第21話 漫画家・髙宮絵菜
彼女の作る漫画は、どの漫画家の描く漫画よりも、独特な世界観で、他に類を見ない漫画だった。
彼女の人気が高まり続けているある日のことだ。
「疑問なんだけど、ラトレイアーは何が目的なの?」
「さあね。前、海の言ってたグループっていうのは、Aが一番需要があり、Cが需要が少ないっていう、ランクになってるってことだよね。つまるところ奴らは、ハッキングを目的としているという事でしょうね」
コーヒーを入れる紗季が歩美の寝転がっているソファの向かい側のソファに座ると、カップに口をつけた。
コンコン。
「あれ?依頼?今日は休みのはずなのに……」
「……」
紗季は立ち上がると、事務所のドアをゆっくり開けた。
すると、ドアの開けた先には——。
「絵菜?」
絵菜が居た。絵菜は胸のところで、漫画の原稿を抱えて、目を輝かせていた。
「アニメ化が決まったのー!!」
「え、あ、ああそうなの?」
「どうしたの紗季ちゃん?あれ絵菜ちゃんだ。依頼?」
「まあそんなようなもの……」
絵菜は自分の描いた漫画のキャラクターのカラーイラストを二人に見せた。
「実は、アニメ化することが決まったんだよー!」
「ほんとに!?」
「うんうん。でもまだ制作決定したところだから、放映されるのはまだまだ先だけど……」
絵菜はワクワクしながら、歩美の事務所の中にずかずか入って行く。
紗季は絵菜の方を見ながら、歩美に耳打ちした。
「昨日、一緒に帰ろうと思って、美術室まで行ったら、雪が絵菜と話してたんだけど、その時丁度廊下の電話が鳴って絵菜が受話器取ったんだけど、電話し終わった後、気持ち悪いくらいテンション上がってたから本当に昨日、アニメ化が決まった、と編集者から連絡があったんでしょうね」
「でも、良かったじゃん!!ね、絵菜ちゃん!」
歩美が満面の笑みで絵菜の方を見ながら言うと、絵菜は立ち止まり、肩を揺らして笑った。
「アハハッ!!これで、あの雪を超えられる……!」
そんな絵菜の様子を見た紗季は絵菜を見て、呆れた顔で言った。
「その雪には言ったんでしょ?」
「言ったよ!!でも……『アニメ化ぐらいで、喜べるなんて、良いなあお前』って言われたんだよ!信じられる?あのクソ女が……!」
「あー……雪ちゃん、もう自分の書いた小説、ドラマ化も、アニメ化も、どっちもしてるからね……」
歩美は困り顔で紗季の方を見て言った。紗季は、書斎机に置いてあるパソコンを開いた。
「ええっと……アニメやドラマは……ここのサイトに、ログインすれば……」
紗季は、『日秀学園TVサービス』と書かれた大きな文字の下の白い四角のところに、自分の組と番号、そしてメールアドレスを打ち込む。
「今のところ、雪の小説が原作の映画が一位だけど……これに勝てるのかしら?」
「失礼な!!勝てるでしょ!!さすがに!!」
「ま、まあ多分ね」
紗季は苦笑いでパソコンの画面を見る。
「もう予告映像とかは出てるの?」
「いや、まだ。制作決定っていう短い動画ならあるけど」
「ああ、それね。ちゃーんと、このサイトに上がってるわ」
動画の下には『朝にこんばんわ、制作決定!!』と書かれていた。
「ほう。ちゃんとあるね。で?何しに来たのよ?」
「今日の放課後に、アニメ会社まで行って、キャラクターの設定と、プロットの説明をしようと思ってたんだ!!でも初めて行くから、緊張して……」
「なるほど。要は付いてきてほしいのね。付いてきてほしいのね。はっきりそう言いなさいよ」
「うるさい福浦!さっさとついて来い!」
歩美がめんどくさそうな顔で首を横に振った。
「雪ちゃんに頼めばよかったの——」
「あ?」
「——いや、何でもないです」
絵菜が歩美を睨み返すと、絵菜は身体をぴしゃっと身体を引き締めた。
その日の放課後。
紗季、歩美、絵菜の三人は、B棟の三階の端っこの部屋へ入ると、そこには、大きな白いテーブル、それを囲むようにペンタブとペンの置かれた黒い机、端っこにある大量のファイルの入った棚。
「おお!!ここがアニメ会社!!」
「絵菜さん。もう編集者の方が到着してますよ」
「早いね。編集者の人」
「絵菜が遅いだけよ」
ワクワクする絵菜とその隣で、紗季と歩美が小声で話す。
「んじゃ、さっそくキャラクターの設定を……」
カバンをあさる絵菜の動きが突然止まった。
その隣で、歩美と紗季が絵菜の顔を覗き込む。
「……無い……無いの!!」
「な、何が?」
「私が描いたキャラクターの設定資料と、プロットをまとめた資料がああああああ!!」
「え!?」
「嘘……!?」
三人の様子を見たアニメーターが、頬から汗を伝わせ、絵菜の方を見る。
「無いって……どうするんですか!?資料が無いと、描けないじゃないですか!!」
「そ、そんなこと言ったって……今日の朝カバンの中に入れて、それから一度も出してないんだから!!」
絵菜が両手を前に出し否定するが、アニメーターはずかずかと絵菜に近づく。
「でもカバンの中に入ってないんですから、失くしたんじゃないんですか??」
「そ、そんなことあるわけないでしょうが!!今日のためにわざわざ別の鞄を用意してその中に入れてたんだから!!」
二人の様子を見た歩美が絵菜に近づくと、きりっとした顔で、絵菜の方を見た。
「絵菜ちゃん、今日の朝に確認したっていうのは、何時ぐらい?」
「今日は早めに学校に来たから七時半……くらいかな」
絵菜が上を向いて思い出す、紗季は歩美と絵菜の方を離れて見ながら言った。
「それから一度も確認しなかったの?」
「だって、先生に見つかったら没収されるし……後ろの鞄に入れたまま、ほったらかしにしてたよ」
「なるほどね。じゃあ、失くしたって線は無いのか」
「盗まれた可能性が高いよ」
歩美がそう言った瞬間、絵菜は恐ろしい形相になった。
「はあ!?誰がやったの!?」
「とにかく、ここは私たちに任せて、歩美は探偵、私はその助手だし」
「でも、見つけるまでの間、どうやって作業するんですか?俺たち、明日から作画を始める予定でやってたのに、このままだと、放映日を先延ばしにするしか……」
歩美は顎に手を考え、眉間に深い皺を寄せた。そしてしばらくしてハッとすると、
「ここって、紙ある?」
「ああ、昔はアナログで作業していたので、大量に余ってますよ」
「じゃあ、絵菜ちゃん、そこにキャラクターの設定を書いていって」
「え、でも……」
「絵は得意でしょ?私達がその資料を見つけるまで、皆に説明してね」
歩美と紗季はそう言って、部屋を出て行った。
「……よし、じゃあ早速、紙を用意して。筆箱と色鉛筆は持ってきてるから、すぐ描けるよ」
「ほんとにできるんですか?」
「プロ、舐めないでもらって良いですか?」
絵菜は真剣な顔になると、カバンから筆箱を取り出し、さっそく紙の上でペンを走らせた。
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