メッセージジュエリー
「ティム、たくさん話したいことがあるの」
「僕もだよ、シンシア。でも、王太子妃殿下が具合が悪いんだろう?」
「そうだったわ」
ティモシーの言葉にハッとするシンシア。
シンシアは急いでティモシーをメラニーの元へ案内係するのであった。
「風邪ですね。王太子妃殿下、これは環境の変化によるものだと思います。薬を処方しますので、今はゆっくりお休みになってください」
ティモシーはそう診断した。
「ありがとう、ションバーグ卿。助かったわ」
メラニーは少し安心した表情である。
「では、
エミリーがティモシーから処方箋を受け取り、宮廷薬剤師の元へ向かった。
メラニーの診察は無事に終わったのである。
すぐに治りそうな風邪だったので、シンシアも安心した。
「シンシアも、何かあったらすぐ僕の所に来て。ほとんど喘息発作が起きていないとはいえ、いつ症状が出るかは分からないから」
ティモシーのエメラルドの目は優しくシンシアを見つめている。
「ありがとう、ティム」
シンシアはふふっと微笑んだ。アメジストの目は嬉しそうである。
その後、ティモシーはシンシアに見送られ、医務室へ戻るのであった。
「ねえシンシア、貴女はあの宮廷医の彼といつの間に仲良くなったのかしら?」
少し体調が良くなったメラニー。
アンバーの目は面白そうと言わんばかりにワクワクしていた。
「彼とは同じ孤児院で育ったのです」
シンシアはメラニーにターラント孤児院時代のことを話した。
「じゃあ彼がシンシアの会いたかった人なのね。まさかここで再会できるなんて思わなかったでしょう」
メラニーはクスッと笑った。
シンシアは自身がネンガルド王国に行きたい理由をメラニーに話していたのだ。
ティモシーは医務室に戻り考えていた。
(まさかシンシアがメラニー王太子妃殿下の侍女としてここにいたとは……)
ティモシーは嬉しそうに口角を上げた。
(シンシアはナルフェック王国の伯爵家の人間、僕はネンガルド王国の公爵家の人間……家格差は問題ない。僕より六つ上の
シンシアと再会し、改めて想いを伝え合うことが出来たティモシー。彼はその先のことを考え始めていた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
数日後、医務室で休憩中のティモシーの元に、レスリーがやって来た。
レスリーは体調不良ということではなく、単に公務の休憩時間になったのでティモシーと話をしに来たらしい。
「王太子殿下、わざわざご自身の休憩時間に医務室にいらっしゃらなくても」
ティモシーは苦笑した。
「いや、丁度君と話したい気分でさ」
ハハっと笑うレスリー。
「ティモシー、君はメルの侍女のモンベリアル嬢と良い仲だと聞いているよ」
ニヤリと口角を上げるレスリー。
「王太子殿下もご存知でしたか」
苦笑するティモシー。
「それで、その彼女との将来は考えているのか?」
レスリーのサファイアの目は真っ直ぐティモシーを射抜くようである。
ティモシーはゴクリと唾を飲み込んで頷く。
「ええ、もちろんです」
ティモシーのエメラルドの目は真剣だった。
「……分かった」
レスリーはゆっくりと真剣な表情で頷いた。
「ティモシー、もしモンベリアル嬢にプロポーズをするなら、メッセージジュエリーを贈ると良い。今貴族達の間で、婚約者や意中の相手にメッセージジュエリーで想いを伝えるのが流行っているみたいだ。まあメルと俺が流行らせたようなものだが。もしメッセージジュエリーを贈るのなら、俺がメルにネックレスを贈った時に世話になった職人を紹介するぞ」
レスリーは先程とは打って変わり、おどけたような表情である。
「ありがとうございます、王太子殿下。考えておきます」
ティモシーはフッと笑った。
そしてしばらくティモシーはレスリーと談笑した後、業務に戻るのであった。
(シンシアへのメッセージジュエリーか……)
診察の合間、ティモシーはぼんやりとそう考えるのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
一ヶ月後。
王太子妃メラニーの懐妊が判明し、王宮内はおめでたいムードで大いに賑わっていた。
シンシア達は何か不自由がないよう、いつも以上にメラニーの身の回りの世話をするのであった。
そして更に数ヶ月経過し、メラニーが安定期に入った頃。
「メラニー王太子妃殿下、お腹が大きくなられていらっしゃるわ」
シンシアはふふっと微笑み、アメジストの目を細める。自分のことのように嬉しそうである。
「そっか。宮廷医の方でも、王太子妃殿下もお腹の子も共に健康だって見解を出しているよ」
ティモシーも穏やかに微笑んでいる。
シンシアとティモシーは休憩時間にこうして二人で談笑することが多い。
「そうそう、少し前にレスリー王太子殿下と外務卿と共にナルフェック王国に行ったんだけど、その時のお土産」
ティモシーは優しく微笑み、シンシアに小ぶりの箱を渡す。
「ありがとう、ティム。開けて良い?」
シンシアはワクワクした様子でアメジストの目を輝かせている。
ティモシーが「もちろんだよ」と頷くと、早速シンシアは箱を開けた。
中にはエメラルドの髪飾りが入っていた。
「エメラルド……! ティムの目と同じだわ」
嬉しそうに微笑むシンシアは早速髪飾りを着ける。
「うん、よく似合っているよ。そのブローチもそうだけど、シンシアには僕の目の色のアクセサリーを身に着けて欲しくて」
少し頬を赤く染めるティモシー。
「嬉しいわ。私、二人で宝石図鑑を見た時からずっとエメラルドが好きよ」
かつて二人がターラント孤児院にいた頃、雨が降って外で遊べない日に図書室で一緒に宝石図鑑を読んだことがあった。
「僕も、あの時のことは覚えているよ。だからほら」
ティモシーはアメジストのカフスボタンをシンシアに見せた。
「シンシアの目と同じアメジストだ。僕もあの時からずっとアメジストが好きだよ」
するとシンシアは嬉しそうに微笑む。
「嬉しいわ。お互いの目の色のものを身に着けるって何だか守られているみたいね」
「そうだね、シンシア」
そこでティモシーは真剣な表情になる。
「シンシア、もう一つ君に渡したいものがあるんだ」
「え?」
シンシアはきょとんとしていた。
ティモシーは綺麗に包装された小箱をシンシアに渡す。
「開けてみて」
ティモシーに促されるまま、シンシアはゆっくりと包装を剥がし、小箱を開ける。
入っていたのはブレスレット。
ティモシーはそのブレスレットをシンシアの右手に着ける。
ブレスレットには複数の宝石が使われていた。
左からムーンストーン、アメジスト、ルビー、ルビー、イエローサファイア、ムーンストーン、エメラルド。
M……
A……
R……
R……
Y……
M……
E……
シンシアはその意味に気付き、頬を赤く染めてアメジストの目を大きく見開く。
胸の奥から込み上げて来るものがあった。
ティモシーのエメラルドの目は真っ直ぐ真剣にシンシアを見つめている。
「僕が伝えたいこと、分かる?」
シンシアは何度も首を縦に振って頷く。
「私……凄く嬉しい……!」
シンシアのアメジストの目からは、透明な水晶のような涙が零れ落ちる。
「シンシア、愛してるよ」
ティモシーはシンシアの涙をそっと拭い、優しく抱きしめた。
シンシアの小さな体が、ティモシーの大きな体に包まれる。
「私もよ、ティム。愛してる」
シンシアもティモシーを抱き返した。
「あのね、ティム、きちんと返事がしたいから、少しだけ待ってもらえるかしら?」
少し上目遣いになるシンシア。
ティモシーはゆっくりと頷いた。
「分かった、待ってる」
そして一ヶ月程経過した時、ティモシーはシンシアからあるものを贈られた。
それは複数の宝石が使われたブローチである。
左からムーンストーン、イエローサファイア、ペリドット、ラピスラズリ、エメラルド、アメジスト、サファイア、ウレキサイト、ルビー、エメラルド。
M……
Y……
P……
L……
E……
A……
S……
U……
R……
E……
それがシンシアからの答えであった。
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