天界決戦編
第45話 決戦開始
その日のうちに、一同は再び山の下に地下空間を作り、それぞれの準備を始めた。決戦の日は近い、強くならなければ。とカンダタ達は決意を固める。
「さて……貴方のあの形態……それを強くする必要があります。」
ウリエルは、真顔でカンダタに説明を始める。
「おう……で、どうするんだ?」
「これです。」
彼はそう言うと、自身の懐からとある装置を取り出した。それは、黒い正四面体だった。なんだ、とカンダタが首を傾げる間に、ウリエルはそれに取り付けられたスイッチを押した。すると、彼らの周囲に白い壁が広がり、一瞬にして果てのない空間を作り出した。先ほど壁だったものは地平線へとかわり、空は真っ白に染まっている。地面は光沢一つない真っ黒な色。その極端な2色が、殺風景な雰囲気を演出させていた。
「この装置は
「精神と◯の部屋って事か。」
「それは言ったらダメなやつですって。」
ウリエルは、カンダタにチョップを喰らわせる。
「んで……どうやるんだ?」
「貴方のあのブラックエンジェルという形態……あれはその刀との共鳴によって成せるものですね?」
「まあそうだが……」
「その刀との共鳴のため……瘴気のリンクを高めるんです。それと同時に、貴方の潜在する瘴気を目覚めさせる。」
潜在する、瘴気。それを聞いて、カンダタは眉を顰めた。これ以上、自分に出せる瘴気などありはしない筈だ。潜在すると言われても。
「いいえ、あります。人にリミッターがあるように、貴方には眠っている瘴気がある。それを意図的に出せるようにします。」
「んで……どうするんだよ?」
暫くの間、沈黙が広がる。そしてそれを破るように、ウリエルは笑顔を浮かべ、
「つまりは殺し合いです♡」
と人差し指を上に向けて言った。そして彼は燃える剣を引き抜くと、ズンズンとカンダタとの距離を詰め始める。
「お、おいおい待ってくれよ心の準備ってやつが……ほら……な?待てってば!怒るぞ!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい衝撃波が、その空間に響き渡った。
「で、相談って何?」
アテナは、自身を呼び出したマカに対して質問を投げる。彼女は大きくアテナに頭を下げると、
「私に神性の使い方を教えてくれませんか?!」
と懇願した。
「なるほど……どうして?」
「私は……堕天使です。一応は天使の括りに入るはず。なら、神性を使う事で、より強くなれる。」
「……強くなりたい理由は?」
「力不足な私じゃダメなんです!カンダタさんに頼りきりじゃ……きっと……」
その言葉を聞き、アテナは気がついた。そうか、マカは……彼女は、カンダタを……。ニヤリとアテナは笑みを浮かべると、マカの首の後ろに腕を回した。
「よーしよし……協力してやろうじゃないの。取り敢えず来なさい。教えてあげる。」
彼女はマカの首の後ろから腕を離すと、空間の奥へと手招きした。
「さ、そこに坐禅なさい。」
彼女は、影のかかった暗い場所を指差し、マカに支持する。マカは言われるがままに、その場に座禅を取る。
「いい?神性というのは瘴気とは対になるものなの。イメージの力ではなく、本質の力。つまりはイデアね。イメージの原型を捉えるの。己に流れる力の本質を捉える。」
マカは目を瞑り、集中する。イメージの本質、原型……己に流れる力……雑念を殺し、それを捉えていく。
「そう。その調子。顕微鏡で覗き見る感覚よ。」
……その時だった。長髪の、角を頭に生やした悪魔のような風貌の男が、彼女の頭に浮かんだ。なんだ、これは。一体、これはなんだ?それに向かって手を伸ばす。遠くのそれを掴み取る…………その時、彼女は現実に引き戻された。
「はあ!!はあ……はあ……!」
ダメだった。イデアとやらを捉えるのはこうも難しいものなのか。
「……中々難しいわね。まあゆっくりやりましょう?」
アテナはため息をつきつつ、苦笑を浮かべてそう言った。
…………………………………………………
「納言……君はどうしたい?」
美琴の問いに対して、納言は沈黙した。自分が何をしたいのか、ここに来て何も答えが出せていなかった。
「君はさ、アテナの力になりたくてここに来たんだろ?それくらい自分で決めなきゃ、スマートな男にはなれないぜ?」
「でも……僕が役に立つでしょうか?打たれ強さ意外に取り柄がないし……」
「それで十分さ。取り柄がなくても人は役に立てる。一つでもあれば最強だぜ?」
「美琴さん。」
「美琴ー。」
会話をする2人の後ろから、牛頭と馬頭が話しかける。後ろに振り返った彼らに対して、2人は話を続ける。
「どうか、戦い方を教えてくれませんか?」
「私たち、知ってる。美琴、実は最強。だから、鍛えて。」
それを聞いた美琴はフッと笑うと、ゆっくり立ち上がった。
「仕方ない。ビシバシ鍛えてやろうじゃないか……」
「あの!……ぼ、僕も……ご一緒させてください。」
美琴の話の途中で、納言は勢いよく立ち上がると、頭を大きく下げた。美琴はニヤリと笑うと、
「待ってたぜ、納言。」
とそれに対して言った。
「先輩に、任せなさい。」
馬頭は、自慢げな表情で納言にそう言った。
そして各々は、自身の能力を高めていった。決戦の日まで残りわずかだろう。だが、そんな本来緊張し切った状況の中でも、一同の精神は安定していた。
白い空間の中、ウリエルは自身の右肩についた傷を見る。カンダタがはなった斬撃は、本来壊れるはずのないその空間を両断してしまった。なんて威力。これが、彼に眠る力。あまりに圧倒的なその威力に、ウリエルからは思わず笑みが溢れていた。白い空間は瓦解し、2人は元の場所へと戻された。
「あー……すまん。やり過ぎた。」
カンダタはウリエルに近寄ると、肩についた傷を痛々しい目で見る。
「大丈夫ですよ。こんなの、瘴気で……ほら。」
ウリエルは、自身の傷を瘴気で治療すると、
「取り敢えず休憩にしましょう。流石に疲れました。」
と言って、カンダタを連れてその場を後にした。
その日の夜、アテナはマカと共に、即席で用意されたベンチに座っていた。
「私ね……カンダタがああやってみんなを殴ってくれた時……凄く救われたのよ。」
それに対して、マカはどこか嬉しそうな表情で答える。
「私もです。……カンダタさんが私の代わりに怒ってくれた事があって……それが内心嬉しかった。彼は暴力的だけど……だけど同時に……」
「誰がボーリョク的だこんにゃろめ。」
と突如後ろから話しかけてきたカンダタに対して、2人はビクッと肩を跳ね上げた。
「びっくりしたあ!!いきなり話しかけないでよね!」
アテナは、バクバクと鳴る動悸を抑えながら、カンダタに激しいチョップをくらわせた。イテ、と彼は声を漏らす。
「で、なんの話してたんだよ?」
「何でもないわよ、あんたが非常識って話!ほら、マカ。いきましょう!」
アテナは、マカの手を引くと、自身の部屋に戻っていってしまった。マカはそんな状況を前にし、思わず吹き出してしまう。アテナもそれに釣られ、笑い始める。カンダタは、それをポカンと眺めるだけだった。
「ったく……人の悪口ぐらい人の前で言ってくれよなあ。」
ボリボリとカンダタは頭を掻きむしり、その場を後にした。
そして次の日、作戦会議が始まった。ウリエルはバン、と机を叩くと、広げられた地図に線を描いていく。
「まず、塔へは3つのルートを経由します。3組に別れて行動して、ここから塔を目指します。……塔には、12神の神器が必要です。分かりますね、アテナ様。」
ウリエルの問いに、アテナはコクリと頷き、説明をする。
「私が塔に真っ先に向かっていくから、皆んなはそれを支援する形でついてほしい。良いわね?」
一同はそれに頷く。
「決戦は2日後。それまで英気を養う事です。それじゃあ、解散!」
一同は、バラバラに解散していく。その中で、額だけがその場に残っていた。それを不思議に思ったアテナは、彼の方を見る。
「やあ、アテナちゃん。」
そう言った額には、どこか力が篭っていなかった。
「何よ、額。怖がってるの?アンタらしくもない。」
「いや……戦争を仕掛けるのは久しぶりでね。緊張してるのさ。」
彼はそう言ったが、とても緊張しているようなら見えないほどに、その表情はどこか悲しげなものだった。
「ま、アンタの秘密を探ろうって気は無いわよ。……ここにいる人たちは強いわね。戦いへの覚悟をみんなしている。」
「覚悟なんかしてないさ。みんな見て見ぬふりをしてるだけ。殺し合いってのはそういうものなのさ。」
「アンタも大変ね、色々と。」
アテナはフッと笑うと、そう言った。
「はあ……確かに情けないね、僕ともあろうものが。」
額は、若干の笑みを浮かべてそう独り言をつぶやいた。
2日後……
「みなさん、準備は良いですか?」
険しい表情で、無線機越しにウリエルは言う。オオオオオオ、と周囲から歓声が上がる。
ウリエルとマカ、額の陣営、美琴と牛頭、馬頭、納言の陣営。そしてアテナとカンダタの陣営。それぞれは覚悟を固め、一斉に飛び出した。
『塔の入り口には壁があります……それを爆弾で破壊してください!』
無線機から聞こえるウリエルの指示と同時に、一斉に爆弾が投げ込まれた。ドゴォォォォンという爆発音と共に、壁が破壊される。そこにできた穴を、それぞれは通り抜けていく。
「……来るぞ!」
塔から、大量の天使たちが飛び出していく。カンダタの目の前に、1人の天使が着地した。
「よお、お前らが反乱軍ってやつか?」
それは、短髪にサングラスをつけ、槍を片手に携えた天使だった。その天使は、言葉を続ける。
「名乗らないのは俺の流儀に反するんでな……名乗らせてもらうぜ?俺の名はガブリエル部隊副隊長、ドライガル・スパナ。お前の名は?」
「……カンダタ。それだけだ。」
カンダタはそう言うと、自身の刀に手をかけた。
……………………………………………
「やあやあ、反乱軍諸君?ごきげんよう。」
細身な天使は、牛頭と馬頭、美琴、納言の4人にお辞儀をした。
「私はアストラル・エアスクライド。ミカエル部隊の副隊長です。以後お見知り置きを。……何より、知る必要もないですがね。」
アストラルはそう言うと、剣を腰から引き抜いた。うねうねと唸る剣先には、説明不可能なほどの殺意が眠っている。だが、それでも彼らは怯まない。
「それは……」
「こっちの……」
「セリフだよ。」
牛頭、馬頭、美琴の3人はそういうと、それぞれの武器を取り出した。
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