7. 「GZ-5172 Type-W ワイルドアンクレット」

 カーショップの店員さんが、1台1台お婆ちゃんの魔導車の周りを塞いでいる魔導車をどかして行っている。

 なんでも絶対に盗まれてはいけない高級車の周りには、こうやってほかの魔導車を配置することでバリケードにするそうだ。

 魔導車同士で乗り越えるのは苦労するらしいからね。

 よく考えられているものだ。


「試運転はどうします? 私がしますか?」


 カーショップの店員さんがお爺ちゃんに聞いてきた。

 試運転をする人は選べるらしい。

 お爺ちゃんはどうするのかな?


「街の外までは儂がしよう。街の外では孫に運転させる」


「え!? 私!?」


「お前の魔導車じゃぞ、当然じゃ」


 そういえば、お婆ちゃんの魔導車ということは私の魔導車なんだった。

 お爺ちゃんがお金を払っていたからすっかり忘れたよ。


「そういうわけじゃ。それ、乗るぞ」


 お爺ちゃんに急かされて私は魔導車に乗る。

 最初はお爺ちゃんが運転席、カーショップの店員さんが助手席、私が後部座席だ。

 シートベルトも締めて、安全確認よし、と。


「さて、エンジンをかけるぞ」


 お爺ちゃんがエンジンスイッチをオンにすると、前よりクリアになったエンジン音が響き渡る。

 それと同時にパネルから声が聞こえてきた。

 サポートシステムかな?


『「GZ-5172 Type-W ワイルドアンクレット」始動を確認。HELLO WORLD.サポートシステム「シード」起動しました』


 あれ?

「GZ-5172 Type-W ワイルドアンクレット」ってなに?

 この魔道車は「GZ-5000 アンクレット」のはずなのに。


 そこを聞いてみると、「GZ-5172 Type-W ワイルドアンクレット」というのがこの魔道車の正式な名称だと教えてもらった。

 前のサポートシステムが「GZ-5000 アンクレット」としか回答しなかったのは、サポートシステムも古くてそこまで細かいことはできなかったらしい。

 でも、いまはセントラルシステムに接続してアップデートしたことで正式名称も言えるようになったそうだ。

 なんだかかっこいい。


「標準名称の『シード』というのも味気ないのう。ルリや、なにか別の名前を与えぬか?」


「え? 別の名前を付けることもできるの?」


「できるぞ。婆さんは『フォレスト』と名付けておったが、旅をやめるときに初期化したようじゃな。まあ、今日決めなくともよいので考えておけ」


「うん、わかった」


 サポートシステム名か、なにがいいかな?

 私が考え始めると、お爺ちゃんがサイドブレーキを外してギアを変えたらしく、ワイルドアンクレットが少しずつ前へと動き出した。

 最初こそ様子見でゆっくりと進んでいたけど、きちんと動くことがわかったらお爺ちゃんはスピードを上げ始める。

 エレメントの街に来るまでは、こんな加速はできなかったんだけど、こういった加速もできるようになったわけだ。

 いろいろと整備されているなぁ。


 お爺ちゃんはエレメントの街の公道に出て街の外へと向かう。

 すると、街行く人の目がこの魔導車に釘付けになっていた。

 やっぱりそれほど珍しい魔導車なんだ。

 私なんかが乗り回して大丈夫かな?


 街の外まで出たら運転手は私に交代、いよいよオフロード走行のテストだ。

 オフロードとは言っても街の近辺の平野部じゃそこまでガタガタじゃない。

 本当の試運転だね。

 では、早速走らせてっと……うわ、振動がほとんど伝わってこない!

 すごい!


「ほほう。サスペンションも相当いい物をつぎ込んでいるようじゃの」


「サスペンションとタイヤにはとことんこだわってほしいというオーダーでしたからね。ギアボックスも最新の物に交換してありますし、なくなっていたエアドローンも最新の物を、車体も錆落としなどをしっかりかけさせていただきましたから。新品のGZ-5000シリーズとしても売り出せますよ」


「ふむ。じゃが、ただのGZ-5000シリーズとはエンジンの質が違うじゃろう?」


「まあ、ワイルドアンクレットには出力がまったくかないません」


 そうなんだ。

 ワイルドアンクレットってそんなにエンジン出力が高いんだ。


 そのあとも試運転は続き、少し高さのある岩に乗り上げても転がらないことを確認して街へと戻った。

 もし横転しても、搭載してある『ワイルドジャッキ』という道具を使うことで起こすことができるらしいけど、傷つけたくないからあまり乱暴な運転はしないようにしよう。

 せっかく直った大切な魔導車だもの、大事にしないとね。

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