第1話 幸せの為に
223番街西神高地古町
ホイップside
お店にお客さんが入ってきた
「いらっしゃいなのだぁ!」
僕は小さな姿でふわふわと浮遊しながら、元気に返事をして、接客をする
このお店では色んな世界から取り寄せた食材を使い、洋菓子や和菓子とかの甘いものを主に、そのほかにも、元になった食材などを売っている
どんな種族さんでも食べれるようなものを沢山作っているのだ
朝から色んな人が来てくれて、嬉しいな
スイーツもお菓子たちも喜んでるもん
夕方になって、人が少なくなってきた頃
家の中にある厨房で、いつものようにクリームを作っていた
すると、またお客さんが遊びに来てくれる
「あの~…どなたかいらっしゃいますか?」
お店のほうから声が聞こえた
「ん~?いるよぉ~!ちょっとまってなのだ~~」
僕は作る手を止めて、お店に顔をだす
透明なケースの中にはたくさんのケーキ、周りの棚には様々なお菓子が並んでいた
これも全部、ぼくが作ったものたち お店に出ると、そこには見知った人が立っている
「こんにちは!ホイップちゃん」
天野かぐや様の姿だ
「わあ!かぐやさまだぁ~!いらっしゃいなのだぁ~……って、一人で来たのか?」
僕がそう聞くと、かぐや様はコクリと頷く
「はい。勉強を終わらせて、少し休憩したらどうかと提案されまして…散歩にと……ここを通った時に甘い香りがしたので」
なるほどなのだ …
それにしても、かぐや様は頑張ってるのだ
僕もたくさん頑張らないと行けない
そう感じた
「お勉強!お疲れさまなのだ~。ん~…あ!ちょっとまってほしいのだ!」
僕はそう言いながら、厨房へと足を運ぶ
「たしかこのあたりに………あ!これなのだ!」
目当てが入っているおしゃれな缶を浮かせ、念力で開ける
そして、それらをラッピングして、かぐや様のところまで持って行った
「はいこれ!貰ってほしいのだ~」
「え?!いいのですか?」
かぐや様は驚いた様子で、袋の中を覗く
その中には、美味しいクッキーを入れてあるのだ
「うん!かぐやさまの分もあるけど、ほかの人たちの分もあるから、仲良く食べてほしいのだ!」
「…ありがとうございます。あ、お代をお渡ししなければ…」
かぐや様は慌てながらそういって、お金を出そうとする
僕はそれを止めに入った
「いやいやいらないのだ!これはほんのおきもちなのだ。みんなが美味しそうに食べる姿が見れるだけで、ぼくはうれしいのだ!」
「いいえ!ちゃんとお返しします!」
ど……どうしよう…
ぼくがあわあわとしていると、ほかのお客さんが入ってきた
「おーい。ちょっといいか?………って、かぐや??なんでここにいるんだ」
お店に入ってきたのは、ホシグマ様だった
「あ、ホシグマ様。お疲れ様です」
かぐや様はホシグマ様に気づき、挨拶をする
「お!いらっしゃいなのだ~」
ホシグマ様がここに来るなんて珍しい
なんかあったっけ〜?
そう考えていると、ホシグマ様の口が開く
「突然すまん。らいから聞いたんだが、大福ってあるか?」
たくさん種類あるけど…多分らい様たちが来た時に買ってもらったやつかな?
妖の水も買ってくれてたけど……
少し前に、らい様とりゅーが様達がこの店に遊びに来たことがある
試食に渡した大福がとても美味しかったみたいで、沢山買ってもらってくれたのだ
その後に赤竜様からの連絡で、らい様が気に入ったらしく、また買いに行くとは聞いてたけど…もしかしてそれかな?
「ん?あるよぉ!用意してくれって言ってくれた分は残してあるのだ!けどこんなにいるのか?」
食べれるかと思うぐらい買っていったから、そんなにすぐ無くなるのか?
僕がそう疑問に問うと、ホシグマ様は少しため息をして答える
「まぁ…沢山食うからな。あいつら」
いや、それにしては無くなるの早くない??
甘いものは別腹って言うことなのか…な?
……でもそれで笑顔になるならいいかぁ
すると、いつも来てくれる彼の気配を感じる
「あ!ごめんなのだ!一度席を外すのだ〜」
僕はそう言って、裏口に顔を出す
「お疲れ様でございます。ホイップ様」
大きくもふもふとしたフクロウが、足で大きなダンボールを持ち上げながら飛んでいた
「いつもありがとうなのだ〜!たたりもっけさ〜ん!」
たたりもっけさんは、いつも材料とか必要なものを持って来てくれる配達屋さんなのだ
「いいえ。こちらこそ、ご利用いただいて感謝しております。それにしても、また賑やかな方がいらっしゃっておりますね」
「うん!とても優しい人たちなのだ!!あ、でも祟っちゃダメなのだ!そうなったら僕が許さないからね!」
僕がそう強く言えば、はいはいと相槌を入れるたたりもっけさん
「わかっておりますよ。でなければ、あの方に怒られてしまいますからね。それでは、こちらにサインをお願いいたします」
そう言ってたたりもっけさんは翼をバサっと羽ばたかせる
すると、当たり前のように紙がひらりと地面に落ちてゆく
「は〜い!」
僕が元気よく返事した後に、浮遊魔法を使ってペンを浮かせ、スラスラとサインを書き、たたりもっけさんが確認した後、荷物を地面に置いた
「ありがとうございます。それでは、私はこれにて失礼致しますね」
たたりもっけさんはお辞儀しながらそういうと、翼を広げて飛び去っていく
彼を見送ると、僕は大きなダンボールをゆっくりと浮かせて運ぶ
「よいしょ…!よい…しょっ…!」
厨房にある材料が保管されている倉庫に置く
浮遊魔法を使っていたとはいえ……
結構、重かったのだ…
お店に戻ると、二人が仲良く話していた
僕は大福をいくつか袋に入れて、それをホシグマ様に手渡す
「はい!どうぞなのだー!」
「おう。ありがとうな」
ホシグマ様はそう言って大福を貰って行った
すると、かぐや様が笑顔で楽しそうな提案を持ちかける
「そうです!今度、みなさんでお茶会でもしませんか?」
お茶会!
お茶会ってとても楽しいものだと聞いたことがある
やった事は無いけれど、前のお客さんの聞いた話が本当なら確かなのだろう
「わぁ!いいねぇお茶会!」
僕は目をキラキラとさせながらそう言った
のんびりと、他愛もない話が続く
カタカタ……
「ん?」
ぼくの耳に微かだけれど、音が聞こえた
ふと、棚に置かれているお菓子たちを眺める 変化は何もない
なんだろう
「ホイップちゃん?どうかなさいました?」
かぐや様が、心配そうに僕の顔を覗く
「ううん!なーんもないよ」
「ならいいのですが……」
少し間が空いたあと、ホシグマ様が言う
「じゃ、そろそろ戻るか。時間も時間だしな」
時計を見れば、もうそろそろお店を閉める時間だった
それに、時間的にも帰らなきゃ行けない時間なのだろう
「はい。ホシグマ様。では失礼しますね。ホイップちゃん」
かぐや様はニコッとしてそう言うと、ホシグマ様と一緒に店を出る
「うん!またなのだ~!」
僕は元気よく飛びながらそういって、二人を見送った
店を閉めて、ぼくは厨房に戻り、また新しいお菓子やスイーツを考える
世界中に、幸せを配るために
223番街から遠く離れた街
高く位置するビルの上で、1つの影があった
風が強く吹きつけ、長い水色に染った髪が揺れる
大人びた服装をしているが、肌は墨のように黒く、瞳も悪魔に近いような目をしていた
そんな彼女は、夜の街を眺めながら、ニタリと微笑む
???side
景色は段々と暗くなり、月が登る
また、賑やかな夜が来るのだ
夜は私にとって、とてもいい景色
大好きな時間
なにせ─────
所々から悲鳴が聞こえてくるのだから
命を狙われ、殺される
その恐怖を、魂たちは言葉や行動で表せてくれるの
とても素晴らしいと思わない?
幸せを感じた後に訪れる絶望
それも、また美味しい
誰かが言った
この
くだらない
私はもっと沢山の絶望を見たいというのに、見れなくなってしまう
魂は単なる玩具だし、遊びでしかないわ
なぜかって?
スパイスのように、人目の着くところで、ひとつの魂を壊す
それだけで……不思議と皆悲しむのよ?
自ら命を絶ったり、同じ苦しみを他人に押し付けようとしたりとか……
素敵だと思わない?
それを見るのが、私の幸福なの
……それなのに、あの子たちは毎回邪魔をする
面倒ね
せっかく私が連れてきた不幸を、いとも簡単に消しちゃうんだもの
私はそう考えながら、現世にあるビルの上で足をぶら下げ、風を感じながら景色を眺めた
でも、ふと久しぶりに彼らの様子を見に行くことにしたの
そこで懐かしい気配を感じた
「あら…?……ふふ…まさかここにいたなんて……どこに行ったのかと思ったけど…」
西に位置する町を、私が持っている水晶から覗く
私の大っ嫌いな雰囲気の場所
けれど、そこに居たのはおいしそうなスイーツに
楽しそうに…いろんな魂達へ、食べ物を渡しているところが見えた
「少しだけ……悪戯でもしようかしらね」
私はそう言って、人差し指を伸ばす
ガラスが割れるくらいでいいわよね
「待て、そいつらは俺の獲物だ」
考えていると、後ろからそう聞こえ、手を下ろし、ゆっくりと振り向く
そこには、だらしない男物の制服に赤色の瞳
白髪の短い髪が風に揺れながら立っている知り合いの姿があった
頬に植え付けられた草木は、縛りの印
人間の姿に化けてるとはいえ、こればかりは難しいのでしょうね
「あら居たの?気づかなかったわ」
私がそういえば、彼は顔をムッとさせる
「……今来たばかりだ。それより、俺の獲物に手を出すな」
彼は私の首元に刀を向けた
とてつもない殺気を感じさせるほどの気配
私自身嬉しい気持ちがあれど、抑える
「あら、こっちに向けないで?危ないじゃない…………それで?どうするの?あそこへ行くためには、面倒な結界に入らないといけないけれど……」
「俺を誰だと思ってんだ。とにかく、邪魔するんじゃねぇぞ。大国主」
「えぇ…分かったわ」
私の言葉を聞くと、彼はその場を後にする
「馬鹿な子ねぇ………」
そんなことを口にして、私も少し見てみたいものを思いついた
とある場所に、闇を忍び込ませる
遠くにある、海が近い森へ向かっていく
黒く染った闇の子は、森の中へ入り姿を消した
「行っておいで。私の可愛らしい子……」
願わくば、素晴らしい絶望と結末を見せて
幸せは、全て潰してしまえばいい
「相変わらず、面白そうなことするじゃんババア」
来て早々私の耳元でそう囁き、隣に座る
今じゃ種族とは言えない何者かになった女形機械生命体
姿に反して、青年のような声を出す彼は、利害の一致で私と共に行動している
「おかえりなさい。ナナシ。それと、いい加減その呼び方……やめないのかしら?」
私がそう聞けば、ナナシはケラケラと笑い始める
「あはは!やーだね。ババアはババアだもん。それより、あいつもう先に行っちゃったの?」
「えぇ、手を出すななんて殺意向けられながら言われて、すぐ行っちゃったわ」
けれど、あの感覚…悪くなかった
私は自身の片手を頬に当て、撫で下ろす
どんなものを見せてくれるのか、楽しみになってきたわね
そんなことを考えながら、また夜の景色を眺める
─────シトシトと、雨が降り始めた
街中で、チリン……チリンと鈴の音が鳴る
歩いていく人々の足元で、ポテポテと歩く1匹の白猫
ダンボールを敷いた上で寝る1人の子供
白猫は心配そうに子供の近くへ行き、隣で体を丸め、寄り添った
「ミャーン……」
寂しく、1匹の鳴き声と雨音だけが響く
…To be continued
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