<完結>精霊と回廊の城エレデの魔法世界
桃福 もも
第1話 不思議世界への入り口
ドキ ドキ ドキ ドキ
眠っているのか起きているのわからない感覚。
ただ、ドキドキしていた。
目覚めては、お気に入りのベッドカバーを鼻まで上げて、小さく丸まった。
少しは、眠ったんだろうか……。
その時、ふいに、すっ、とした感覚におそわれる。
どこかに落ちたような、
「みい」
猫がないている。ずいぶん近い。
「みい」
頭の下から聞こえてくる。
「みいみみみい」
何か話しているみたい。
何?
「みみだみ、りおちゃん」
りおは、びっくりして飛び起きた。
水色のクマのぬいぐるみが、こっちを見ていた。
「今、しゃべったの、みーくん?」
返事はない。
みーくんは、ぬいぐるみと言うか、まくらだ。
そう、この子はマクラ型のぬいぐるみなのだ。
「みーくんがしゃべってるの?」
返事はなかった。
みーくんは、りおちゃんが3歳のころ、近所のスーパーで買ってもらったものだ。
安売りワゴンの中で、一個だけ売れ残っていた。
鼻の周りだけ黄色くて、目の
「ヘンなくまさん」3歳のりおちゃんは、気になったものの、そのまま通り過ぎようとした。
「みい」
呼び止められたような気がして、振り返ったが何もない。
ただ、クマのぬいぐるみが、りおちゃんを見ていた。
気のせいだと思って、やっぱり行こうとするのだけれど、どうしても気になる。
りおちゃんは、お母さんの手を引っ張ってワゴンにもどった。
「ママ、この子、安くなってるね」
「りおちゃんもマクラほしいの?」
「この子、マクラなの?」
「そうよ、ぬいぐるみになってて、かわいいね」
「うん、かわいいね」
「安くなってるし、りおちゃん用のマクラ買っちゃう?」
「うんうん、買っちゃう!この子はね、みーくんっていうんだよ」
「もう名前が決まったの?」
「うううん、自分でみいっていったんだよ」
ピピピピピピピ
聞きなれたアラームの音。デジタル時計が7時10分を示している。
「え!」
りおは、時計をわしづかみにした。
7時10分と見えたのは時間ではなかった。日付だ。
7月10日。
時間は、なんと7時50分!
「どんだけスヌーズかかってたのよ!」
「りお~!まだ寝てるの?ちょっと、遅すぎない?遅刻するわよ!」
お母さんの声だ。
「はーい!今起きまーす!」
りおは、花梨小学校の6年生だ。
近所の子供たちは、近くの小学校に通っているけど、りおは電車で5つも先の小学校に通っている。
家から一緒に通える友達はいない。
玄関から家を出ると、遠くにグレーのビルが建っていた。
建物なのだろうか?窓一つもない、のっぺりとしたグレーの大きな壁のようなものだった。
「いつの間に建ったんだろう?気づかなかったな」
一本でも電車を乗り遅れると、もう
りおは、とにかく先を急いだ。
電車を降りる駅が近づくほどに、りおの心はふさいでいった。
なぜなら、れんれんと、ぼぼちゃんに会いたくなかったから。
れんれんとぼぼちゃんというのは、毎日一緒に学校へ行く仲間だ。
昨日、いつものように一緒に学校に行っていたのだけれど・・・。
「私ね、りおちゃんってダイキライ」
れんれんが、ぼぼちゃんに耳打ちするのが聞こえた。
胸がきゅーんと苦しくなる。
ドキドキして、怖くて、耳がキーンとした。
それからだ。りおは、ずっとドキドキしている。
森駅に着いた。
れんれんもぼぼちゃんもいない。
「りおが
また、胸がキューンとなる。
「違う違う!今日はぎりぎりだったから、先に行ったんだよ!」
りおは、なにかの結果を知るのが怖くて、逃げるように走り出した。
キーンコーンカーンコーン
大丈夫、これは予鈴だから。
事務室の前を通る。
いつもの
「おはようございます」
彼女は机の上で、とんとんと書類を
そして、書類をシュレッダーにかける。
いつものお決まりのスタイルだ。
そう、いつもの通り。
いつもの通りのはずなのに、りおは、目を丸くして見入った。
シュレッダーが、シュレッダーが、どう見ても犬なのだ!!
りおは、しばらく、何が起こっているの分からなかった。
「事務員さんが、犬の口に、書類を入れようと?している?」
え? え~~~~!!
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