第10話 追放劇(レイノルド視点)
「やっと無能なお前を見なくて済む」
王宮で宴があると呼ばれて久しぶりに戻った時に父である国王から言われた。
普段の俺は冒険者として王宮の外で活動していてた。
俺の不在時は乳兄弟アドニスが使用人として働いているのでどうにか胡麻化してくれていた。
前王妃の子で魔法なしの王子など王宮では誰も関心が無かった。
ずっと魔法なしの無能と呼ばれ冷遇されていた。
「リーダイには儂と同じの火の魔法が受け継がれている。お前は魔法を使えない。そのような者を王族でいさせるなど大いなる損失だ。それでも成人までは養ってやった恩を忘れるな」
俺は無言で跪いていた。
王の隣では弟のリーダイがにやにやしながら俺を見下していた。
王妃などは俺の方を見向きもしなかった。
まるで汚らわしいものとでもいうように。
実際に王宮で遭遇した時に何度も言われたこともあった。
命も狙われそうになったことも何度もあった。
魔法無しなら追放でいいのに存在自体が目障りだからだと言われた。
俺がいたということを消し去りたいのだと。それはまるで呪いのように繰り返された。
王族から名前を消され、自由の身になるのはこちらも願っていたことだ。
ただ、シエナ国の王族の不名誉だからと命まで狙われるのは理不尽だ。俺は好きに生きる。
母の実家から付けてくれた乳母と乳兄弟のアドニスが世話をしてくれなければ俺は小さい頃にとっくに命を落としていただろう。
母の実家は母亡き後、事業で失敗したことからどんどん没落していった。助けてもらおうにも今や行方すら不明になっていた。
もしかしたら、奴らに殺されたのかもしれない。申し訳なかった。
魔法なしの貴族の子が生まれると悲惨だ。消されても仕方ないのがこの国の風潮だ。
俺の味方は乳母と乳兄弟のアドニスだけだった。乳母は俺達が出て行くと他の勤め先に身を潜めることになっている。
俺はアドニス達の持ってきてくれた食料で生き延び、八歳になると冒険者登録をして外での生活で生き延びることができた。
魔法は使えなかったが、俺にはいくつか生まれ持っての特殊なスキルを持っていた。
その中でも錬金術師という上位スキルだ。これは園芸師から始まるスキルツリーの上位でかなり役に立った。
スキルには下位スキル、上位スキルがある。
錬金術師に到達するには下位スキルの園芸師から薬草師、治療師などのスキルを得て派生するスキルだった。
錬金術師は上位職に当たるため、最初から薬草やポーションを作ることが出来た。
お陰で冒険者と登録すると薬草採取などから、ポーションの納入などで金銭やスキルポイントなどを稼ぐことができた。
スキルが上達するのはこのポイントを貯めると上がるシステムだ。依頼や鍛錬をすれば上がる。魔法とは違う。
いずれは王宮を出て生活をするための準備もアドニスと相談していた。
だからこれは丁度良い機会だった。
アドニスに事前に出発の準備をさせておいて良かった。
シエナ国の王宮で大勢の貴族の前での追放宣言。
「お前は魔法が使えない。そのような出来損ないの王子などこの国には必要はない。どこにでも行くがよい」
心構えをしていたけれど実際に実の父から言われると少し堪えた。
だが、これで俺は自由だ!
跪いたまま喜びに打ち震えていた。
父や弟は俺が追放される恐怖で震えていると思っているのだろう。ところが、
「えっ?」
どこからか可愛らしい声が聞こえた。
なんだか聞き覚えのある声だった。まさかな。
俺はゆっくりと立ち上がり、注意深く周囲を警戒しながら広間から出ようとした。
周囲の貴族も進んで道を開けてくれた。そこにリーダイの声が響いた。
「さて、目障りな奴も消えたし、次は……、アゼリア・ロータス!」
ああ、そうだ。さっきの声はアゼリア嬢だ。
ロータス公爵家のご令嬢。貴重な光の魔法の持ち主。
王族の一員とするためにリーダイと婚約していた。
つい彼女の方を見遣った。
稀有な光魔法を持つ少女。
俺を無能だと蔑まなかった唯一の高位貴族のご令嬢。
我儘だが寂しがり屋な彼女は俺を見つけると近寄って話しかけてくれた希少な存在だった。
だからつい気になって足を止めてしまった。
リーダイの横には薄茶色の頭の大人しそうな女性がいた。
どういうことだ? アゼリアという光魔法の立派な婚約者がいるのに隣に女性を侍らすなど。
リーダイはアゼリア嬢を指差して嘲笑っていた。
「お前は傲慢な態度で聖女のような令嬢を苛めていたことが分かった。そのような女は私の妃に相応しくない。よってお前との婚約は破棄するものとする!」
リーダイからはとんでもない発言が出ていた。
希少な光魔法の持ち主のアゼリアと婚約破棄をするなど。
シエナ国が他国からどのように嘲笑されるか。考えるまでもない。
光魔法は希少価値で他国も欲しがっている。
シエナ国は最初の魔王を倒したとされる光魔法の聖女が出た国だから、光魔法を持つ者が出るのが多い。
それでも百年に一人と言われている。そんな令嬢を手放すとか有り得ない。
まあ、今の俺にはもう関係ない人だ。
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