とある双子姉妹の「はなさないで」

綾乃姫音真

とある双子姉妹の「はなさないで」

「……んん!?」


 春休みが終わり、学年がひとつ上がって数日経った日の夜中。私は妙な肌寒さと重みを全身で感じて目が覚めた。明らかに何かが乗っている。ヘッドボードに置いてあるリモコンで電気をつけると、それはもう見事に掛け布団が膨らんでいた。


 しかも私の身体の上でモゾモゾ動いてるかと思えば、徐々に胸へと迫ってきているという……。普通なら速攻で悲鳴を上げるべき事案だけど、悲しいことに思い当たる節があるんだよねぇ……。


「なにやってるバカお姉」


 掛け布団と毛布をベッドから振り払うと案の定、お姉が私の身体に乗っていた。私と色違いのお揃いパジャマを着ているお姉は、返事することなく私の胸に顔を埋めてくる有り様だった。


 さてはこれ、新しいクラスでなにか嫌なことがあったな? それも夜にふと思い出して泣いちゃうレベルのことが、だ。いつも通りなら……散々ひとりで泣いたけど、自分じゃ気持ちの整理ができていない。結果、どうしようもなくなって私のところに来てるはずだ。


 高校は学校の方針で双子は同じクラスにならないようにされてるから様子がわからないんだよね……。せめて同じクラスなら人間関係が大の苦手なお姉を助けられるんだけど……。


 お姉は昔からそうだった。嫌なことがあると誰にも相談できずに抱え込んで、限界が来ると双子の妹である私の温もりを求めてベッドに忍び込んでくる。


 そのまま寝るだけのこともあれば、今回みたい密着してスキンシップを求めてくることもあった。


「ぐすっ……ふぇぇ……」


 私の胸に顔を埋めて完全に泣きモード。寝汗かいてるから勘弁して欲しいんだけどなぁ……何度か文句を言ったこともあるけど……捨てられた小動物みたいな顔をされてしまうと、私が我慢するしかない。というか私が突き放した場合、最悪自殺しかねない怖さがある。


「ひぐっ、こんなお姉ちゃんでごめんねぇ……」


 なんとか言葉にしようとするけど、謝罪しか出てこない。きっと本人の中でもぶち撒けて発散したい内容が纏まってないんだと思う。


「はなさないで」


 無理に話さなくてもいい。代わりに、私の胸で思いっきり泣け! とばかりに優しく抱きしめてあげた。


「……ぐず」


 安心したのか、聞いてる側の心が痛くなりそうな嗚咽だけが聞こえるようになる。この時間は何度繰り返しても慣れない。


 どれだけ時間が経過しただろうか? 感覚的には1時間は経ってる気がするけど、実際のところ数分の気もする。


 流石にこのままずっと身体の上に乗っていられるのはツラいものがある。いくらお姉が痩せ型で軽いとは言え、人間1人分の体重があることには変わりないんだし。


 体勢を変えてもらおうと思って頭を解放すると、私の動きで敏感に反応してして身体を震わせるお姉。まるで私が捨てようとしたみたいな反応に傷つくけど、頼ってくれているだけ信頼されているとも言える。


「は、はなさないで……」


 離さないで、か。体勢を変えるのもしばらく無理かな? にしても、ここまで酷いのはいつ以来だろ? 両親が事故死したとき並だよね……どんだけ嫌なことがあったんだか……いっぱい泣いて、さっさと忘れちゃえ。そんな想いを抱いて、私は腕に込めている力を強めるのだった。


 せめて、私の温もりで安心してもらえますように。と。

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とある双子姉妹の「はなさないで」 綾乃姫音真 @ayanohime

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