異世界警察 失われた人生を
オク
第1話 異世界警察
雲一つない青く澄み渡る空。
そんな晴天の下には、巨大な都市があった。
多くの城壁に囲まれた都市の中には、多くの建物が立ち並んでいた。
都市の中央には、柱の周囲を円盤が回っている不思議な城があった。
その城―――正確には警察署の名は『プラター』。
都市『キース』を代表する警察署本部である。
プラターの元には都市に住まう、大勢の人が集っていた。
ヒューマン、獣人、ドワーフ、エルフ、妖精…。
多種多様な人種がいるが、彼等彼女等には二つの共通点があった。
一つ目は、真新しい黒いキース警察官の制服を着た、一つの集団を囲み、注目していたこと。
二つ目は、彼等彼女等の目には希望の光が宿っていたこと。
そう、今日はこの都市の住人達にとって非常にめでたい日なのだ。
「改めまして皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今日という素晴らしい日が開けれることに、心より感謝を申し上げます」
その声の発生主は、整列した集団の真正面にある銀色の台に乗った男だ。
眼鏡を掛け、執事服を着た白髪の老人は、深々と頭を下げる。
「おっと、申し遅れました。私はキース警察、本署所属、副署長のカエデと申します。本日は署長が不在のため、副署長の私めが署長に代わって挨拶をさせていただきます。前置きはこれぐらいにして、これより、キース警察に新たに入隊することになった、新人警察官の入隊祝いの会を始めたいと思います。」
市民は彼の言葉にまばらな拍手で迎える。
カエデと名乗った男はにこやかな笑みを浮かべていたが、次の一言を発すると同時に、顔を引き締めた。
「さて、ここにいるほとんどの皆さんはご存じだと思いますが、改めて補足をさせていただきます。この都市は『世界の中心』と呼ばれています」
カエデはゆっくりと穏やかな口調で語る。
しかし、その声には確かな熱い想いがあった。
「その理由は簡単、この都市の付近には巨大な魔物の巣窟、ダンジョンがあるからです」
ダンジョン―それはこの広大な世界で、一つしかないと言われている原因不明の穴のことだ。
ダンジョンの中は、摩訶不思議で一見、ただの洞窟ようだが深くなるにつれて、その姿は変わっていく。
密林や、草原、湖、雪原、巨大な滝、岩石だらけの山。
そして、そこから魔物が産まれる。
そんな謎を解き明かすために、キース市警は研究者と協力して長年調査を続けている。
分かっていることは数少ないが、その中でも基本の五大要素はこの世界の常識として、全ての人が知っている。
・この世界に徘徊している魔物は全て、そのダンジョンから産まれたという事。
・魔物は人を襲うという事。
・ダンジョンには、無限の資源があるという事。
・ダンジョンには現在、非常に強力な鍵が掛かっており、魔物はその鍵を壊す事はできない事。
・鍵が壊されると、魔物が地上に溢れかえること。
「ダンジョンに掛かっている鍵により、私たちは平和を享受することができています。しかしこの平和は、過去の英雄達が血と涙を流し、命を懸けて手に入れた栄光です」
遥か昔、地上にのさばる魔物達により、大勢の人々が犠牲になった。
地上は魔物達の天下になり、人類に安永の地などなかった。
そんな時代に終止符を打ったのは、今代に英雄と呼ばれる傑物たちだ。
彼等彼女等は、襲い掛かる魔物の海を打ち破り勝利を手にした。
そして当時の高名な魔法使いにより、ダンジョンの穴に強力な魔を封じる魔法が掛けられた。
魔法は現在も存在しており、魔物が地上にできることはない。
時が進むにしたがって魔法の効力は弱まってしまったものの、現在は魔法の効果を強める特別な装置により、鍵は決して揺るがないものとして人類に平和をもたらしている。
「この都市は、魔物と人類の最終決戦に使われた本陣が、発展して作られた誇り高き都市なのです」
お手本の様なこの世界の歴史の説明に、都市の住人は感嘆の声を漏らす。
カエデの語りはまだ続く。
「歴史ある地と、無限に溢れ出す資源により大勢の人が集まることから、キースは『世界の中心』と呼ばれているのです」
無限の資源。
それは比喩無しに、本当のことだ。
魔物が偶に落とす、『ドロップアイテム』と呼ばれる、武器や道具に使われる物資。
ダンジョン特有の強固で美しい鉱物や、一度食べたらそれしか食べれなくなるほどの美味な食糧。
それらに限りはなく、暫く時間を置くと元に戻っているため
世界のどんな所にも、このようなものは存在せずにいるため、世界各地から莫大な金を求めて商人や、腕っぷしに自身のある者や、正義感を胸に飛び出してきた者がキース市警に志願しに来たり、至高の武器を作るために鍛冶師が、実りを求め農家が、歴史ある文化を見に来る観光客が。
そんな都市の魅力に、すっかり取り付かれた人達によりこの都市は絶えることなく発展を繰り返していった。
しかし、とカエデは嘆かわしいとばかりに、目を伏せる。
「ここ最近、ダンジョンの鍵を解除し、地上に魔物を出そうとする、悪人たちが数を増しています」
住人達の顔が、一斉に険しい顔へと変貌する。
過去にも、時代を混沌に変えようとする極悪人達がいたが、全てキース警察により倒されていった。
だが、その人数は徐々に増えていっており、治安は悪化する一方だった。
「過去の英雄達の努力、という一言では到底表すことのできない成果によるり、築かれたこのキースを始めとした数多くの都市や国、そして、今私の目の前にいる人々の命を全て水の泡に帰そうとしている者達を、私は許す事ができません」
再び目を上げた、カエデの瞳にはこの平和を守るという強い意志と、住人達と同じ新たな雛鳥達への希望が宿っていた。
「今、ここにいる新米警察官の皆さんは、我々キース市警の難題を乗り越えられました。正に、この先の時代を担う、黄金の卵です。他ならない、私が保証します」
キース警察官の制服、それは都市の実力者達が繰り出した難題を突破した証。
文章題や計算問題などの、多種多様な難問続きの筆記試験。
本人たちの技量を測るために、現役の警察官との組手も実践試験。
困難な二つの試験を乗り越えた者達のみ、キース市警を名乗ることが許される。
受験者数は脅威の千人。
そんななかでも、全体の約三割ほどしか受からないという狭き門を突破した彼等彼女等は、間違いなくこの先の人生で誇ることのできる勲章となる。
新人警察官等は誇らしそうな者、小っ恥ずかしいそうな者など、様々な反応を見せるが、総じて彼等彼女等の表情は明るかった。
「そんな皆さんの門出を祝して、言葉を送らせていただきました。以上で私の話は終わりにさせていただきます。ご清聴ありがとうございました」
最後にカエデは最初の礼と同じくらい、頭を下げた。
そんな彼の演説に万雷の拍手で、市民達は応えた。
次に、新人警察官等を応援する声があちらこちらから響いてくる。
声援を受けた彼等彼女等は、にやけるのを防ごうとするも、もろに表情にでてしまう。
ここから始まる輝かしい、仕事に胸を高まらせながら。
しかし、全ての人間がそうでは無い。
その中でも目立つ五人がいた。
しかめっ面を浮かべた、筋肉質の金髪の
彼と彼女もその一人だ。
誰よりも笑顔でいる、黒髪で銀色のメッシュがはいったヒューマンの少年、ツカサ。
そんな彼の隣で、ピンク髪が似合う可愛らしいであろう顔をしながらも、ジト目でひっきりなしに注意を出す、ツカサの義妹で妖精のエル。
彼等彼女等は市民からはよく見られていないが、カエデなどの上から見た人間からしたら、よく目立っていた。
多種多様な人種の五人。
ここから、彼等彼女等の長く、険しい物語は始まった。
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