車の荷台にくくり付けていた鞄が無くなっていたのだ。

 一瞬、自転車の動きが止まった時に、何者かに持ち去られたのだろうか・・・

 そんなことを考えていると、背後から近づいて来た車のライトが夜道を赤々と照らしだした。

 そこには、無くなったと思っていた鞄が転がっていた。

 あぁ、よかった・・・

 鞄を拾い上げ、自転車の荷台にくくり付けようとした際に、またも異変に気づいた。






「ないっ!」

 鞄をくくり付けていたゴム紐が無くなっていたのだ。

 無くなったゴム紐を探すが、どこにも落ちていなかった。

 諦めかけたその時、自転車の後輪にゴム紐が巻き付いていることに気づいた。

 巻き付いたゴム紐は途中で千切れていた。

 ここでようやく合点が行った。

 坂道を上りはじめたぐらいでゴム紐が自転車の後輪に巻き付き、ちょうど中間地点に差しかかったところでゴム紐が伸び切ったのだろう。そこでペダルに最大限の負荷がかかり、一瞬、自転車の動きが停止。ゴム紐の耐久性が失われたことで千切れてペダルの負荷が軽くなったということだ。



 それにしても、よりによって一番苦手な場所でこんなことが起きなくてもいいだろうに・・・

 

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ちょっと怖い話「暗闇の急坂」 轟 朝陽 @oasi-ikawodak

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