第11話 旅は道連れ、世は情け(レイノルド視点)

 ここからアゼリア嬢を眺めていると、心細そうなかと思えば、婚約破棄をされるのを知っていたのかと思われるほどあっさりと受け入れた。


 ――もしかして、事前に知っていたのか?


 他人事にも思えず、つい最後まで見てしまった。


 いつものように癇癪を起こして大暴れすることもなかった。


 最後には父親のロータス公爵からも除籍まで言われてさぞかし気落ちしているかと思いきや、アゼリア嬢は胸を張って凛とした姿で広間から立ち去ろうとした。


 しばらく見ていない間に随分と大人になったものだ。


 俺の前まで来たのでつい手を取り、一緒に広間を出た。


 無言で歩いていると俺の持っているスキルの一つ、検索の範囲に魔法使いや騎士らしき者達が表示された。


 この検索も初期から使えるスキルの一つだった。


 敵のモンスターや薬草などもどこに生息しているか分かるのでとても重宝した。このスキルのお陰で生き延びれた。


 ――やはり、王妃の手の者だろうか。いや、王の手の者かもしれないな。


 どちらにしたって、俺を王宮から生かして出すつもりはなかったのだろう。


 殺すのはどうとでもなるが、アゼリア嬢を巻き込んではいけない。


 最初に目の前に現れたのは王宮魔法使い達だった。


 俺を殺す気なのは間違いなかった。彼らは放たれる殺気を隠そうともしていない。


 魔法使い達の呪文の詠唱が始まった。


 それに加えて鎧や剣の擦れる音が遠くから聞こえてくる。


 騎士達も俺を殺す命令を受けたのかもしれない。


 アゼリア嬢を巻き込んでしまったな。彼女は安全なところまで送り届けたい。


 俺達に描かれた魔法を掃除スキルで消し去った。


 魔法使い達は魔法を打ち消されたことに気がついて動揺し始めた。


 彼らは魔法を消すことなどできないと思っているからだ。


 世界は広い。他国では魔法の研鑽をし、魔法のあり方を熱心に研究している。


 この国は光の魔法使いの出身地なためかなり保守的だった。


 俺も他国で冒険者をしながらどうすれば魔法を使えるか考えて努力していた。


 もしかしたら、魔法が使えるようになって、父が俺を認めてくれるかと少し甘い期待をしていた。


 だけどそれももう今日で終わりだ。


 いろいろと学んだのは魔法はイメージが重要だということ。そして、天性のものが大きいと言うことだった。


 それならばと俺はスキルを磨いた。どんなスキルでも取り入れようとした。


 俺のスキルは長年磨き上げた技術の結晶だ。


 誰にも負けない。


 その中で消す技術を磨きいろんなものを打ち消す事ができるようにまでなった。


 あれから十年以上か……。


 感傷に浸る間もなく、俺はアゼリア嬢を守って、外で待つアドニスと合流しなければならない。


「走れますか?」


「え、あ、きゃあ」


 アゼリア嬢の返事を待たずに抱き上げて、走り出した。


 身体強化スキルを発動し、鍛錬しているからアゼリア嬢を抱えていても問題なく走ることができる。


 更に俺は加速スキルを自分に掛けて勢いを加速させた。スキルの重ねがけも慣れたものだった。


 すぐに魔法使い達を振り切ることができた。


 別にスキル技で応戦しても良かったが、万が一にもアゼリア嬢に怪我をさせてはいけない。


 王宮を駆け抜けたが、彼女の存在など羽よりも軽く感じるほどだった。


 約束してあった場所にアドニスが馬車を用意しているはずなのでとりあえずそこまで急ごう。アゼリア嬢の処遇については後から考えればいい。


「逃げたぞ! 追えぇ!」


 遠くから鎧の音と声が聞こえてきた。別の騎士達も追い付いたようだった。


 アゼリア嬢を怯えさせて暴れられると困るな。


「巻き込んでしまったようですね」


 アゼリア嬢は怯えた感じがするものの俺にしっかりとしがみついてくれて走りやすくなった。


 とりあえず騎士達の装備の分解にかかる。


 鍛冶スキルで使えそうなのは…、いや、ここはやはりいつもの掃除スキルで構造物分解を試してみよう。


 剣は研ぎ直す時もバラすからな。


 鎧は継ぎ目からどうにか分離して、ほら掃除する時に油とか使うし、分離するために洗剤を使ったりするしね。


 装備がバラバラになって動揺したのか、それ以上追ってくることはなかった。


 だから見る間に追手を引き離すことができた。


 ついでにスキルを使って床に段差を付けて足止めもしておいた。これは建築スキルの応用だ。階段を作るようやってみた。


「――追放される王子を生かして王宮から出すことなどありえないからね」


 自虐的だがどうしても呟いてしまった。


 アゼリア嬢は何も言わずまるで慰めるかのようにさらに俺にぎゅっと抱きついてきた。


 ――やっぱり、アゼリア嬢だな。


 彼女の人としての温かさに王宮での凍えていた記憶が少し暖められた気がした。

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