メメント・モリ
結城朔夜
episodium:prologue
むかしむかし、神様が独り居りました。
たったひとりの楽園、それが退屈で仕方がありませんでした。
そして神様はあるコトを考えました。
『もし、此処に私以外のモノが存在したのなら、どう答えてくれたでしょう……?』
そうして神様は自らの子として、二つの存在を生みました。
その二つは翼を持ち、頭に輪環を宿し、まったく同じ姿形をしていました。
しかし、その二つは正反対の意思を持ち、神様に従順なモノと、反発してばかりいるモノになりました。
神様はそれぞれに、名前を与えました。
従順な子たちには白の子・天使。
反発する子たちには黒の子、黒天使と。
神様は彼らに告げます。
『この楽園から出てはいけない。外の世界は闇に包まれて、触れてしまえば穢れてしまう』と。
従順な天使たちは「はい」と返事をし、言いつけを守りました。
しかし、黒天使たちはまたもや反発し、神様に目を盗んで、楽園から出てしまいました。
そして黒天使たちはこう口にします。
「何も無いじゃないか。闇なんて、何処にも存在してはいない」
しかし、目には見えなくても、闇は存在していたのです。
何も無い。
そう、それこそが、闇の本体。
見えないから、分からないから、思わず触れてみたくなる。
闇はそんな好奇心を燻らせて、獲物を待っていたのです。
故に、黒天使たちはみるみるうちに闇に侵蝕されてきました。
美しく柔らかかった翼は次第にくすんで硬くなり、頭の輪環は角へとカタチを変え、手足の爪は鋭く伸びて、銀色だった瞳も深紅に染まり、異形の姿へと変わり果ててしまいました。
その姿を見た神様は、酷く哀れみ嘆きました。
『その姿でこの楽園に入ることは赦されない。お前は最早、私の力では浄化も出来ぬほどに穢れてしまった。故に、堕天の烙印を刻み、地界へと降りなさい』
そうして黒の子は黒天使の名を奪われ、闇の子・悪魔と呼ばれるようになったのです。
やがて、世界は二つに分かれ、白の世界・天界と、黒の世界・地界と呼ばれるようになったのでした。
白の世界・天界では、天使たちが住まう楽園が拡がり、黒の世界・地界では、禁忌を犯した者達が堕天の刻印を刻まれて、禍を振り撒く者達に支配され、常に黒き雲に覆われていました。
二つの世界は、互いに相反し、やがてそれぞれに秩序が生まれたのでした。
天界では穢れを持ち込まず、常に清らかであること。
天の恵みと神の加護を受け、皆が支え合うこととする。
一方、地界では魔物や魔獣が蔓延るようになり、日の光を得られぬ故、食料もほとんど育たず、飢餓に苦しむ者達が互いに奪い合い、殺し合い、力ある者のみが優位とされる格差が生まれていた。
やがてそれぞれの世界で王と呼ばれる者が存在するようになり、白の王は皆から慕われ愛され、黒の王は誰もが逆らえぬほどの力を持ち、権力を手にして白の世界を侵略しようと企んでいた。
それから数年の時が流れて。
白の世界と黒の世界は常に緊迫した状態にあった。
そんな時、白の世界と黒の世界で同時に産声をあげた子供が居た。
その姿を見たとき、神様は奇跡が起きたと言いました。
何とその二人は、瓜二つの容姿をしていたのでした。
髪の色は違うモノの、真っ白な肌に左右の瞳の色が金色と赤になっているところ。
そして名前までもが酷似していたのでした。
白の世界に生まれた子はリティル。
黒の世界に生まれた子はリディ。
神様はその二人を『神子』とし、見守ることにしました。
しかし、それぞれの世界の王は、違った考えを持ちました。
白の世界では『赤い瞳』は不吉の象徴でもあり、悪魔が持つ者とされています。
故にリティルは悪魔との子と云われ、母親は禁忌を犯したとされ、処刑されてしまいました。
その後、リティルは王の監視下の元、幽閉されていました。
一方、黒の世界では『金色の瞳』が不吉の象徴とされています。
故にリディもまた不吉の子と云われ、両親でからさえも忌み嫌われていました。
周りから嫌がらせを受けながらも、健気に生きるその姿は、悪魔の出来損ないとされていました。
また時は流れ、二人が7才になった頃。
運命の歯車が、残酷な時を刻んでいきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます