言葉と黒歴史

甘月鈴音

1話 その1

子供のころからわたしは勉強が大嫌いでした。授業中も妄想して、ぼけぇっとする人種。それは高校生になっても治らず、ヤッパリそうなると成績に響くわけで………。


とくに英語は、からっきり。

まぁ、日本人だし、海外行かなきゃ英語なんて話す機会なんて、そうそうないだろう。そう思っておりました。

そんなときの話です。


高校生だったころ。わたしは7キロ離れた高校に通っていました。とはいえ、3キロは自転車で4キロはバス通学で。40分ほどの場所にある学校でした。その帰りに出くわしてしまったのです。


あれは自転車をシャカシャカと軽快に漕いでいるときでした。


左脇は小さな車道。右脇は、ほぼ田んぼ、ときどき、家や小さな工場なんてのもある長閑な田舎で、わたしは風を切って自転車を走らせていました。


天気がよくて、気分がいい。

鼻歌なんかも自然に出て、とてもご機嫌だったのを覚えています。なので、誰かが歩いていようが気に留めず、横切る。


そこに


「えくすきゅうずみぃー」Excuse me


っと横切り際に聞こえ、わたしは条件反射で自転車のブレキーを握り、ギギギと音をたて立ち止まりました。


なんだ? なにか聞こえたような……。


振り返る。見て、ぎょっとしました。


デカイ!! コ、コ、コ、コ、黒人さんだぁ……。

あわわわわ。


男の外人さんに、一瞬でパニックになりました。


無理。英語話せない。


最初に浮かんだのがそれでした。焦りながら、あたりを見ます。


まばらに車道を車が通るだけ、ちちちっと雀が飛び立つ、気持ちよさそうな田んぼが目に入るが、他に誰もいない。冷や汗が流れる。


黒人とわたしだけ。


どないするんやぁ。咄嗟に立ち止まちゃったじゃん。あのまま、走りさればよかった。


そんなことを思いながら、その大きな黒人さんは詰め寄り、わたしはビクリとしました。


「あ〜。えくすきゅうずみぃー。Excuse me」


ひええぇ。喋った。


と黒人さんに聞かれ。わたしは思わず……


「NO」


っと言っちゃったんです。

……………………。

なんて失礼な奴なんでしょう。


いわば、すみませんっと聞かれて、嫌。と言ったようなものです。黒人さんも目を見開き驚き、苦笑い。


「あ〜、おぅ〜」

「NO、no、no、no、no、no、no、のぅぅぅぅぅ!!」


わたしは手を横に振り、完全拒否!!

わざわざ、立ち止まってくれた日本人に、黒人さんが拒絶されるの図ができたわけです。


英語、無理。英語、無理。英語。むりぃ。


頭のなかでそんなことを思い、口はNOしか言えない。必死だったんですよ。黒人さんはジェスチャーでなにかを伝えようとするが、もはや、聞き耳を持たず、パニックするわたし。


「あぅ。OK。そうりぃ」


そう言って黒人さんは、呆れ、諦め、立ち去ってくれました。きっと道を聞きたかっただけに違いありません。


ああ、なんて失礼なんだ。


でもあのときは本当に、無理だと思ったんですよ。ゴメンナサイ。それでも、ホッと胸を撫で下ろす、わたし。



──その後、社会人になり仕事で外国人に接することが増え、免疫がついた、わたしは、あのような失礼なことをすることは、なくなりました。


そしてある日、姉と大阪にある海遊館に行った帰り、外国人ファミリーに海遊館の袋を指さされ、同じように「Excuse me」と聞かれたことがありました。

ああ、海遊館に行きたいんだな。わたしは海遊館の袋を指差し


「これ、あっち」


背後を指差す。


「んで、曲がる」


左を指差す


「その、奥に海遊館あるよ〜」


近くにある海遊館を指差す。


「サンキュー」と言われ、そのファミリーは海遊館へと向かいました。なんだか、説明できたことが誇らしく感じた瞬間でした。


私だって成長してるのです。まぁ、すべて日本語ですが。良しとしよう。


こんな風にあの黒人さんにも、してあげられれば良かったのに、ふとそんなことを思ったのでした。

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