私とお婆ちゃんの形見の車『GZ-5172 Type-W』の冒険譚 ~伝説的な名車を引き継いだ私は探検家として名を馳せる~

あきさけ

ピックアップワゴンの旅

第一章 祖母の残した魔導車

1. ルリとお婆ちゃんの形見の魔導車

 私には夢がある。

 それは祖母が遺した魔導車で世界中を旅することだ。

 残念ながらその魔導車は壊れているけど、修理すればまだ動くらしい。

 祖母からその魔導車を譲り受けていた私は、毎日勉強をして魔導車を修理していった。

 そして今日、ついにその魔導車の修理が完了したのである!


「いやー、ここまで長かったなぁ」


 私、ルリが住んでいるのはオール王国の田舎にあるスペンドという村だ。

 田舎といっても近くには大都市であるエレメントがあり暮らすには不自由しない。


 この国も昔は戦争ばかりしてきたらしいけど、魔法文明が発達し、魔導技術が確立されると戦争をしなくなったらしい。

 魔導技術で開発された兵器を使って戦争を始めた場合、双方に甚大な被害が出るため、まともな神経をしている国は戦争をしなくなったのだ。

 じゃあ、まともじゃない国はどうしているのかというと、大国同士が同盟を組んでいて小国が戦争を仕掛けると大国が一気に押し寄せて滅ぼされてしまうのだとか。

 なんとも世知辛い世の中である。

 モンスターという共通した脅威もいるのになにをやっているのやら。


 さて、魔導技術で生み出された産物の中に『魔導車』という物がある。

 これは魔道具で作られた車である『魔道車』とは大きく異なり、種別も分けられていた。

『魔導車』の最大の特徴は、空気中にある魔力を取り込んで自走できることで、よほど魔力の薄い地域に行かない限り動けなくなることはないらしい。

 本当にすごい技術があったものだ。


 ちなみに、私のお婆ちゃんはその『魔導車』に乗って国を越えての旅をしていたらしい。

 お婆ちゃんが生きていた頃は、その話をよく聞かされた。

 お父さんとお母さんがすでに死んでいた私にとってお婆ちゃんの冒険譚は子守歌のような者である。

 でも、その魔導車もお婆ちゃんがこの村でお爺ちゃんと結婚したあとは動かす機会が減り、やがて動かなくなってしまったそうだ。

 原因は長期間変換炉を動かしていなかったせいらしい。

 私は子供ながらにもったいないなと感じていた。


 そんなお婆ちゃんもやがて亡くなり、動かなくなった魔導車をどう処分するかの話し合いが始まる。

 でも、私はその話し合いの場に乗り込んで魔導車を私のものにすると主張した。

 どうも村の人たちはお婆ちゃんの魔導車を売り払ってお金にしたかったようだけど、私はそれを許さなかったのだ。

 最終的に村長が力尽くで奪い取ろうとしたが、お婆ちゃんの遺言書を村長が隠していたことがばれ、魔導車は私のものになった。


 あれから10年、お爺ちゃんと一緒に畑仕事などをしながら、私は魔導車の整備を続けてきた。

 最初はお婆ちゃんの言っていた変換炉を調べてみたんだけど、魔導車に乗っていた説明書を読む限りおかしな点は見つからない。

 じゃあ、次は魔力エンジンを調べてみたが、ここも壊れていなかった。

 説明書を読めるようになるまで1年、変換炉と魔力エンジンを調べ終わるまで2年、ここまでで3年を費やしている。


 転機が訪れたのは5年目で、変換炉と魔力エンジンが動くようになったことで搭載されていた自己診断装置が動き出したことだ。

 それによると、変換炉を通して補充される魔力エネルギーも足りていないし、それを貯蔵しておくためのバッテリーにも不具合が生じている。

 あと、駆動系と制御系をつなぐ装置にも問題があるみたい。

 それ以外は概ね問題がなさそうだ。

 まあ、問題がある場所が大問題なんだけど。


 魔力バッテリーも接続装置も修理するにはお金が必要だ。

 具体的には交換するしかないのでどちらも買うしかないのだ。

 そして、私の魔導車はお婆ちゃんが乗っていたような年代物の魔導車である。

 交換部品が簡単に見つかるとは思えない。


 ……そう考えていたんだけど、街の魔導車ディーラーに行ったらあっさり問題が解決した。

 お婆ちゃんの魔導車は確かに旧世代型のビンテージカーなんだけど、その強固な作りと世代を先取りした性能のおかげでいまでも同系統の車種が作られていたのだ。

 つまり、交換部品もお金さえ出せば簡単に手に入る。

 うん、ラッキーだった。


 それからさらに5年かけて必死に働き、ついに私の魔導車の修理が終わったのである!


「かんせーい! 早速乗ってみよっと」


 運転席のドアを開け、魔導車に乗り込むとバックミラーに私の顔が映り込んだ。

 お婆ちゃん譲りの茶髪をショートヘアにまとめ、お爺ちゃん譲りの黒瞳がきらめく女の子だ。

 目鼻立ちが整っているとまでは言えないけど、そこまで不細工でもない。

 そばかすが気になるがこれも長い付き合いなのでご愛敬だ。


 自分の顔ばかりを眺めていても仕方がないのでバックミラーの位置を正し、魔力バッテリーの残量が十分に貯まっていることを確認してから、いよいよエンジンを入れる。

 いままで修理は続けていたけど、エンジンをかけるのは初めてなのだ!

 なんだかわくわくする!


 私がエンジンスイッチをオンにすると、車体前面にあるエンジンが低いうなり声を上げてその目を覚ます。

 よし、成功!


『……「GZ-5000 アンクレット」始動を確認。サポートシステムを起動します』


「え、なに?」


 エンジンを起動したら助手席との間にあるパネルから声が聞こえてきた。

 こんな機能聞いたことがないんだけど!?


『HELLO WORLD. サポートシステム「シード」起動しました』


 サポートシステム「シード」?

 なんのことかわからないけど、調べてみるしかないよね。

 自分の車なんだし、自分で調べよう!

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