第28話
「調べてみてわかった事は、副ギルドマスターは……ハンターギルド以外の仕事を、一生懸命頑張っているってことだな」
『違う仕事をしている場所が、ハンターギルド内というのは問題ですね』
副ギルドマスターは、ハンターギルドで犯罪行為を含むサイドビジネスに勤しんでいたのだ。
それでハンターギルドの仕事を疎かにしているのであれば、何の問題もなかったのだが、金になると嗅ぎつけたことには顔を出して、利益を貪りつくす……最悪のクズだった。
高ランクのハンターは、それを理解しているので、金になる話はギルド内ですることは無く、無知なハンターやハンターではない人間から、搾取するようなタイプだった。
それでも辞めさせられないのは、副ギルドマスターとして優秀な面もあることと、出自の問題でなかなか辞めさせられないらしい。
出自……上流階級の出らしく、下の人間から搾取するだけでは、このタイプのお偉いさんは辞めさせられないようだ。犯罪でも犯してくれればいいのに……って、ギルド職員がつぶやくくらいだからな。
まぁ、犯罪の証拠を上手く隠しているので、優秀ではあるのだろう。だけどさ、その証拠……ナビィには簡単に見つけられちゃうんだよね。
俺は、搾取されたあげく、行方不明者になるのは嫌なので、副ギルドマスターを排除することにした。絶対にトラブルになるのは目に見えているからな。
ギルドマスターは真面目な人間なようなので、この人に副ギルドマスターを排除してもらう。相手が上流階級の出であっても、本人にはその地位が無いので、ギルドマスターなら問題なく捕まえてくれるはずだ。
ギルドマスターも、こいつを排除したがっているのは分かっているので、その情報を教えてあげようじゃないか。
「排除する方向は決まったけど、どの情報を流して信用してもらうべきだろうか?」
『ギルドマスターには、ご息女がいますので、人身売買で特に少女を相手に、非人道的な行いをしている映像を撮っている奴がいいのではないでしょうか?』
「それって、副ギルドマスターが撮ってるのが分かるの?」
『全部ではありませんが、映像を撮って一緒に遊ぶオプションもあるようで、ノリノリ参加している映像と、その映像の保管場所、他にも犯罪行為をしていたという証拠の在処も知らせましょう』
娘がいるなら、そういったタイプの映像を見れば、確実に処理してくれそうだな。
ただ、俺はこの時一緒に遊ぶというのが、男女の関係で行うアレだと思っていたのだが、精神異常者と思われるような行為を行っていた。
俺にあえて知らせる必要はないと、ナビィが映像を見せないようにしていたのだが、たまたま少し前のニュースとして、報道されたモノを見る機会があり、嫌な気分になったというものだ。
ナビィが厳選した情報を送りつけるために、今日は久しぶりに通信機を持ってブロックバーの配給場所へ向かった。
何が入っているか良く分からないブロックバーを貰い、いつもの場所でナビィに情報を送ってもらっていると……
「おい、クソガキ。何でこんなところで座ってる?」
タイミングが悪い事に、自分たちの縄張りを見回っている集団に見つかってしまった。
「す、すいません。疲れて休んでいました。すぐに退きますので、許してください」
俺に声をかけてきた、リーダー格のような男が、俺の体……というよりは、持ち物が気になったのか、
「待ちな。詫び代として、そのかばんに入っているモノを置いていけ。それで今日の事は許してやる」
通信機が……
『リュウ、この通信機はデータを送り次第、使えなくしておきますので、気にしなくても問題ないです。この通信機を使った記録を、目の前の男のパーソナルデータで書き込んでおきます。
この通信機で何かトラブルが発生しても、リュウにたどり着くことは無いので安心してください』
それだと、こいつに何かあった時、報復対象にならないか? 八つ当たりとかさ?
『使えない通信機を持っていたスラムの孤児に何ができると思いますか? それに、この通信機関連で捕まった場合、街の上層部の人間たちは、簡単に調べてこいつを処刑するので、八つ当たりされることはありません』
おうふ。思ったより危ない事をしているんだな。
それはあえてナビィがこの通信機に、リーダーっぽい男のパーソナルデータと通信ログを改ざんして記録を残したようなので、脛に傷を持っているお偉方は、何かあれば通信ログを見てこいつを処刑するだろうだってさ。
俺は大事そうに通信機を取り出すと、リーダーっぽい奴の顔が汚い笑顔を見せた。カモを見つけた悪党だな。
一緒にブロックバーを落としてしまったので、拾ってカバンに入れようとすると、
「おい! カバンの中の物を寄こせと言っただろ? そのブロックバーも俺のものだ。出せ!」
慌てて出そうとするも、
「人の物を盗もうとするとは、悪いやつだ」
そう言って、腹をおもいっきり殴られた。ヤンキーとかが上下関係を叩き込むためにやる、立て座れゲームみたいだった。
地域によって違うだろうが、ズボンのポケットに両手を突っ込み、2人以上のヤンキーが「立て」「座れ」といって、いう事に従えなかったら、殴ったり蹴ったりするやつだ。
要は、理不尽な暴力を受けたのだ。
俺の物を奪っておいて、拾ったら盗んだと判断してボコる……本当に理不尽だ。
この暴力をやり過ごすために、俺は亀のように体を丸めて守ることしかできなかった。
10分程殴る蹴るを続けていたが、気が済んだのかカバンごと持ち去ってこの場を立ち去った。
普通なら死んでもおかしくなかったが、体内に回復薬のナノマシンが少し残っていたようで、痛みを和らげたり致命傷にならないように直したりしてくれていたようだ。その指示を出したのがナビィらしく、感謝だな。
痛む体を引きずってアジトへ戻る。
『リュウ、すぐに回復薬を2~3錠飲んで。痛みが多少取れたら、缶詰をいくつか持って下水道へ降りなさい』
ナビィが初めて、強い命令口調で俺に指示をしてきた。
言われた通りに回復薬を飲み、体の痛みがひいたところで、缶詰を3個持って下水道へ降り、それを食べた。
ナビィが缶詰を食べろと言ったのは、いくらナノマシンでも無から有を作り出すのには限界がある。ナノマシンが、身体構造を補強している間に、栄養素……食事をして、その栄養を使って体を元通りにするそうだ。
だからか……荷物を運んでいた時に、異常にお腹が空いたのは、このせいだったんだな。
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